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帝都:アドルフとヴァンでした!

沢山のブックマーク、評価、感想ありがとうございます。


別れ・・・そして、二人の正体・・・。


次話投稿は一週間以内です!

 帝都ヴォーゼニスは祝祭も終わりを迎え、前に来た時よりも幾分か落ち着いていた。露店が立ち並んでいた区域には以前ほどの活気はなく、どこか硬さを感じる街並みだけが広がっている。


 祝祭の日は浮かれていた空気が帝都を覆い隠していたが、それも過ぎてしまえばそこに残るのは帝都と言う国だ。

 戦争で名を馳せ、未だに隣国との戦争を続けているヴォーゼニスの街並みは、王都とは違ったピリッとした空気が流れている。


 住民達は、祝祭が終わり物悲しい空気に包まれた帝都を眺め、残念そうに後片付けに勤しんでいる。

 しかし、都を巡回する兵士達はやっと祝祭が終わったかと、どこかほっとしている。まぁ、無理もないだろう・・・多くの人間がヴォーゼニスへと訪れ、そこいらに問題の種をばら蒔くのだから兵士は気が気でないだろう。


「やぁ、ごめんね。色々と手続きに手間取って遅れてしまった」

「すまないな。どうしても外せない所用だったんだ。許してほしい」


 ヴォーゼニスの街の一角にある、剣のシンボルが刻まれた石碑の前で大きく延びをしていると、唐突に背後から声をかけられた。


 この帝都で俺に声をかけるのはまぁ限られている。

 シロタエかコトヒラ、ハンゾーに後は二人だけだろう。


 後ろを振り返ってみれば、そこには金色の髪に爽やかフェイスの青年と、長く青い髪をたなびかせた長身の男性が此方へと歩いてきていた。


 言うまでもないが、アドルフとヴァンだ。

 あの騒動の後、二人は森に色々と散乱していた()の処理や、賊の遺品の確認等を行った。そして二人は直ぐ様帝都に戻ったわけだが、大半の賊は全て帝都の兵士とは関係はなく、偽装を図ったものだと言うことが判明した。


 だが、大半(・・)であり全部ではない。

 ハンゾーが俺に伝えた腕のたつ隊長格の五人は、あの豚貴族の私兵・・・つまりは帝国の兵士であったそうだ。とは言っても、あの貴族が好きかってやっていたせいで、出自も不明であり、正式な兵士と認められていない者だったそうだ。


 その五人は既に俺達が殺してしまっていた為、事実確認のしようもない。だが、恐らくではあるがどこぞの傭兵崩れか何かだろうとヴァンは言っていた。


 ・・・アドルフとヴァンとは今日で別れる事になっている。

 二人とも正式に帝都の兵士に任命され、これからは帝都の為に身を捧げる事となり一緒に冒険することはできない。


 そもそも二人は兵士になる為に冒険者をしていた。短い付き合いになるのは何となくわかっていたけど、やはり寂しいものはある。


「仕方ないよ。兵士の仕事があったんでしょう」

「・・・あ、あぁそうだったね」

「う、うむ」


 なんだか二人とも挙動不審になって、目線を合わしてくれないんだけどどうしてだろう。


「主君、馬車の時間までもう少しです。申し訳ないのですが・・・」


 シロタエが馬車の時間が迫っている事を告げる。

 俺達はこれから一度里へ戻って、また何処へ行くかを話しあう。帝都ではかなり有意義に観光を楽しめた事だし、また何処かの国へ行ってみようかと思うんだけど、ユリィタさんかアンネさん辺りに聞いてみたらいい所を知っているかもしれない。


「ユガ達は・・・えっと、里に戻るのかい?」

「うん。後は、また何処へ行くかを皆で話し合ってみてから決めるよ」


 アドルフはジッと此方を見据えてから、それなら・・・と懐に手を入れ一枚の封筒を俺に手渡してきた。


「えっとね、『マルタイル』っていう街があるんだ。そこはどこの国にも属していなくて、魔族の領土と人の領土とを隔てる丁度境に位置する街なんだ。元は魔族に対抗する為に建てられた城塞都市だったんだけど、今では魔族と人間とが共生する街になっているんだ。ちょっとばかし入るのが難しいんだけど、紹介があれば入国できるはずだから、これを持っていけばいいよ」


 どうやらこの封筒は、入国を簡単に済ませる事が出来る紹介状だそうだ。

 俺達が色々な国を回っていることを知ってアドルフとヴァンが冒険者ギルドに掛け合ってくれたそうだ。封筒にはギルドの封蝋が押され、その紹介状が偽物でないことを示している。


 帝国の兵士となったアドルフとヴァンは冒険者としても実績があり、兵士となったことで一定の信頼を得る事が出来たらしく、紹介状の手配程度であれば融通が利くそうだ。


 ・・・魔族の国と人間の国の境界に位置する街『マルタイル』。

 そこには多くの魔族と人間が街中行き交い、勿論魔族だからと言った差別はなく、人間と魔族とが手を取り合っている唯一の街であるらしい。

 元は人が迫り来る魔族の脅威から自国を守る為に建てた城塞都市であったそうだが、魔族との停戦が成された今は平和な街であるらしい。


 しかし、その町に入るにはかなり厳密な審査があるらしい。

『魔族』に対して差別がないか共生する事に対抗はないか、『人』に対して忌避感がないか凶暴性が見受けられないかといった審査であり、これらがかなり厳密に行われるそうだ。


 というのも、停戦が成され共生が始まった頃は色々と問題があったそうで、移民を好きに受け入れていた当初は魔族と人間とで衝突することもあったそうで、内戦にまで至りかけたことがあるそうだ。

 ・・・しかし、その都市を『魔族』である何者かが統治し始めた頃から、そういった厳密な審査が施され、諍いは徐々に沈静化していったのだそうだ。


 そんな街であれば是非とも行ってみたい!!


 俺の目標がそこにあるんだ!!

 魔族・・・そして魔物である俺達とエルフ、そして人間とが共生する街を作り上げる。

 そして垣根を越え完全に差別がなくなった後は、この異世界を巡るキャラバンとして多くの魔族と人とで旅をしたいんだ。


「是非行かせて貰うよ!!」

「それはよかった・・・君には恩を返しても返しきれないからね」

「喜んでもらえたなら何よりだ・・・まぁせめてもの罪滅ぼしだ」


 二人とも嬉しそうな顔を浮かべ・・・何故だか後半は暗い表情を浮かべた気がするが、きっと気のせいだろう。


 馬車の停留所へと足を運ぶ・・・予約を取っていた馬車は既に準備が整っており、シロタエとコトヒラは別れも適当にさっさと馬車に乗りこんでしまう。


 俺はもう一度二人に分かれを告げ、馬車に乗り込む。


 ゆっくりと馬車が進み、カラカラとなる車輪の音を耳に、手を振って見送ってくれるアドルフとヴァンに手を振りかえした。



 -------------------------------------------------・・・



 side アドルフ・ヴァン・・・?


 初めてできた仲間の姿が離れていく。手を目いっぱい空に向け、ひらひらと遠ざかっていく馬車へと二人は、馬車が見えなくなるまで手を振り続ける。


 その瞳には純粋に別れを惜しむ人の目が伺い取れる。


 清涼な風が二人の頬を撫で、寂しげな雰囲気の中、二人の男は祝祭が終わった後の閑静な街の中に佇んでいる。にっこりと微笑んでいた笑顔を止め、はぁと小さなため息が二人から漏れ出る。

 ・・・二人の間を沈黙が訪れ、お互いが目線を合わせながらも言葉を交わさずにその場に佇んでいる。


「あんなものを渡してもよかったのか? 中を開けられればあの書状からお前の正体が割れてしまうぞ?」

「ははは、それは君もじゃないか。わざわざ実名を出してまであの招待状を作ったんだから、あの子はわからなくても、周りがきっと気付く筈だよ」

「それもそうか・・・」


 二人は苦笑を漏らし、今し方自分達に手を振っていた魔族の消えていった方向へと目を向ける。

 二人はどことも知れずにゆっくりとした足取りで歩き始める。二人は終始無言・・・何も話さないままゆっくりと歩き、ふと目についた酒場の中に入る。


 まだ昼間の為か人は少なく、酒精もなりを潜めてはいるが夜になればたちまちの内に酒精が入り乱れる酒場となるだろう。

 二人は店の端にある席に座り、安いエールとつまみを頼む。


 ・・・エールとつまみが付くまで、二人はやはり会話を交わすことはない。


 エールが机の上に運ばれ、二人はそれを手に取り始めて言葉を交わす。


乾杯エリーシュエ

乾杯ベテドゥラム


 二人はニヤリと笑い、一気にエールを煽る。


「さぁて、杯を交わしたんだ。あんたから話し始めればどうだ。位から考えても俺が話すというのもなんだろう」

「ははは、そうだね。それじゃあ・・・何から話せばいいのかな。元々は視察のつもりで来ていたんだけどね・・・後はちょっとした息抜きのつもりだったんだけどこんな事になるとは思ってもいなかったね」

「それは俺にも言えた事だな」


 二人は苦笑を漏らし、机の上のつまみを手に取り口に運ぶ。

 二人はチープな味に物足りなさそうな顔をしてもう一度エールを煽る。


「シロタエさんが作ったあのベントウ?の試作品の方がよっぽど美味しいや」

「それは違いないな。ユガに作る試作品だと食べさせられたが、あれほどおいしいのはでも食べた事がなかったな」

「僕も食べた事なかったな」

「面白い冗談だな。あんたであれば、贅を尽くした食べ物をいつでも食べているだろうに」

「贅を尽くしても、中身は空っぽだよ。意味のある食べ物を食べなければだれだけ贅を尽くしたって一緒さ。それに僕は贅沢は嫌いでね・・・節制しているんだよ」


 金髪の青年は眉根を寄せ、わざとらしく首をフルフルと振るう。

 青い髪の男はそんな青年の様子に笑い、人の悪い笑みを浮かべる。


「ほぅ。金の沙汰で何人も殺したというのは本当だったか」

「・・・金の沙汰だけではないけれど、間違いじゃないから否定しようもないね。僕の手元に使えないものはいらないんだよ。でも君も主人の為なら何人も・・・いや、何百人、何千人も殺してきたじゃないか」

「違いないな。俺もあんたも『血』という言葉に関しては縁があるようだ」


 二人は眼を見合わせ黒い笑みを浮かべながらクックッと笑いあう。二人の放つ異様な空気に、店の従業員がいぶかしげな表情を浮かべるが、次の瞬間にはそんな空気は鳴りを潜め、二人は目を伏せている。


「さすがに自嘲した方がいいな」

「人前だからね・・・で、あれに対して君達・・は本当に関わりは無いんだね」


 そして、金髪の青年の瞳に黒く淀んだ何かが過る。対面に座る青髪の男に対して容赦のない視線を浴びせ、心の奥底を見透かす様な瞳を向ける。

 しかし、常人であれば動揺を隠しきる事のできない眼差しを向けられても、青髪の男は全く動じずにエールを煽る。


 青髪の男は金髪の青年に目を向け、口を開き告げる。


「俺達の関与はない。俺がここにいるのも唯の偶然だ・・・あの豚の下にいたのは我々の部下ではない。なにより、あの者達はかなり以前から豚の下に居付いていたのだろう? あんたの目を掻い潜って、情報のやり取りをこなすのは不可能に近い」

「できなくはないよね」

「今、事を進める余力は俺達の下にはない。利点もない」


 青年は男の瞳をジッと覗き込み、次いで目を伏せ、疑って申し訳ないと謝罪する。

 青年は薄目を開け、目線を宙に泳がせる。一度は男を疑て見せたが、恐らくはおおよそ見当がついているのだろう。


「十中八九、隣国の兵ですね。まぁ、捕虜から殆ど聞き出してはいたんですけどね」

「そうか、脅され損だな」


 没落貴族がおこしたあの一件・・・あれには腑に落ちない点が幾つも見受けられた。没落貴族には私財の一切を押収され、裁判によって一族郎党全てが貴族位を剥奪された。

 それに応じぬ者は軒並み打ち首となり、その筆頭格の者は剥奪に強制的に応じる形となり、帝国の外へと放り出されたわけだ。


 そして、没落貴族の性格も最低最悪の一言に尽きる。

 統括する領地は飢えに苦しみ、重税を課した事による領民の反感、国力の低下、徹底した貴族従位姿勢は人として落ちるところにまで落ちた低俗な豚だ。


 そんな豚に、ましてすべての権力塗材を押収された者に付いて行こうとする兵などいるわけも無い。

 しかし、一人の兵士だけが奴につき従った。それが隣国のスパイだったのではないかという事だ・・・そして、あの森の中でも傭兵に紛れ、奴の手下であろう存在も確認できていた。


 そしてその中の一人を青年は捕虜として捕らえ・・・拷問したというわけだ。


「僕だけ話すのも悪いね・・・君は何故帝国に来たんだい? あれ(・・)は君たち側の都合で無くなった筈だけど」

「・・・ちょっとばかしいざこざがあったらしくてな。戻ってみればいざこざは解決されているし、それの対処に時間が掛かるそうで、ちょっとばかし休暇を貰ったんだ。それでちょっとばかし遊びに興じようと冒険者になってみれば、今こうして何故かあんたと俺とが酒を交わしているわけだ」

「ハハハ、普通なら相容れないはずの僕と君が・・・ね」


 二人は何杯目かもわからないエールを飲み席を立つ。

 代金を机の上に置き、店を出る。


 二人はまたも何も言わずに歩き始める。


 帝国を一望できる高台へと足を運ぶ。

 既に陽は沈み始め、陽は空を赤く染め始めていた。橙色に染まる街を二人で見下ろし、次いで目線を合わせる。


「一時の夢の様だな」

「次に会う時があるとすれば、正式な会談の時か・・・戦場かな」


 二人の視線は帝国の街に投じられたまま、目線は次第に違ってゆく。


「そろそろ僕も・・・いや、も戻らねばならぬのでな」

「俺も・・・いや、私も職務に戻らねばなるまいな。今までの非礼、お許し頂けますよう・・・」

「・・・一考しよう」


 二人は笑いながら、もう一度視線を交わす。


「ではな。『王国騎士長:【永血】ヴィンセント・ヴァンク・アドナリア』」

「またお会いできる日を楽しみにしております。『皇帝:【渇血】ヴェドモンド・アーデレリアル・ガーランド』」


 金髪の青年は、鎖で雁字搦めにした黄色の鉱石のアクセサリ・・・『変姿の鉱石』を首元から外す。


 すると、青年の髪の色は銀色のそれへと変色し、肌は病的なまでに白く、深い蒼の瞳をした人物へと変貌する。

 切れ長の瞳の下には大きなくまが残っている。瞳にどす黒い炎が渦巻き、【渇血】の存在が悠然と帝国の高台に現れる。


 対する男の瞳には、燃えるような闘志が込められ、纏う空気は英雄を超えた人間のそれへと変貌を遂げる。身体から発せられる闘気が物理的な力の奔流となり、場を支配する。


「はぁ、私がこの『異状除けの瑠璃石』を持っていなければ、分からなかった所ですよ。王はよく私が騎士長だとわかりましたね」

「いつもお前はフルフェイスの兜を被っているからな・・・だが、我の『見識眼』からお前の身元は全て割れている」


 二人は不気味に微笑み互いをジッと睨み合う。

 

 夕陽が二人を照らし出したのも束の間、夕闇が訪れ、二人の姿を隠す。


 二人は互いに背を向け、歩き始めた。

ハーピー観察日記

1:全員爆睡


宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!

遠慮なくこの物語を評価して下さい!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!


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