帝都:結婚式と旅立ちでした!
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チェルスレイクを旅立ちます。
次話投稿は一週間以内です!
空を覆い隠し、陽の光を完全に遮断していた厚い雲の層は今や姿を見せず、ポカポカと辺りを照らす光が大地に降り注いでいる。
吹き抜ける風は・・・しかし、清涼な風とは程遠く、それには多くの不純物が混じりあっていることがわかる。
風に混じる人の熱気、喜怒哀楽といった感情がそこかしこから溢れ出し、それが酒気と共に街の中を延々と駆け巡る。
いつもであれば漁師は湖へと船を出し、商人は他の同業者に負けじと声を張り上げ商売をする。
子持ちの主婦達はそんな商人達の戦場へ足を踏み入れ、朝に獲れたばかりの新鮮な魚を求めてその検眼を奮う。
だが、今この街を渦巻く熱気は商人達の声よりも、更に凄まじい活気に包まれている。
あちこち怒声にも似た声が上がり、彼方此方から誰とも知れない叫び声が上がる。
いつもの通りは溢れんばかりの人で混雑し、前へ前へ進もうと足を踏み出せば、初めは細身の者達ばかりであったのが、どんどんがたいの良い漁師達へと変わってゆく。
・・・うん。恐らく、前にいるのは人を押し退ける戦争に勝った者で、後ろにいるのは敗けた者達なんだろう。
殆どの道はそんな戦場で打ち勝った者と、敗けた者とで構成された薄汚い道なのだが、たった一本、街の中でも一番幅が広く大きい唯一舗装された道だけが人がいない。
・・・いや、人はその道を沿う様にしているのだから当然だ。
前へ足を踏み出し、戦争に打ち勝った者が見れる光景は、道の反対側で同じく打ち勝った者達と、綺麗に舗装された道・・・そして、道を確保している兵士だけだ。
いったい何が起こるのだろうかと思えば、その舗装された道を、綺麗に隊列を組んだ兵士達が足並みを揃えて進んでいく。
その兵士達の中心には、華美な装飾で彩られた馬車があり、馬車に乗った誰かの姿が伺える。
馬車に乗っている人の姿は二人。
爽やかな顔立ちに切れ長の瞳、グレーの髪にしゅっとした目鼻・・・所為イケメンである男性が傍らに乗っている。
そしてその隣には、黒髪であり身体の起伏はあまりないものの、非常に整った顔立ちに、睫毛が長く妖艶さに満ちた瞳・・・されど真っ赤に染めた頬が大人びていると言うよりかは愛らしい一言に尽きる更に・・・ウンタラウンタラとは父親から聞いた話。
そして二人の男女を乗せた馬車が、遠くからこちらに近づいてくるにつれて人の歓声は波の様に大きくなっていく。
声だけでなく人の動きもうねり、全線を維持している筋肉達磨達の筋肉が擦れて蒸気を上げる・・・気持ち悪い。
そして多くの花が道に投げられ、それを機に人々の怒声は一気にピークを迎える。
一人一輪、道に花を投げ込み、人々の手によって彩られた花の道の上をゆっくりと馬車が進んでいく。
誰がしたかはわからないが、悪ふざけかで魚が投げ込まれていたのには驚いた・・・流石に兵士が回収していたが、一人だけ魚を持つ兵士は如何とも。
そう思っていると、馬車から身を乗り出したイケメンの男が、その兵士から魚を受け取り、
「なんと立派な『花』だ!? 今宵の晩餐は我が妻がこれをさばき、俺の胃の中に収まるのだろうか!?」
争った過去のある帝国の貴族。いくら自領の伯爵の娘と結婚したとはいえ警戒していた人もいた。
しかし、その貴族が言い放ったジョークで一気に警戒心は吹き飛ばされた。
二人の祝福を願う歓声から一転、その場は笑いに包まれた。
その貴族を乗せた馬車は街を一周し、街の中で一番大きな教会の前で停車する。
教会の前には多くの貴族の姿があり、男貴族の親族と伯爵の姿が伺える。
馬車から二人が降り、二人ならんで教会へ・・・いや、式場へと足を踏み入れる。
それに続く様に、貴族達も式場へと足を運ぶ。
前世とは違ったしきたりであり、式場へ先に足を踏み入れるのは結婚する者、そして参列する貴族は階級ごとに入場するらしい。
式は恙無く終わる。
予定よりも二日遅れての式となり、遅れてしまってたことで混乱するかとも思ったが、街の市民には『前夜祭』ということで酒が振るわれ、式が始まる前から街は受かれていた。
そして、最後は街の市民や貴族を含め、全員の前で誓いのキスを交わし終わりを迎えた。
・・・で、俺達はヘットヘトになりながら豪華なリビングで項垂れているわけだ。
伯爵の目元にも深いクマが出来ており、とても生気を感じさせない死んだ様な目付きで椅子に腰かけている。
それもしかたないだろう。
結婚式少し前に花嫁と婿の二人が誘拐され、それを解決する為に西へ東へと奔走。賊を討伐した後は聞き取りやら後始末をし・・・かと思えば結婚式の中止を検討したが、正当な理由がなければ中止はできない。で、その理由を公表すれば交戦派の連中が動き、最悪戦争になってしまう。
ならば、延期は・・・と言えば、最悪でも三日までしか伸ばせない。
花嫁と花婿の両方は満身創痍、衣服の最終調整すら出来ておらずとうのエリーザ本人もボロボロ・・・式場の準備もままならず、プログラムさえ組めていない。貴族の招待状は半分も終わっておらず、もはや八方塞がりだった。
それをどうにかしたのが言わずもながな俺達だ。
シロタエは式の準備に奔走し、貴族の招待状のみならず式場の手配、プログラムの構築、各地準備の統括を担った。
貴族の招待状はニーディリア伯爵と共に昼夜を問わず書き、式場の手配やら安全面を考慮したプログラムを練りに練っての構築、私兵の手配を行い、『馬車の大元』つまりはウェルシュバイン領主に直接手配してあちらも不眠不休で準備を行ってくれた。
コトヒラは傷の手当てを行い、魔力が尽きるまで何度も何度も治療を行い、疲れを一時的に忘れさせる魔法でのドーピング係りを担った。
コトヒラの魔法のお陰で、一番被害を受けていた婿である花婿とエリーザさんは殆ど完治した。エリーザさんは本調子でないにも関わらず衣服の最終調整を行い、花婿の貴族はシロタエの手伝いへと奔走した。
俺とアドルフ、ヴァンは生き残った賊を捕縛し、それをニーディリア伯爵へと引き渡した。
アドルフとヴァンはこの情報が漏れない様に後始末を担い、俺はと言えばニーディリア伯爵とシロタエの手伝いを行った。
『前夜祭』を提案し、プログラムにも色々と手を加え、今回の延期の理由を『娘の為に趣向を凝らした故に、時間が掛かった』をしたのだ。
結果結婚式になんとか間に合った。
最後は婿でさえぶっ倒れていたが、コトヒラのドーピングによってなんとか持ちこたえることができたそうだ。
因みに、結婚式での魚の下りは意識が朦朧としていたらしい・・・結果的に良い方向へ進んだので良しとしよう。
で、現在はこの有り様だ。
死屍累々・・・けろっとしているのはシロタエくらいで、次いでハンゾーくらいだ。
結婚式は大成功。
ケーキ入刀や、花嫁の衣装などは光のごとく貴族の間を駆け抜け、結婚式でもないというのにケーキを注文する貴族が出て職人達は大忙しであり、エリーザさんの方にも依頼が掃いて捨てる程舞い込んでいるとのこと。
そしてそんな結婚式を害そうとした誘拐犯・・・賊は殆ど死亡したが、首謀者の元貴族はニーディリア伯爵の地下牢で捕らわれてるらしい。
結婚式の準備でそいつの処遇を後回しにしていたのだが、結婚式が終わった今、疲れがとれ次第『尋問』を開始するそうだ。
喚き散らしていた豚貴族の独断・・・とは思い難く、何かしら誰かが裏で糸を引いているのではないかということらしい。
疲れのあまりボーッとしていると、椅子にもたれ掛かっていたニーディリア伯爵が姿勢をただし此方へと視線を向ける。
「此度の件は世話になったな。お前達には感謝してもしきれない」
「あぁ、いやまぁ、乗り掛かった船ですしね」
「報酬は私にできることがあるのならばなんでもしよう。無論、金銭も望みの額を言ってくれ、娘の命を救ってくれ、戦争になりかけたこの国を救ってくれたのだ・・・私のできることならば出し惜しみするつもりはない」
ニーディリア伯爵が深々と頭を下げる。
そして報酬の話を口に出す。
恐らくそう来るだろうなと思って、既にシロタエと話をつけている。
金銭に関しては、俺の懐に入っている分は問題ない。旅さえできれば良いし、そこまで贅沢する必要もない。
俺が金を使うと言えば、馬車やそこいらの食べ物のみであり、有り余るお金があったとしても使いきることはない。
「そこからは私がお話しさせていただきます。ニーディリア伯爵様には、我が主の治める里の援助をお願いしたいのです」
「ふむ」
「金銭は必要ありません。必要なのは・・・」
まぁ、内容は殆どシロタエが決めてしまった。
エルフ達が作る皮の製品の流通、資金を使用しての貿易などを試験的に行っている。
とは言っても、簡単なものではある・・・これの目的はもう一つ、いつか外に出てみんなで旅ができないかと思っているのだ。
この世界をキャラバンの様にして巡れないかと思っている。
しかし、今はまだ知識もなければそこまでの資金もない。この世界では『魔族』に対しての差別が根強い・・・そして、『エルフ』に対してのイメージもまだわからない。
それをしっかりと熟知していれば、キャラバンとして出立しようと考えている。
それの後ろ盾としてニーディリア伯爵が居てくれれば、かなり力になるだろう。
詳細はシロタエに押し付けて、俺はその時になれば前に立てばいいだろう。
・・・そういえば、あれからアドルフとヴァンに会っていない。なんでも一度帝国に戻らなければ行けなくなったらしい。
恐らく兵士についてなにかあったのだろう・・・。
二人は後始末として・・・まぁ、なんというか死体の処理であったり、事実の隠蔽を図っている。
帝国にとってもこの国にとっても、今回の件は明るみになるとよくない。
二人は妙に慣れた手つきで死体やらなんやらを処理していたが、曰く「と、盗賊に襲われ続ければ自然とこういうこともできるさ」だそうだ。
俺と出会う前にも、かなりハードな冒険生活を送っていたみたいだ。
そんなことを考えていると、シロタエが話を終える。
エリーザさん達はこのままチェルスレイクに残り、ニーディリア伯爵と色々と話し合うようだ。
俺達はこのまま帝国に戻り、アドルフとヴァンに会った後、一度里に戻ろうと思っている。
その後はまた違う国へ赴く予定だ。パーティーに関してはアドルフとヴァンから、申し訳ないが抜けると聞いている。寂しくなるが、二人とも念願の兵士になるという夢が叶ったのだから仕方ないだろう。
まだどこの国へ行こうか迷っているのだが、それは里に帰ってからまた情報を探すことにする。
シロタエはニーディリア伯爵の印が押された書状を、懐に戻し一礼する・・・いつのまに書状なんて作ったんだ?
俺達はほんの気持ちにと渡された、硬貨の詰まったずっしりと重い袋を持ち、ニーディリア邸を後にした。
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side ニーディリア伯爵
屋敷から離れて行く恩人を見送る。その背は小さく、とてもではないが先の事を成し遂げた人物だとは思えない。
魔族・・・あの姿を見るまではまさか彼の者が魔族などとは全く思わなかった。
確かにどこか人というよりかは妙な気配を纏っていたが、我が家の精霊も落ち着いていた・・・ここにいる精霊達は悪意に満ちた存在に非常に敏感であり、もしもそんな者が家に入って来ようものなら、一瞬にして『水』に影響が出る。
この家に長年勤めているものならばその異変に瞬時に気付くことができるだろう。
しかし、魔族が入ったというのに我が家の精霊は嫌がる処か、寧ろ喜んでいたという。出された食事には今までに食べた事のない様な甘味を帯びており、朝に起きて飲む水にもいつにない清涼感があった。
偶々精霊たちの調子が良いのかとも思ったが、あの『ユガ』という者が来てからこの様な事が起こり、ユガが来る日に至ってはいつも水の質がすこぶる良かった。
私自身は精霊を直接見ることは敵わないし、言葉を交わすこともできないが精霊がユガを好いていたのはなんとなしにわかる。
書物で精霊は純粋な人の思いを好むと書いてあったのを思い出し、娘の衣装を考えたこの者を祝福していると思ったが・・・まさか魔族だとは。
確かに、ユガは普通の魔族とは違い、殆どが人間に近く、粗野であり自己を重んじる魔族とは全く違っていた。
人の気持ちを汲み、己がどれだけ苦労を被ろうが相手が楽しければそれでいいという感情を読み取れた・・・だてに貴族として長い事生きていない。
私が娘の話をすれば大概がうんざりしてしまい、悪意の持ったものであれば節々で隠し切れずにちらつかせてしまう。
だが、ユガはそうではなかった・・・しょうがないと思いつつも私のは話に耳を傾けた。
人であってもうんざりするであろう私の娘の話に、魔族が聞き入るとは思えない・・・それでもまぁ、止められんのだがな。
娘が攫われた時も、ユガは私の無理難題に首を縦に振った・・・そして見事やり遂げた。
彼らの本来の姿を見た時は一瞬後悔した・・・『魔族だ』と、しかし、彼らはそんな私のバカな差別意識を裏腹に予想以上の働きを示して見せた。
私達の助力を全く請わず、報酬の話さえせず・・・純粋に私の娘を救い出そうと動いた。彼の仲間・・・そして、『配下』も彼の命令一つで動き、魔族だとは到底思えない働きを持って行動した。
彼等には感謝してもしきれない。
被害は最小限に抑えられ、捕らわれた娘と婿、エリーザを救出し、賊の殆どを討伐し重要人物を捕縛してみせた。
報酬の話がなかったとはいえ、このまま手ぶらで返せる筈もない。
娘の命ばかりか、彼等は今回の件を全て完璧なまでに解決したのだ。報酬を用意するのは当然であり、私は望むのであれば『伯爵』の名を使い、貴族位を彼らに託そうとまで考えていたのだ。
彼らの仲間であるアドルフとヴァンは帝国の兵士という事を聞いていた為に、公では報酬は渡してはいないが私的な財産から報酬を支払っている。
そして彼らが望んだのは、来るべき時に備えての後ろ盾となって欲しいという事だった。
彼・・・いや、ユガの配下である『シロタエ』から聞いた話では、ユガはある一帯を支配している魔族の長だという。
そこでは人が住み、エルフが住み、魔族が住む里なのだという・・・初めは信じられずに驚愕したが、彼女の瞳は真剣そのものであり冗談を言っているようには見えなかった。
エルフ・・・戦争の末姿を消した存在であり、それが人間と居を交わし、剰え魔族と共に暮らしているなんて信じられる筈がない。
そんな里の援助を行って欲しいという事だった。
彼らは『人間』を調べている最中であり、それが終わり次第馬車を引いて世界を旅することを目的にしているそうだ・・・夢物語を聴いている様ではあったが、不可能ではない。
王都の商人貴族、そして地方のギルドがすでに後ろ盾にあると聞き、証拠として彼女の持っていた書状を拝見させてもらった・・・嘘偽りはなく、書状に押されていた捺印は間違いなく本物だった。
魔族の差別は拭えないものであり、エルフが再び地に現れたとなれば混乱は容易に想像できる。しかし、後ろ盾として私の様な貴族がいれば・・・余計な混乱やいざこざに巻き込まれにくくなるのは確かだ。
無論私は承諾した。
一つ条件は付けさせて貰いはしたが、それ以外は全て了承した。金銭面に関しては無く、出資することになるのかとも考えたが、そういうものは必要ないとのことだった・・・聞けば、もう既に金銭は商人貴族から得ているそうだ。
・・・彼等の姿が見えなくなり、私は館へ戻る。
明日からは賊を率いたあの貴族を締め上げ、全てを吐かせる必要がある。
「伯爵様、帝国からお手紙が届いております」
と、執事から手紙が渡される。
封を開け、中身を見てみるとその中から見覚えのある・・・いや、貴族であれば誰でも知っているであろう蝋印で封がされた封筒がもう一枚姿を現す。
「まさか、情報がもう漏れているとはな」
その封筒に刻まれていたのは『帝国王家』の蝋であった。
ハーピー観察日記
1:マンモタイラント討伐完了
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!