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帝都:賊の討伐④でした!

最後の賊 VS ○○○○


多くのブックマーク有難うございます!!


次話投稿は一週間以内です!

 ニュルニュル


 あぁ、なんだろうかこのデジャヴ感。未だにこの身体中に纏わりつく様な地面の触感に慣れない。

 冷んやりとした地面を這いずりながら移動し、身体の中に入り込んでジャリジャリと音を立てる砂に辟易する。


 俺って本当に人間やめちゃったんだなぁ。



 暗闇の中に溶け込みながら真っ黒の粘液が洞窟の天井を這いずり、暗闇の中でも見通しがきく目で、入り組んだ洞窟を迷う事なくスイスイと進んでいく。


「周囲掌握がなかったら間違いなく迷ってるな」


 頭の中に浮かんだ洞窟の詳細をしっかり確認しながら道を進んでいく。この複雑に入り組んだ洞窟は、地図がなければまず間違いなく迷う。

 先に道があったとしても、周囲掌握で調べてみれば右に曲がりに曲がって元来た道へ戻っているなんてこともしばしばある。


 そんな、洞窟の中には警備の賊が数十人徘徊している。

 誰もが片手に地図を持っていて、グループに別れて決められた場所を徘徊している。

 何故そんな事知ってるかと言うとだ。


『また来たわね』


 洞窟の奥から、数名の賊が此方へとやって来る。しかし、俺には気付いていない様で、談笑しながら雑に見回りを行っている。

 賊に気付かれない様に息を潜め、洞窟の天井に薄く広がって賊が俺の下に来るまで待つ。


 そして俺の下を通り過ぎた直後、へばりついていた身体を起こし、地に落ちる。

 脳内にベチャッと弾けたスライムを一瞬想像するが、音もなく着地し、数本の触手を賊目掛けて勢い良く放つ。


 鈍い音が鳴り響き、次いでドサッと賊が地に倒れ伏す。

 後は気絶した賊達を縛り上げ猿轡を噛ませて、武器や防具等を粘液で溶かして目立たない場所に放り投げる。


 ・・・華の無い戦いではあるけれど、これが一番効率的で安全な方法だ。

 無駄に戦闘すれば仲間を呼ばれるかもしれないし、人質を取られでもしたらどうしようもなくなってしまう・・・まぁ、そのときはディーレさんの魔法でどうにかなるけど。


 洞窟内の雰囲気からするに、外で起こっている事はこちらに伝わっていないのだろう。

 恐らく今頃はアドルフとヴァン、それにシロタエ達が大いに暴れまわっている筈だ。


 で、俺はというと。

 洞窟に潜り込んで、拐われたニーディリア伯爵の娘さんとエリーザさん、そして娘さんの夫である貴族様を救助するのが役目だ。


 そして、俺が人質を救助した後は、シロタエ達が外にいる賊を全て片付けていて、そのまますたこらさっさと逃げ帰るという手筈になっている。

 ・・・のだけど、ニーディリア伯爵からの依頼で人攫いの首謀者を捕まえなければならない。


 ハンゾーの偵察では一人だけ身なりの良い者が居たという。恐らく、人攫いを命じた『没落貴族』なのだろう。

 それをひっ捕まえてニーディリア伯爵の下に送れば晴れて任務終了だ。


「えっと、取り敢えずこっちに行けば」


 相も変わらず洞窟を進んでいくと、数人の賊がたむろしている一本道へと出る。その先は大きな空洞になっており、そこには・・・


「えっと、『アイーシャ・ハンザ・マーディン:ニーディリア』、『シュライン・ベツァン・アインツ:プライツァ』・・・間違いないな」


 数名の賊に守られたその空洞には攫われた二人がいる。アイーシャっていう人がニーディリア伯爵の娘さんで、シュラインっていう人がその結婚相手の貴族様だっけ?


 数名の賊の下に這い寄り、例によって触手で意識を断つ。

 二人が捕らえられている空洞に賊を放り投げると、それに気付いた様にシュラインが目を覚ます。


「う・・・何が?」


 シュラインは手足が縛られている様で上手く動けないでいたが、目で周囲の状況を把握し出口を守っていた賊が周囲に散乱している事を理解したらしい。

 んで、周りを見渡すと勿論俺がいるわけで・・・すっかり忘れてたんだけどスライムの姿なわけで、賊を四人くらい持ち上げている姿なわけだ。

 当然シュラインさんが取る反応は・・・。


「な・・・すらいm!?」


 大声を上げられる前にシュラインさんの口を塞ぐ。

 ドロドロと溶けて人の姿を取った後は、口を塞ぎながらも手足の拘束を解き、アイーシャさんの拘束も背中から生えた触手で取り払う。


「い、いったいお前は・・・」

「ニーディリア伯爵に雇われた・・・えっと、魔族です。安心してください」

「ス、スライムの魔族? 俄かには信じられないが・・・貴殿の顔・・・顔でいいんだよな?に嘘は見られない」


 大丈夫。正真正銘の顔です。

 どうやら余程手酷く痛めつけられていた様で、衣服はボロボロでところどころ破けた衣服の隙間からは痛々しい傷跡が伺える。その傷が下で拘束を解いた後もシュラインさんは満足に動けないでいた。


「俺の事はいい、彼女だけでも・・・」


 シュラインさんは自分のせいでアイーシャさんを抱えれないと判断したんだろう。自分よりも彼女を心配するとは男の鑑だ。

 まぁ、二人とも持っていくんだけれどね。背中から触手を伸ばして、二人を包み込むようにして持つ。


 スライムの身体は便利なんだけどやっぱりなんだか複雑だな。


「すまないな。この恩はきっと返す」


 二人を抱えて元来た道を帰ろうと踵を返した直後・・・周囲掌握に高速で近づく何かが映り込む。


 咄嗟に二人を地面に投げて、防御態勢を取る。

 その瞬間全身を駆け巡る衝撃に呻き声を上げ、後方の壁まで吹き飛ばされていく。周囲に破砕音が鳴り響き、岩の礫が飛び散った。


 土煙が立ち昇り視界もうまく定まらない。何があったのかと知覚する暇を与えず、立ち昇る土煙を引き裂く様に銀閃が眼前に光る。

 それが顔面を貫く直前に身を翻し避けるが、頬に一筋の切り傷が刻まれる。ピリッとした痛みに気を向けた直後、もう一筋の銀閃が土煙を打ち払い現れる。


 体制を崩しながらも横に飛び込んで避けると、背後にあった岩の壁に剣が突き刺さる。


 背中から幾本もの触手を生やし、鞭の様にしならせ、どこにいるのかもわからない敵に乱打を繰り返す。岩の砕く音が響く中、人の足音が近づく音が聞こえる。


 ここだと触手を繰り出すが、それは容易に斬り払われ『もう一方の剣』から突きが繰り出されるが・・・二度も同じ手は喰らわない。


 突きだされた剣が貫いたのは俺の触手・・・敵はそこにいたはずの俺の姿を見失い、目を見開いている。


 空中に身を躍らし、そのまま天井を蹴り砕き、敵の影が浮かぶ土煙へと拳打を放つ。

 敵は咄嗟に引いた剣を十字にクロスさせ、その拳打を受け止めるが剣を打ち砕き、堅い物に激突した瞬間敵は後方へ吹き飛んでいく。

 敵は壁に激突はしなかったものの床を転がり、直ぐ様立ち上がった。


「魔族か・・・哨戒が戻ってくのが遅く来てみれば、厄介な者が紛れ込んでいたな」


 そこにいたのは両手に折れた剣を携え、一方の腕に大きな傷を負った男。纏う雰囲気は一流の剣士のそれ、身のこなしや一瞬の判断は天才の領域に立っていると言っていい。

 騎士道の様な美学ではない・・・如何に相手を殺すかを訓練された兵士。俺が二人を救出してほっとした一瞬の隙を狙っての奇襲、何が起こったのかを理解していない一瞬の硬直への躊躇のない攻撃。

 そして攻勢を取られた直後の防御の判断、後ろに飛び退いて威力を減衰させるその手腕・・・ハンゾーが言っていた一番強いであろう人物だ。


 折れた剣をその場に投げ捨て、腰に携えていた剣を引き抜き俺と対峙する。


 投げ飛ばしてしまった二人にチラリと視線を向け、無事を確認する。シュラインさんはどうにかして這いずりながら、アイーシャさんと共に部屋の端に移動している。


 男は俺に向かって突進する。

 先程手に携えていた剣とは違い、細身でありながら刀身の長い剣を横薙ぎに振るう。それを避けようと後ろに飛び退るが、その直後俺の眼前で剣がピタリと止まり突きへと移行する。


「うおッ!?」


 それを硬質化した触手で上に弾き、反撃に移ろうと体制を整えるが、弾いたと思った剣がそのまま垂直に振り下ろされた。

 おかしい・・・全力で薙ぎ払った剣を俺の眼前で寸止めし、そのまま突きに移行する。上に弾き上げた剣をタイムラグを殆ど無くして振り下ろすなんて不可能だろう。


 どれだけ筋力があっても、鉄で出来て勢いの付いた剣をピタリと静止できるはずがない。


『あの剣から魔力を感じるわ。恐らく、あれが原因ね』

「なるほど・・・周囲掌握」


『魔剣:ストアーベルク』

 放った威力・受けた威力を余剰分として数秒の間保管でき、放つ事のできる魔法を帯びた剣。


 えっと、つまり・・・振った速度とか撃ち合った威力を保管して、殆どの攻撃を無力化すると同時にその威力を数秒間保存できる。そして、その保管した威力を放つ事もできる・・・と。

 撃ち合わなくても自分で素振りしただけでもその威力を保管できてしまうってことは・・・やばくない?


 直後、眼前に先程とは比べ物にならない速度の剣閃が映り込む。


 流石に避けきれないと触手で防ぐが、いとも容易く真っ二つに切り裂かれる。

 しかし、少し威力が減衰し、頭を下げることで回避に成功する。


「水弾!!」


 此方もやられてばかりではいられないと魔法を放つ。

 ディーレさんによって練り上げられた魔法の水弾は、巨大な塊となって男に襲い掛かった。


 男はそれを切り裂こうと剣に力を込めるが・・・バチンと弾かれるだけに留まる。水弾の軌道は逸れたが、一発だけじゃないんだなこれが。

 数発の水弾が男に向かって飛来する、流石に全てを弾けないと判断したのだろう。男は迫り来る水弾を避け、魔剣を使っていなせるものはいなしている。


 成る程・・・ほとんどの攻撃を吸収して無力化できるのかと思ったけど、どうやら吸収できる威力にも限界があるようだ。

 水弾を出したのは賭けだ。全ての威力を余剰分として保管できてしまうのなら勝ち目は殆ど無い。攻撃すればするほど不利になるのだから当然だ・・・しかし、どうやら保管できる上限に、または威力の上限のどちらかがあるわけだ。

 簡単に言えば、威力が強すぎると吸収できないのか、威力の吸収量に上限があるのかって事だ。


「ディーレさん!!」


 男の立っている場所から巨大な水柱が立ち昇る。

 男は異変に気づき横に回避したが・・・残念。


「ぅぐっ!?」


 立ち上った水柱から巨大な水弾が飛び出し、男の体に直撃した。バシャンという水の弾ける音が響き、次いで壁に男が激突する音が響く。

 男は壁に強く打ちつけられ、小さく呻き声をあげる。


 そしてさっきのお返しとばかりに、男に急接近し拳打を叩き込む。

 男は先程と同じ様に剣で威力を殺そうと打ち合わせるが・・・


「グッ!?」


 先程とは違う予想以上の威力に男はまたも呻き声を上げる。

 まぁ、さっきもこれくらいの威力を込めて殴ればよかったんだけど・・・正直に言ってしまえば、俺のステータスを全開にして人間と戦ってしまうと一瞬で消し炭にしてしまう可能性が非常に高いのだ。


 例としてなんだけど、エルフの里でかなり大きな大樹がある・・・あ、いや、あった。

 それをちょっと力を込めて蹴っただけで吹き飛んでいく程度にはやばい。


 どうすればいいのかとディーレさんと話し合った結果、ディーレさんに力の大半を預けることができたのだ。

 力を預けた結果、平均6000とかいう謎のステータスから現在は2000付近にまで落ちている。


 そしてこの男の防御を突破できなかったので、ステータスを500上げてみればこの通りだ。


 男の魔剣に込められている魔法の上限を超えた、超過ダメージを与えることができた。


「流石は魔族といったところだな。では・・・こちらも出し惜しみはしない」


 男は俺の拳打を何とか弾き返し、もう一度剣を振り払う。

 魔剣の効力を超過させようとまた同じような威力跳ね返そうとした一瞬・・・背筋にぞっとした何かが駆け巡る。


 咄嗟に手を引き、バックステップで避けるが、男はそのまま此方へと突っ込んでくる。


「スキル:『連斬』」


 男が薙ぎ払った一撃を弾き返すが、その次の瞬間何もないはずの空間からもう一本の剣が姿を現し俺の腹部を切りつけた。

 いや、もう一本の剣が出現したのではない、弾き返したはずの剣が同じ軌道を描きながらもう一度振り払われたのだ。


 確かこの技はソウカイが使っていたのを覚えている。

 一回振るった攻撃が二連撃になって襲い掛かるスキルだ。


 男は尚も俺に接近し、そのスキルを放つ。このスキルの厄介な点は防ぎようがない点だ。

 防ごうとして一撃目を防御したとしても二撃目がどこからともなく現れる。弾いたとしても同じで、避けたとしても二撃目が飛んで来る。


 不意打ちに使う事が多いようで、今の不意打ちをどうにか腹を薄く切られただけで免れた事で、脅威度は下がったとしても。それでもそのスキルは驚異的だ。


「水壁!」


 俺と男の間に巨大な水の壁が現れる。剣は上方に弾かれ、もう一撃も同じ様に上に弾かれる。

 魔法さえ使えればどうにか防げるか。


 俺は正直接近戦は不慣れだ。王都の頃に思い知ったが、相手に接近されるとどうも判断力が遅くなってしまう。

 ソウカイやキクと模擬試合をした時もそうだ。フェイントや技の応酬、駆け引きを行うと、途端に相手の攻撃が当たるようになってしまう。


 それをどうにか防ごうにも、知識がないせいでどうしようもできない。


 なんとか訓練で少しは身についたが、それでも付け焼刃もいいところだ。


 なら何が優れているかと言えば・・・『魔法』だ。


「ウォータースパイク!!」


 高圧の水の槍が地面から幾本も姿を現し、男目掛けて放たれていく。それを剣で打ち払い、避けていく男だが、全ては避けきれず鎧の所々に命中し苦悶の表情を浮かべている。


 男が最後の魔法を剣で弾き飛ばした直後、頭上に浮かんだ俺の姿に驚愕する。勢いの付いた全身全霊の攻撃は男の剣を弾き飛ばし、鎧の胸の辺りに直撃する。

 鎧は割れ砕け、男は口から血を吐きだしながら後ろへと吹き飛ばされていく。


 それに追撃しようと男に接近した直後、男の手に握られた魔剣が消える。


 まずい。


 ザンッと胴体が切り付けられ、真っ二つに切断される。

 全身に激痛が走り、目の前がチカチカと明滅する・・・歯を食いしばりながら真っ二つにされた胴体と下半身をつなぎ合わせ、後方へ転がった。


『大丈夫ッ!?』

「何とか・・・」


 成る程・・・『吸収できる威力の上限はない』って事か。

『威力が強すぎると吸収できないのか、威力の吸収量に上限があるのか』それは前者だったって事だ。


 威力が強すぎると吸収しきれないが、吸収自体は半ば永久的にできる・・・という事か。初めて魔剣に込められた魔法を放った時はそこまで早くなかったが、今回放たれた魔法は・・・見えなかった。


 切断系の攻撃は俺の身体には喰らわない。

 けれど、それに魔法の効果が付与されていればダメージはくらうわけだ。


 このまま長期戦になるのはまず過ぎる・・・決着をつけた方がいいか。


「ディーレさん。1000解放して」

『えぇ、わかったわ』


 ブワッと全身に力が漲ってくるのを感じ取る。

 男もそれを感じ取ったのは剣を構え直し、俺と対峙する。


 地面をトンッと蹴ると、男がすでに眼前にまで迫っている・・・いや、俺が迫っていたんだけれど、男が防御態勢を取る暇を与えず、腹部に一撃を放つ。

 これで完全に前の鎧は砕け落ち、次いで回し蹴りを男の顔へと放つ。


 男は剣で受け止めようと薙ぎ払うが・・・ガチンッと硬質な音がした直後剣が弾かれ男の横顔にけりが炸裂する。

 男は剣を取り落し、痺れる両手に鞭を打って前方でクロスさせる。直後、クロスさせた中心に掌底が炸裂しゴキリと骨の折れる音が響き、地面に倒れ伏し数メートル先へと転がった。


 男はどうにか立とうと全身に力を入れているが・・・俺がそちらにたどり着く方が早い。最後に一撃を見舞って意識を刈り取った後は、賊と一緒にこの洞穴に放置しておこう。


 そして男に拳打が叩き込まれる直後、俺の身体を真っ赤な炎が包み込んだ。


「あっつい!?!?!?」


 轟々と燃え盛り、凄まじい熱量が身体を襲う・・・のだろうが、どうやらディーレさんと契約しているせいか火だるまになっているがあまり痛みやら熱さを感じない。

 火が収まると、プスプスと服が煙を上げる・・・エルフ達が作ってくれた精霊の力が籠った衣服だからすべては焼け落ちなかったらしい。


 何が起こったんだと周りを見渡すと・・・。


「我輩は『ニェルスト・テッド・ウォムント:ゲルナ』である! 下民よそこから動くでないぞ! 動けばこの女の命はないと思え!!」


 そこにはパンッ!!と膨らんだ豚・・・じゃなかった人の姿があった。

 見た目は他のものと比べて豪奢な感じだが、所々が破けていたりくすんでいたりと・・・まぁまぁ、こってこての没落感が半端ない貴族様がそこにいるわけだ。


 恐らく、『ニェルスト・テッド・ウォムント:ゲルナ』と名乗ってはいるものの『ゲルナ』の家名は既に没収されているのだろう。


 そんな豚・・・貴族・・・うん。豚貴族の腕には苦しそうにもがくアイーシャさんの姿があった。人質ってわけか。

 シュラインさんはボロボロの有様でもう守れるっていう状況じゃなかったし、俺は俺で男と交戦していたから豚貴族には全く気付かなかった。


「卑怯な!! こいつは前もそうやってアガッ!?」

「黙れ! 帝都の愚物が!!」


 豚貴族はシュラインさんの顔面を蹴り飛ばし、唾を飛ばしながら叫ぶ。


「そもそも貴様ら貴族が無能なのが悪いのだ!!! 我輩が没落などあり得ないというのに、貴様らが我輩の権力を恐れに恐れて、排斥など・・・嘆かわしい!!」


 腕にアイーシャさんを抱えながら、シュラインさんの髪の毛を引っ張り耳元でまくし立てる。

 こりゃ没落するわなぁ。


 どうにかしたいのはやまやまだが、人質を取られてしまえばこちらにはどうしようもない。


 成る程な。シュラインさんがやられたのも、エリーザさんがやられたのもあの豚貴族のせいってわけか。この男も十分に強いが、シュラインさんはともかくエリーザさんが負けるとは思えないしな。

 人質を取られて抵抗できないまま捕らえられたって所だろう。


 男はよろよろとした足取りで立ち上がり、腰から取り出したポーションをグイッと煽る。

 男の傷がじわじわと回復し始め、剣を構えなおす。


 一気にステータスを開放すれば豚貴族がアイーシャさんに手を出す前に殺せる。しかし、依頼であれをニーディリア伯爵の下まで届けなきゃならないし、殺すっていうのは・・・やっぱりなんかいやだ。

 魔法を使って豚貴族を止めようにも、流石に奴も魔法使いだし・・・予兆とかはすぐにばれてアイーシャさんに被害が及んでしまう。


 万事休s


「妖波」


 轟ッ!!

 と俺と男の間を凄まじい風が通り抜けたと思った瞬間、豚貴族が宙を舞い洞窟の壁に激突する。


 俺も男も驚愕し、風がやってきたほうへ目を向けると・・・そこには


「シロタエ、なんでここにいるんだ?」

「主人の帰りが遅かったので、何か不測の事態が起きているのではないかと思い馳せ参じました・・・勝手な行動お許しいただきたく存じます」

「あぁ、まぁ、許すも何もほめるけどさ」

「ありがとうございます」


 ニコリと微笑んだシロタエの顔は心底うれしそうだ・・・しかし、男と豚貴族を見ると露骨に顔を顰め、はぁと息を吐く。


「エリーザ様はヴァンク様が救出しています。後は・・・恐らくあの女性と男性で間違いないでしょうか?」


 俺がコクリと頷くと、シロタエはそうですかと告げると、アイーシャさんとシュラインさんの方へと歩いて行く。まるで他の人が見えていないかの様にゆったりとした足取りで。


「こ、こここ、このあまアアアァァァァ!!!」


 起き上がった豚貴族があらゆる場所から血を流し、額に青筋を浮かべながら魔法を唱え始める。


「我が命に応じ、汝を紅蓮をもって包み込め。火球ファイヤーボール

抵抗レジスト


 豚貴族から放たれた火球は、シロタエから吐息と共に発せられた言葉に呆気なく鎮火する。

 豚貴族はあんぐりと口を開け、シロタエは尚も何事も無かったかの様に歩みを進める。


「火球、火球、火球、火球、火球!!!!」

「抵抗」


 ポヒュンッと間抜けな音が響き、五つの火球は瞬く間に消失する。


「有り得ない!! 女風情にこの我輩の魔法が負けるはずがないのだ!! ふぁ、ファイアー」

「抵抗」


 今度は唱える前の魔力を霧散させられる・・・これはひどい。


「ば、バカな」

「バカは貴方ですよ。醜い豚さん」


 シロタエは豚貴族にはっきりと豚だと告げる。俺でも心で思うに留めたのに、ハッキリ口に出すなんてえげつないわぁ。

 しかもこんな美人に豚だなんて言われたら一生立ち直れる気がしない。


「き、貴様ぁ!!」

「無能な豚は叫ぶことしかできないの?」

「だ、誰が無能か!! 我は帝都の貴族であるぞ」

「元でしょう? 無能さがさらに悪化してるわ」


 豚貴族・・・豚はプルプルと震えながら怒気を露わにして叫ぶ。


「我輩は無能ではない! 無能なのはあの帝国の阿呆どもだ!! 有能であり権力を持っていた我輩を排斥し、剰え除爵等とのたまいおって!! 誰が帝国を守ってやったと思っている誰が帝国に富を齎してやったと思っている誰が、誰が!!」

「はぁ」


 シロタエは額を抑え、フルフルと首を振る。


「有能な治世者は貴方の様な愚物ではないの。守ってやった?齎した?大きな権力に守られた、国に災いを齎したの間違いでしょう? 貴方の様な愚物は自分の事しか考えていないものね」


 ギロリとシロタエの瞳が豚を見据えた。

 豚はビクッと怯え、後退る。

 そして、シロタエから言葉が紡がれる。


「貴方、『ゲルナ』と名乗ったわね。知っているわ・・・私は帝国に降り立っているから様々な事を勉強したの。国の成り立ちや治世の仕方とかね。帝国は決して裕福ではないわ。度重なる戦争と貴族の汚職によって穢れ果てていたそうね・・・先代の帝国の王は『賢王』と呼ばれていたのはそんな中で何事も起こさなかったからよ。そして次代の王・・・つまり現代の王は汚職に身を浸からせた貴族を排斥し、時には殺し、そして、戦力を伸ばしたが故『暴虐』として名高いの。しかし、それも治世の為であり、現に今の王が納める帝国は財政も回復し戦争も一歩ずつ前進している状況よ。愚物は貴方の様な『汚職』に身を浸からせた者よ。現在の王は力を持って治世を収めているのよ・・・貴方の様に権力を笠に着て治世を行わず領民を飢えさせ、国力を損なわせる者じゃないわ」

「な、何を言うか!! 下民が貴族に従うのは当然の事」


 シロタエの瞳に怒りの炎が灯る。


「上に立つ者は下が支える? 貴方はどうしようもない俗物ね。上に立つ者が下を支え、そうして下の者が国を成り立たせるのよ。決して下の者が上の者を讃えるだけじゃないわ・・・あぁ、でも貴方はもう没落したのでしたね」


 男は唇を噛み切り、怒りに頭を沸騰させる。

 シロタエの正論と暴言にもう耐えかねたようだ。


「五月蠅い!!!!! どいつもこいつも我輩を馬鹿にしおって、死ね死ね!! まずは貴様達から死ねぇ!!!」


 豚はシュラインさんとアイーシャさんに向けて火球を放つ。シュラインさんがアイーシャさんに覆いかぶさり、ギュッと目を瞑る。


「シロタエ!!」


 シロタエは瞬きをした直後には、既に二人の前に進み出ていた。

 火球を消そうと口を動かすが、間に合わないと判断し腕で打ち払った。


「あ・・・」


 そしてシロタエから声が漏れた。

 シロタエの腕に巻かれていた紐が燃え散った。


 たったそれだけだ。

 あの程度の魔法でシロタエが痛痒を感じる事はない。


 しかし、シロタエは物凄く悲壮な顔を浮かべ悲しさに顔をゆがませた・・・そして、その次の瞬間には額から角を生やし、鬼の形相で豚を睨み付けた。


「主人様からの贈り物の紐を・・・大事な大事な紐を・・・貴様が貴様如きがあああぁぁぁ」


 シロタエは叫び、豚が作り上げた火球の十倍もの大きさの火球を作り出す。

 洞窟の暗闇を全て吹き飛ばす赤い火球は、恐怖に顔を歪ませた豚を照らし出し、轟々と燃え盛っている。


 そしてシロタエがそれを放った直後・・・シロタエの胸に鈍色に光る刃が突き立った。

ハーピー観察日記

・・・=休載=・・・


賊の四人目は?と思っている方・・・この章の後半までもう少々お待ちくださいね。


宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!

遠慮なくこの物語を評価して下さい!!


何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。

(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)


感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ

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