帝都:賊の討伐②でした!
賊 VS ○○○○
沢山のブックマーク有難うございます!!
次話投稿は一週間以内です!
帝都:106話 賊の討伐②でした!
side ???
葉を踏み割る音が周囲に響き、鞘と鎧とが接触する小気味の良い音が夜闇の中へ溶け込んでいく。
異様なまでに静かな森を不気味に感じながら、森の隅々にまで眼を行き渡らせる。
風が木々の隙間を縫って来ることもないそんな森の奥地、これ程多くの哨戒がいるのかとも疑問に思ったものだが、相手取っている敵を知ればそれも仕方のないことだと頷ける。
半ば迷宮と化しているこんな森に、普通であれば侵入しようとは思わないだろう。入り込む者がいれば、それは薄暗い事情を抱え込んだ人間であるだろう・・・。
もし、そうでなかったとすれば、そこにいるのは恐らく我々の目的を妨げる不当な・・・いや、真っ当な者である。
しかし、どちらにせよ関係はない・・・どちらであっても我々を認識した時点で殺さなくてはならないのだ。いちいち考えるのも無駄だな。
胸元に光る帝国の紋章に目を向ける・・・自然と苦笑いが浮かび上がり、剣の柄に手が延びてしまっている。
長年の癖というものはどう演じていても抜けないものだ。それを考えれば、貴族というものがどれ程我々より思慮深いか・・・タヌキかがわかるというものだな。
パキリと木の枝を踏み割る音が隣から響く、それに侮蔑の滲んだ表情を浮かべそうであったが、なんとか堪えることに成功した。
しかし、そんな検討も虚しく、辺りに森の静けさに紛れて耳障りな声が俺の耳元に鳴り響いてきてしまった。
「あの街の娼婦共は俺のモノでよがり狂っていたさ」
「娼館は一通り食い荒らしたが、やはり行商を襲って生娘を食うのが一番だ。飽きたら埋めちまって、金は俺達のものにすりゃぁいい」
下卑た会話に小さく舌打ちをする。
折角意識を周囲の警戒一点に向けていたというのに、こいつらは俺の努力を知る由もなく踏み躙ってくる。
いくら偽装に使っているとは言え、こいつらが帝国の鎧を纏うなど・・・紋章が泣いて乞う姿が目に見えてくる。
品性の欠片もなく、技量もなく、学もない・・・普段であれば、一刀の元に斬り伏せていることは間違いない。
それにイライラを募らせながらも、我慢しながら歩く。
「こんな楽な依頼が貴族様から届くなんてな」
「あぁ、『貴族を襲え』なんて冗談かと思ったが、あれだけの金を積まれるなんてな」
「違いねぇ。しかも、襲うっつっても、ちょっとばかし剣の扱いを仕込まれて、魔法と隊長さんの突撃で殆ど瓦解した敵を殺すだけだったしな」
「それに、これが終われば隣の国が匿ってくれるなんてな。大金もって隣の国で遊びまくればいい」
「おいおい、遊びすぎりゃ金がなくなんぞ」
「そんときゃまた行商を殺せばいい話だろう」
ギリッと歯を強く噛み締める・・・耐えるんだ。こいつらのバカさ加減にイライラが募っていた所に突如火種が投げ入れられ、後少しで奴等の首を撥ね飛ばす事になりそうでだった。
こいつらこの任務の重要性、リスクを全て無視している。
この仕事はハイリスク・ローリターンどころの騒ぎじゃない、思慮深い者であれば、一発でリスクが巨大過ぎることに気付く筈だ。
『貴族を襲う』・・・どこの貴族なのか、規模はどれ程かを調べるのは基本中の基本、そこから派生して計画や作戦を練りに練る、後ろ盾や自分の立場を考え、そこから自らのリスクとリターンを計算して行動を起こす。
しかし、それでさえ生温いと言わざるを得ない。
だというのに、こいつらはそれを一切考慮していない。貴族というものがどれだけ利に聡く、残忍であるかを知らない・・・いや、知ろうともしていない。
利益の為なら殺しも厭わない・・・リスクを極力減らし、利を多く得ることが奴等の思考回路だ。
今回の依頼が終われば、俺達以外の息が掛かっていない者は直ぐ様処刑されるだろう。
シナリオはとうに出来上がっており、この賊どもは掌で弄ばれているだけに過ぎない。
あの無能もいいように扱われた後は、直ぐ様処断されるであろう。
襲撃した貴族は、帝都の中級貴族である『プライツァ家』の長男だ。プライツァ家は特にこれと言って突出した何かはないが、家柄や教養どれを取っても申し分ない。
プライツァ家は代々騎士爵を賜り、低級貴族でありながらも安定した家柄であったが、現帝国の王によって家格を上げられた。
長男は魔法の才には恵まれなかったが、剣の才能は歴代の中でもトップクラスであり、帝国の学院での成績は一、二を争うほどである。
そして、その学院でフェグズム国、チェルスレイク領主『ニーディリア伯爵』の娘である『ミルトナ』に出逢い婚約を結ぶ・・・。
結婚パーティーはチェルスレイクで行われ、花嫁であるミルトナは帝国で準備を果たし、チェルスレイクへと凱旋する。
・・・その道中を狙って事に及び、隊長のお陰で速やかに計画を遂行することに成功した。
無能の魔法も大したものであったが、それも隊長の指示があってこそだ。
それでも唯の賊に統率など取れる筈もなく、危うく全員殺しかける所であった。
一人は生きたまま逃がすことで、情報伝達役として活かそうと考えていたが、賊が何も考えずに瀕死に追いやってしまった。あれで無事に領地まで辿り着けるかもわからないと思ったが・・・どうやら無事に行き渡ったようだ。
数時間前に魔物が現れたと、他の哨戒から伝達があった。急いで報告があった方に向かったが、門は突破されかけ危うく侵入を許すところであった。
しかし、隊長と魔法のお陰で何とか事なきを得た。
死者は七名、かなり腕のたつ巨漢の・・・騎士?であったが、人質を取られ、動けなくなったところを無能の魔法で沈黙させられたらしい。
綺麗事を言うつもりはないが、さすがは貴族だ。卑怯な手を使わせれば右に出るものはいない。
・・・しかし、それにしても奇妙だ。
その男は陽動かとも思ったが、単騎で救出に来たようであった。それも帝国の兵士やニーディリア伯爵の私兵ではなく、何故あのような者が救出に来ていたのか・・・それも一人で。
確かに力量はあった・・・隊長と互角に戦える者なぞ、帝国七爪クラスの者だ。
しかし、無謀だとしか言いようがない。
「ギャハハハちげぇねぇ!」
「そうだn・・・ん? お前らどうしたんだ?」
そんな声後ろから聞こえ、後ろを振り返る・・・そこには、別の場所の哨戒を担当している筈の者達が立っていた。
その者達も驚いた顔を浮かべ、困惑している。
「そっちこそ、なんで俺達の経路に来てんだよ?」
「はぁ? ここは俺達の担当経路な筈だぞ? 何寝ぼけてんだ」
「そ、そんな筈はねぇぞ!? しっかり印を辿ってきた筈だ」
森の中というものは、非常に方向感覚が狂いやすい。方角を知る魔法や魔道具がなければ高確率で迷ってしまう。
しかし、魔法を扱える者などそうそういる筈もなく、魔道具も非常に高価である。
無能は方角を知る魔法を会得しておらず、当然魔道具なんて持っているわけもない。
そこで、仕方なく打開策として、他者には気付かれない様に小さく木に印を打ち、それを辿って巡回しているのだ。
しかし、賊の頭の悪さには辟易していたが、まさか印確認を怠るとは無能も極まっていると言えよう。
もはや呆れてものが言えない。
殺意を孕んだ眼を一瞬浮かべる・・・が
「お前らこんなところで何やってんだ?」
「お前らの巡回経路は・・・あ? なんでお前らが」
「な、なんでお前らが!?」
続々と他の経路を哨戒している筈の者達が集まってくる。何かに引き寄せられる様に、この場に14人も集まったのだ。
こんな大勢が印を見落とし、剰え一ヶ所に集まるなど、単なる偶然では決してない。
何か異常事態が発生しているに違いない。
それに・・・。
「あいつらもいない」
敵は此方の情報を把握し、戦力を分断しにかかっている。十中八九国が動いたと見て間違いない・・・しかし、対応が早すぎる。
『冷血の帝王』・・・であっても、現状そこまで早くに動ける筈がない。
かといって、フェグズムであっても表だった行動は避ける筈だ。
・・・持論を並べた所で事態は解決しない。
今は一刻も早くこの状況を打開しなくては。
腰につけていた緊急用の鐘笛を手に取り、大きく息を吸い込み、笛を・・・吹こうとしたその時だ。
「な、なんだ」
「誰だ!?」
背後からそんな声が耳に届く、そちらに視線を向ければ、森の奥・・・乱立する木々の間から人影がこちらに向かって歩いてくる。
たった一人、ゆっくりとした足取りで此方をジッと見据えるように歩みを進める。
誰もが、他の班の者であろうと口々に発し始める・・・しかし、哨戒を任せた者達は全員三~四名のチームで行動している筈だ。
・・・あいつらが異変を察知して行動した?
いや、そんなことはあり得ない。隊長の命令に背き勝手な行動をとるような連中ではなく、もし異常事態に気づいたのならその場で何らかの対処をする筈だ。
人影が迫り、自分達の視界にはっきりとその姿が写し出される。
美しい。
それは男であるならば、誰もが手を伸ばしてしまうであろう美女の姿だ。
森の闇よりも更に深い漆黒に染まっている黒い髪、整った顔立ちに微笑みを浮かべ、ゆっくりと一定のリズムを刻みながら、俺達の元へと歩みを進めている。
すると、ピタリと美女が止まる。
そこで俺達の姿を舐め回す様に見て、片手を上げて指を指す。数を数える様に、一人一人に指を指し、そして最後の一人を数え終えた後にコクリと小さく頷いた。
片手を大きく開き、俺達の方へと突き出す。
美女は俺達へ手招きする・・・それにつられて一人がゆっくりと美女へ歩みを進める。
一人が美女へ向かえば、それにつられて一人、また一人と歩き始める。
持っていた笛を落とし、自分の足で踏み砕いてしまう。
頭でおかしいとわかっていても自然と身体が動き、足を進めてしまう。
抗うことが許されない。
そして美女が近づく程に、その歩みに合わせて心臓の音が逸る。妖艶な立ち姿、微笑み・・・衣服を浅く押し上げる二つの膨らみが理性に歯止めを効かせない。
そして、全員が美女の姿に完全に飲まれる。自分ですら、思考が纏まらない。
ボーッとしながら、美女の微笑みに見蕩れる。
美女の切れ長の瞳が、月明かりに照らし出され金色に輝き、美女の微笑みが・・・段々と歪み始め・・・ッッッ!?
身体を電流の様な何かが駆け巡る。どうにかして動かした手で、仕込んでいた隠しナイフを取り出し、もう片方の手を浅く斬りつける。
そして、横に全力で飛び、叫んだ。
「避けろ!!!!!」
その瞬間、甘い夢に溺れていた全員が正気に戻る。
「もう遅いわ」
手招きしていた美女の手から、人一人を丸々包み込める程に巨大な火球が射出される。
それは進路にいた者達に襲い掛かり、直線上を赤一色に染め上げる。
今までそこにいた13人は全て火球に飲み込まれ、灰さえ残すことを許されずに燃え散っていった。
そこには、火球がかろうじて包み込むことができなかった膝より下の足だけが乱立する、地獄の様な光景が広がっていた。
「くっ!?」
遅かった。
奴の歩みは、森の中であって一つも揺らぐことはなかった・・・森の木々が彼女を避ける様に、此方に導いていた。
いや、樹なんて元々そこにはなかったのだろう。女はそれを演出したのだ・・・俺達の眼を惹き付ける為に。
幻だ。
魔法使いにそのような類いの魔法を使う者がいると聞いたことがある。
その場にないものを見せつけ、相手を混乱させる。極めたものは作り出す幻は、臭いや触覚も現すことができるという。
そして、魅了の魔法か・・・全員の視線を釘付けにし、その魔法で操り、全員が射程に入った瞬間に魔法を放ったのだ。
恐らく、心臓が逸っていたのは、欲情といった類いではない・・・命の危険を知らせていたのだろう。
危うく死にかけたが・・・女の瞳が金色に輝いたところで、漸く呪縛を振り払うことができた。
この美女は・・・。
「化け物・・・魔族か」
「やっぱり貴方は気づいたようですね。ご明察ですよ」
「帝国は魔族とも関わりがあるとはな。汚らわしい限りだ」
女は俺の最後の言葉にピクリッと身動ぎし、眼を閉じる。いちいち、一つ一つの仕草が洗練されている。
元は汚ならしい魔物の癖に、目の前にたつその存在は綺麗な人間にしか見えない。
眼を閉じ、隙を晒している・・・かと思えば、俺の脳内では奴に近付くなと必死に警鐘を鳴らしている。
女はコクリと頷くと、眼を開き此方を見据える。
「汚らわしい・・・ですか。貴方に言われても、何の痛痒も感じませんね。ただ、主人様に言われれば、私はこの身を引き裂き、二度と主人の眼を汚すことの無いように努めるのでしょうね」
女は意味不明なことをつらつらの述べる。
「ですが、主人はこの私を綺麗だと仰いました。この姿を可愛いと仰ったのです。それを・・・」
女の顔は歪み、憤怒の形相へと至る。額からは赤々と輝く二本の角が姿を現す。
女の周囲一帯の地面がひび割れ始め、そばに鎮座していた木々は自然と裂け、斬られた様にズズンと地面に沈む。
「お前の様な俗物が侮辱していいわけがない」
女の姿が一瞬にしてかき消える、咄嗟に剣を引き抜き前に構えると、剣は硬質な音を響かせ、俺は衝撃で後方に吹き飛ばされる。
しっかりと踏ん張れていなかったと言えど、女の一撃で後方に吹き飛ばされる程の威力・・・捌き損なえば、一撃で致命傷は免れないだろう。
吹き飛ばされながらも、着地に成功し剣を構え直す。
着地に成功したからと言って、ぼんやりしている暇などあるわけがない。
女は直ぐ目前にまで迫っているのだから。
女は一直線に此方に駆けてくる・・・先程打ち合わせた武器の姿はない。
先程の一撃は不意打ちとあまりの早さに見えなかった。しかし、女の手には何も・・・ッ!?
腰を据え、剣を振りかぶり、女のしなやかにしなる手と、鈍色に輝く鉄製の剣とが激突する。
バキンと何かが砕け散る音が響き、腰に備えていたもう一本の剣を引き抜き女へと一閃する。
女はそれをヒラリと避けて宙を舞い、後方へと着地する。
「魔族はまさかどいつもこいつもこんななのか・・・」
片手に眠る半ばから折れ砕けた剣を放り投げる。
女の柔肌と鉄製の剣との勝負は女に軍配が上がった。
女の手には赤いオーラが纏わり付き、それが剣と打ち合いを可能にした正体だと悟り。
「行くぞ!!」
今度は此方から女へと斬り掛か。
女はだらりと下げていた手を上げ、俺の剣と衝突・・・することはなかった。
どうやら、勘も鋭いようだ。
「気付いたか」
先程使っていた鉄屑と同義の剣とは違い、今度は正真正銘の『剣』だ。ドワーフが製作した魔力を込めることができる剣であり、そこいらのナマクラとは訳が違う。
魔剣・・・と呼ぶには至らないが、切れ味や丈夫さで言えば一級品であるだろう。
さすがの女もこれには勝てないだろう・・・。
飛び退いた後も女に詰め寄り、相手に魔法の詠唱をさせないように苛烈に攻める。
女は俺の剣をいなし、躱し、じっと攻撃の機会を窺っている。
・・・魔法使いだと言うのに、兵士である自分と同等の身体能力、洞察力や覚悟もある。
人間の魔法使いと言えば、後方から魔法を放つだけであり、接近戦などの心得はまずない。戦場の前線に立たず、安全圏からの攻撃のみで肝も座っていない・・・接近されれば一刀の下に斬り伏せられるのだが。
魔族であるこの女には通用しない。
魔族が如何に危険であり、存在してはいけない俗物なのかがよくわかるというものだ。
すると、ある事に気付く。
先程から俺の攻撃に押されている筈の、女の瞳が一瞬だけ俺の目とあった。
いや、正確には
・・・女はじっと俺の剣を見ているのだ。
ゾクッと背筋に冷たいものが走る。この女は恐怖や畏れ等微塵も抱いていないのだ。
それどころか、勝つという思いすらもその瞳には浮かんでいない。
そこにあるのは、『当然』の結果、そして・・・『観察』である。
女は俺を観察対象として見ている・・・瞳が見えただけで、何故そんなことがわかるのか。
自分でも理解できない・・・しかし、本能が、自分の勘がそう訴えているのだ。
先程から押しているはず・・・そう考えていたが、徐々に、徐々に押す距離が縮まっている。
攻め始めた当初はジリジリ後ろに下がっていた筈の女の足は、いまや少しずつしか後ろに下がっていないのだ。
・・・確信に変わった。
仕留めねばならない。不意をつき、全力の一刀の下に、この女を斬り伏せなければならない。
冷や汗が頬を伝い、剣を振るう腕が微かに震える。
恐れるな。
俺のスキルであれば・・・いくら魔族とて、避ける事などできる筈がない。
この剣に注がれた魔力を解放することで、一度だけ使える技がある。
魔力を解放した後は、切れ味上昇や丈夫さの効果はなくなってしまうはが、それに見合った必殺の一撃が放てる。
実際この技を放って、生き残った者はいない。
戦場でこの技を使い、何人もの敵将を討ち取ったこともある。
問題はどのタイミングで使うかだ。
まず技の性質上間違いなく避けられる事はない・・・とは思うが、念には念をいれなければならない。
相手は人間でなく魔族なのだ。人間を越えた身体能力、人智が及ばぬスキルを使う種族だ。
女に隙はない・・・いや、だがしかし、一つだけ隙を作るチャンスがある。
女が俺の攻撃に見切りをつけた直後だ。今の調子で攻撃を加え続ければ、何れ奴は攻勢に出るだろう。
そして、その攻勢に移る瞬間を狙う。
その瞬間に、こちらがわざと隙を作ればいい・・・そうすれば、奴はここぞとばかりに一撃必死の攻撃を繰り出すであろう。
その移る瞬間の僅かな隙を狙って技を叩き込めばいい。
今まで通り、女に攻撃を続ける。
無論、通らない。
己が長年積み上げてきた剣技が、こんな女に通らないというのは腹立たしいが、それも致し方ない。
空気を斬り裂く音と共に、ジャリッと小石が擦れ合う音が響く。
女の後退りが・・・完全に止まった。
「うおおおおおぉぉぉぉぉ!!!!」
気合いと共に雄叫びを上げ、大振りに剣を振り上げ渾身の力をもって叩き潰す・・・フリをする。
こんな隙だらけの攻撃普通であればするわけがない・・・戦場でこんな事をすれば、一瞬の内に切り裂かれるだろう。
そして、その一瞬。
女の身体が自分の間合いに滑り込み、腕を振りかぶる姿が写り込む。予想以上の早さに驚愕するが、技の発動の方が早い。
女は勝利を確信した微笑を浮かべる。
鎧が切り裂かれる直後、技が発動する。
「ツイン ウェポン スキルを! 『クイックパワー』」
剣に秘められたスキルが解放される。
自分の身体の奥底から力が漲る。周りの景色が一瞬にして静止し、身体中のリミッターが解除される感覚に支配される。
「刻み散れ!! エクストラスキル『四薙四閃爪』」
一刀が振り下ろされると同時、四つの斬撃が同時に叩き込まれる。
ザシュッと肉を断ち切った独特の感触が手元に走る・・・しかし、それだけで終わるちんけなスキルではない。
返す刃を振り上げると、再び四つの斬撃が女に襲い掛かる。
そして次に横薙ぎに振り抜く・・・最初の二撃によって縦に断たれた女は、次いで襲い掛かった横薙ぎの一閃によって、キューブ状に刻まれる。
「終わりだ!」
最後に上段に振り上げ、渾身の力で振り下ろす。
肉を幾重にも刻み、人であれ何であれ、その形を生物と認識することができなくなるまで切り刻む。
一つの斬撃に三つの剣閃が追加され、合計四つの斬撃が四回襲い掛かるスキル『四薙四閃爪』。
初撃の隙が大きいこの技も、剣に込められたもう一つのスキル『クイックパワー』によって解消される。
相手が間合いに入ってさえいれば、一瞬にして殺すことができるスキルだ。
肉塊となった女を見下ろす。
やはり、魔族など死んだ後も汚らわしいものだ。
せめて土の栄養となり、少しでも世の為となれ。
肉塊を一瞥し、仲間の元へ向かおうと歩みを進めた・・・直後だった。
額にトンッと何かが突きつけられる。
「何処へ行こうというの?」
「ッバカな!?」
咄嗟に飛び退こうとするも、身体が言うことを聞かない。
そして、額を激しい痛みが襲い掛かる。
額に触れていたのは・・・先程肉塊にした筈の女の指であった。
女の指は、額を裂いて半分程中に入り込んでいる。
激しい痛み襲われながらも、倒れることも身動ぎすることもできない。
な、何故だ!?
今しがた殺した筈だぞ!!
確かに切り刻んだ感触が今も手元にあり、血の生暖かい感触も・・・。
視線を下向けてみると肉塊は煙となって消え失せ、身体を這う様に流れていた女の血液も同様に消失している。
「な、な、な」
「簡単なこと。私の魅了と幻術を掛け合わしただけです。感触もあったように感じ、確かに殺したという実感もあったでしょう。でも私は生きています」
ニコリと女は微笑む。
女は俺の『クイックパワー』と『四薙四閃爪』との重ね技の様に、幻術と魅了により俺に偽りの現実を見せていたのだ。
「避けていたのは全て私の幻影よ。私の掌踊る貴方は滑稽でしたよ・・・新しい技の実験や戦いの仕方を多く学ぶことができました。そしても、分析は終了しました。貴方に残っているのは」
女の顔に浮かんでいた笑みが消え失せ、冷酷な一言が紡がれる。
「死です」
身体が震え、死の恐怖が心の底から這い上がってくる。
持っていた剣を取り落とし、どうにかして額にある指をどけようとてを伸ばそうとするも・・・動かない。
思いっきり体に力をいれ、何とか少しだけ手を動かすことに成功する。
しかし、そのと時にはもう遅い。
額に触れた指が徐々に熱くなっているのがわかった。
「い、いやだ。死に、死にた、たくない」
「無理よ。主人様が殺せない分、私達が殺すもの。今ごろお仲間も死んでいると思うわ。それでは・・・」
女がそう告げる。
そして・・・俺の意識は額から吹き出る火柱と共に消失した。
「ふぅ、予想より早めに終わったわ。主人様に・・・誉めていただけるかな」
ハーピー観察日記
1:ユリィタ様から情報あり、マンモグラドン進化種→『マンモタイラント』
2:マンモタイラント対策会議開始。
3:マンモタイラント、南部進行中。
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ