帝都:湖畔の街でした!
オカマ襲来!
次話投稿は一週間以内です。
「ウッフ~ン。まぁた、会ったわねぇ」
「・・・そうですね」
清々しい筈の朝を吹き飛ばすかの如く、迫力のある顔面を持つ存在がズイッと身を寄せてくる・・・近い。独特の男臭さが鼻に突く・・・かと思いきや、女性の甘い良い香りが鼻腔を擽り、フワリとそこに美人が降り立った様な錯覚に陥ってしまう。
しかし、目の前に立つその者はマーダーボアも震え上がらせるだろう、ビッグフェイスの大男だ。そんな大男に少しでも女性らしさを感じてしまった自分に腹が立ってくる。
知っての通り、この人の名前は帝都で最も有名な服飾職人のエリーザ・ローラその人である。魔物と見紛うその外見とは裏腹に作り出す服飾の数々は繊細であり、常に新たな時代を切り開くそのデザインセンスは一般庶民だけに留まらず貴族達にも好まれている。
・・・で、そんな人と知り合うきっかけになったのは、あの商人貴族のウェルシュバイン様がエリーザさんに俺達の事を話し、興味を持ったエリーザさんが俺に指名依頼を出したのがきっかけだ。
結婚式に使うドレスのデザインが浮かばないと、俺に助けて欲しいというクエストであり、俺は前世の伝統衣装『着物』を提案したわけだ。
・・・さて、そして再びここに訪れた訳だが。
アドルフと酒場で飲み明かした次の日に、ヴァンクさんと同じくアドルフも急用が入ってしまったそうで、一時パーティーを離れることになってしまったのだ。
さしたる用事もなかったので宿屋でシロタエの膝枕を堪能していた所、宿の主人が部屋に訪れてギルドの職員が俺達を呼んでいると告げた。
そして、ギルドに趣いて用件を聞くと、エリーザさんから出頭要請が出ていて、仕方なく訪れたのである。恐らく着物が出来上がったのだろうけど、一体どういう風になっているのかが楽しみだ。
と言うのも、完璧な着物が出てくる事はまず有り得ない。なぜなら、専門家じゃないから着物の細部まで教えることはできなかったし、エリーザさんが何らかのアレンジを施すと考えていたからだ。
「まぁ、見当は付いているとは思うのだけれど、キモノのお披露目よん。やぁっと完成したわ」
ここに到着するや否や、シロタエはエリーザさんの奥さんに連れられて奥に消えている。
お膳立てされなくても、シロタエが連れられていった時点でもうわかっている。
「んじゃ、出てきなさーい!」
エリーザさんがそう告げると、奥の扉がゆっくりと解き放たれる。
開けられた扉から優雅な足取りでゆっくりとシロタエが現れる。
薄化粧を施したシロタエはまさに絶世の美女である。シロタエの小さな口に薄い紅を引き、シロタエの切れ長の瞳がいつもより際立ち、頬は薄いピンク色をしている。
そして、長い黒髪は・・・どうやら、エリーザさんの奥さんが切り揃えてくれたのだろう、黒髪は綺麗に整っており、流れる清流を思わせるその流麗な髪は一層艷やかさを増している。
そしてその長い黒髪が、歩く度に衣擦れの音と共にユラリユラリと揺れる。
・・・視線は自然とシロタエのほっそりとした体を包み上げるその衣服へと移動する。それは赤を基調とした少し派手な着物である。
着物・・・と言っても、前世で見たものと似てはいるが大分違う点が幾つもある。作り自体は俺が教えたものとほぼ違いないが、その衣服には装飾が施されており、薄い半透明の羽衣の様なそれが幻想的に揺らめいている。
そして、その着物を包む様にサリー?の様なそれを身に纏っている。
日本の伝統衣装の着物とインドの伝統衣装サリーを混ぜ合わせた様なそれは、前世の様に控えめな衣装であり女性の良さを際立たせるそれではなく、女性の妖艶さや美しさをより引き出させ、付加するそれへと変わっている。
しかし、それらはいやらしさを感じさせず服の調和が完璧に取れ、シロタエという素材も相まって最大限にまで引き出す事に成功している。
シロタエの白磁の様な美しい肌を紅い着物が隠し、その先を見てみたいという欲求に駆られる程に妖艶に映る・・・羽衣が黒い髪に重なる度に、シロタエの周りにだけ風が吹き抜けているのかと錯覚を起こさせる。
そして、そんな風に運ばれるかの様に、ゆっくりと俺の間合いにシロタエが入ってくるとクイッと俺の服の裾を指で摘まみ、小首を傾げながら告げる。
「私は・・・綺麗でしょうか」
懐に入ってそれを言うのはずるくないかな?
小柄なシロタエが俺の懐にするりと潜り込み、俺の顔を覗き込むと破壊力が普段の数十倍程可愛さが増すのだ。小柄な女性が男性を見上げる破壊力は、一撃で心を持っていく程に大ダメージを与える。
・・・ディーレがいなければノックアウトだったであろう。
「あ、あぁ、綺麗だよ」
「シロタエ姉、スッゴク綺麗だね!!」
潤んでいたシロタエの目がゆっくりと閉じられ弧を描く。その笑顔は花が咲いたような満面の物となり・・・俺の胸の中に飛び込んでくる。
ガシッと受け止めて半歩後ろに後退り、シロタエを受け止める。
ムフフゥと不気味に笑っているエリーザさんと、あらあらと笑みを讃えるエリーザさんの奥さん・・・そして、俺の頬を引っ張るディーレさん・・・なんで?
「えっと、シロタエ嬉しいのはわかるけど、離れて?」
・・・シロタエから返事がない。このままだと、俺の頬は引き千切れてしまいそうな程にディーレに抓られているんだ。
シロタエを引き剥がそうと肩をぐいっと押し返すと・・・あら?
シロタエの顔が真っ赤を通り越して、茹で蛸みたいに茹だってしまっている。
「あらあら、やっぱりまだ刺激が強かったかしらね?」
クスクスとエリーザさんの奥さんが笑い出す。
・・・成る程、こりゃしてやられたな。多分、今までの行動の全てが恐らくエリーザさんの奥さんの差金であろう。
普段そこまでシロタエはあそこまで露骨に迫っては来ない。
なにか仕込まれたんじゃないかとは思っていたが、やはり合っていたか。危ない。
茹だってしまったシロタエをコトヒラに託し、溜め息を吐いてエリーザさんに向き直る。
「あらぁん、もういいのかしらん?」
「はぁ、貴方の奥さんの差金じゃないですか・・・悪い冗談はやめてください。第一、シロタエが俺にあんな迫るなんてこと有り得ませんし」
「あらぁ・・・これはシロタエちゃん難しいわねぇん。自覚も何もあったもんじゃないわ」
ボソボソとエリーザさんが何かを呟いたが俺の耳には入ってこなかった。
それはさておき、俺に着物を見せる為だけに呼んだのではないだろう。此処に来てからジッとエリーザさんの顔を嫌々観察していたが、どこか困った顔をしているのが伺える。
「あぁ、それとだけどねぇん。一応試作品を相手方に送ったの。そしたらえらく気に入っちゃってねぇ、デザインが素晴らしいって賛辞を貰ったの。でも、自分が出したアイデアじゃないし・・・キモノのアイデアを最初に出したのは私じゃないって言ったら、相手の貴族がキモノのアイデアを出した方に会いたいと言い出したのよん・・・」
「うえっ!?」
「でねぇん、相手は貴族だし、断るのも難しいわけ・・・それに、結婚パーティーの正式な招待状まで貰ちゃったのよ」
・・・つまり、退路はないって事か。
どうやら書状にはキモノに対する賛辞がかなり書かれていたらしく、その中でエリーザさんは素晴らしい服飾職人だ・・・とも書かれていたらしい。
しかし、エリーザさんはそれに対して申し訳なくなってしまい、キモノのデザインは俺が出したという事を書状に書いてしまったらしい。俺の事を黙っておくとは言ったが、そこはプライドが許さなかったみたいだ。
結果、元のデザインを出した俺とアレンジを加えたエリーザさんの両方が呼ばれてしまったらしい。
・・・で、だ。この話には続きがある。
「普段は断るのだけれど、実は断れない理由があるのよねぇん。相手方が隣国の有力貴族様なのよん」
成る程。
その貴族様の事についてよく聞いてみれば、その貴族様は隣国『フェグズム国』の有力貴族であるそうだ。小国ではあるが、肥沃な大地であり武力もそれなりに有する国であるらしい。二代前には帝国と対立していたそうだが、現在は休戦中であるそうだ。
そして関係の改善を図るために、一代前の両王は外交を頻繁に行うようになったそうだ・・・。
で、そんな隣国の有力貴族様というのが、『フェグズム』にある湖の周辺にできた街、湖畔の街『チェルスレイク』の領主、『ニーディリア伯爵』だそうだ。
湖畔の街という事で漁業が盛んであり、そこから水揚げされる魚の多くは帝都に輸出されている。
・・・チェルスレイクの湖は観光等も盛んであり、水揚げされた新鮮な魚料理、綺麗な湖と良い街なのだそうだ。
領主であるニーディリア伯爵も良き領主として、有名であり領民の評判も頗るいいらしい。
そして、そんな領主様の娘の結婚パーティーとして俺とエリーザさんが呼ばれているらしい。どうやら、親族やら友人を連れてきてもいいという事だったが、シロタエとコトヒラもいいのだろうか?
「・・・わかりました。でも、貴族に対する礼儀作法とか全くわからないんですけど」
「そこは私と一緒にいてくれたらいいわん。それに、他の貴族はともかく、ニーディリア伯爵は寛容だから大丈夫だと思うわ」
「気乗りはしませんが・・・行くしかないんでしょうね」
ギルドの指名依頼宜しく、断るのは非常にリスクを被る事になる。寛容な貴族様だから断っても・・・とも思ったが、貴族からの正式な招待を蹴るという事はよほどの理由がない限りは許されないらしい。
目上の者が断る、又は同じ貴族が断るのならまだ通じるらしいのだが・・・俺の様な一介の冒険者が招待された場合は嫌でも参加するしかないそうだ。
依頼を受けていたらどうなるのかと聞けば、貴族権限で止めさせられる事もあるらしい・・・まぁ、大体は依頼者本人が依頼の一時取り下げをするそうだ。そりゃ貴族を敵に回すような事をしたがる者もいないだろう。
「出発までは時間があるから、しっかり準備なさい。衣服は此方が用意するわ」
「わかりました・・・」
こうして、俺達は隣国に行く事を余儀なくされた。
さて、あれから二日経ち、俺達は帝都を発った。
馬車に揺られること四時間程、馬車の中にいるのは俺とシロタエ、コトヒラ、ハンゾーそしてヴァンクさんの四人?と一匹。そして、自分達の前を走る馬車にはエリーザさんとその奥さんが乗っていることだろう。
出来ることなら、隣国に行く前にアドルフとヴァンクさんに会いたかったのだが、ヴァンクさんは帝都を出立する一日前に合流していた。
隣国で貴族の招待を受けた事を伝えると、驚いていたが来てくれた・・・しかし、帝都の兵士を目指しているが故に、パーティーには参加できないのだそうだ。
アドルフは結局用事があると行ったきり戻って来ず、仕方なく宿の主人に伝言を頼んでおいた。もしアドルフが戻って来てもいい様に隣国に出かけるという事を伝えておいたのだ。
できれば、伝言を伝え聞いて此方に向かって来てくれるといいんだけど。
「ユガよ。その伯爵様が開かれるパーティーはいつなんだ?」
「確か明後日の正午だったかな?」
「ふむ・・・ではまだ時間はあるのだな。湖畔の町といえば魚だ。酒場の料理は多様な魚料理を楽しめる。共にどうだ?」
「勿論喜んで!」
どうやらヴァンクさんはこの街に来たことがあるらしく、オススメの酒場があるのだとか。チェストレイクには漁師街故に、港の近くには多くの酒場があるそうだ。
そこは酒場の激戦区であるらしく、どの酒場も料理の腕は一級品であり、朝一で開かれる魚の市場に新鮮な魚を求めに行き、夜にはその魚を使った新鮮な魚料理を酒と共に振舞うらしい。
ヴァンクさんは多くの酒場を周っていたそうで、良い酒場やダメな酒場を分かっているらしい。
そういえば、この街は王都共交易があるらしく、直通の馬車が出ているらしい・・・あ、勿論ウェルシュバイン所有でございます。
それにしても、そんなに酒場に来るとはヴァンクさんはかなりここに来ているんだな。
「あぁ、よく部下を・・・あ、いや、友人と飲みに来たもんだ」
途中何か言って咳き込んでいたが、よく聞き取れなかった。まぁ、友人となら来るだろうな。
そんな他愛のない話をしながら馬車に揺られていると
「見えてきましたよ」
御者の人が俺達へ街が見えてきた事を告げる。
チェルスレイクの街を見ようと馬車から身を乗り出す・・・すると
目の前に広がるのは広大な湖・・・陽光を反射してキラキラと光り輝く湖は、広くそれでいて美しい。前世で一度琵琶湖に訪れた事があるが、それくらい大きな湖だ。
そして、その湖に面している街が、馬車の中からも伺える。
よく目を凝らしてみれば湖の近くには港の様な物が設けられ、多くの船が湖の上を漂っているのが分かる。
「おぉ・・・楽しみだなぁ」
「・・・だが、お前には貴族のパーティーも待っているんだぞ」
台無しだ・・・。
わかっていて言っているのだろう。ヴァンクさんはハハハと豪快に笑いながら、俺の背中をバシバシ叩いてくる。正直貴族とのパーティーなんていらないから、普通に観光させて欲しいんだけど・・・。
そうこうしている内に、湖畔の町『チェルスレイク』に到着した。
「宿はもう伯爵様がとってるらしいわん。あ、それよりもこのあと、ど~お♥」
「ウグッ、遠慮させて頂く」
エリーザさんが悪魔の投げキッスを投げ放ち、それをヴァンクさんは見事な動きでさっと回避する事に成功する。
やはり初めてエリーザさんに会った時は誰しもが驚愕する様で、馬車に乗る前に初めてエリーザさんに会ったヴァンクさんは剣を引き抜きかけていた。やはり、ヴァンクさんもエリーザさんが苦手なようだ。
「あなた、冗談言ってないで早く行くわよ」
「そうねぇん。それじゃぁ、付いてきなさぁい」
見事に悪目立ちしながら、エリーザさんは街道を進んでいく・・・むちゃくちゃな人だ。
「こんなにも広い池があるなんて知りませんでした」
「人間はどこにでも住めるんだね・・・」
「ヒソミヤスイナ」
シロタエは初めて見る広大な湖に驚き、コトヒラとハンゾーはなんだかよく分からない事で驚いていた。
チェルスレイクの街を歩いて行く・・・やはり水路が多い。湖に面しているだけあって、水路が作られていてその上を船がゆったりと流れていく。
橋が多く作られていて、家屋もかなりしっかりとした作りになっている。
街中の水は汚い・・・と思っていたが、それが意外にもかなり澄んでいて綺麗なのだ。
まさかと思ってディーレに聞いてみると。
『間違いないわ。ここらにはいないけれど、湖に精霊がいるわね・・・でも多分人間には近づけない場所の筈よ』
やはり精霊がいるらしく、里のような結界が湖の至る所に張っているそうだ。
ディーレ曰く、中位精霊の気配も漂っているそうで、水が綺麗なのはその精霊の恩恵なのだそうだ・・・しかし、やはり幾分か人間が汚しているみたいなのでディーレは不機嫌そうだ。
それにしても街並みが綺麗だな・・・小国と聞いていたから、もっと質素な街かとも思ったんだけどなぁ。
「この街は昔から帝都と交流があったんだ。戦争が起きたのは、政策の意見が食い違い過ぎて起きた二代前だ。それ以前は帝都との交易も盛んで、帝都の技術は今でもここに息づいているんだ」
ヴァンクさんに聞いてみれば、戦争が起こったのは二代前のことであり、その前から帝都と交易はあったそうだ。
で、緻密な装飾やら加工などは行えないが、整備であったり建設であったりは帝都と遜色ない程に技術力があるらしい。まぁ、湖畔ということで造船技術が発達している事が良い証拠だ。
そして、宿に着き・・・俺達は部屋へと向かっていった。
ハーピー観察日記
1:コクヨウ様とルリ様が森の奥地にて試合・・・結果:引き分け。
2:ソウカイ様とアレデュルク様、エルフ族族長様が茶会。
3:北部侵攻開始・・・制圧まで残り約80%
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!!