帝都:英雄と呼ばないででした!
英雄現る?
次話投稿は一週間以内です。
太陽と少量の雲が天を覆い、太陽に照らし出される景色は、生命の息吹が吹き荒れる大地・・・ではない。
帝都特有の人が汗水を垂らしながら必死に造り上げた舗装されている道・・・でもない。
太陽が照らし出したのは、何処にでもある一見すれば普通の村であり、柵があってその中に家が少し点在するくらいの村である。
しかし・・・だ。普段なら、農作業や水汲み、家畜の世話などで勤しむ村人の姿はなく、何かを拾い集めてはせっせと一ヶ所に集め焼却している。
そして村の中もこれまた酷い惨状だ・・・地面は真っ赤に染まり、そこらかしこに豚とも猪ともとれない魔物の死骸が散乱していて、村というよりかは戦場の跡地になってしまっている。
村人が集めていたのは、その魔物の死骸が生前ばら蒔いたであろう肉片やら臓腑やらだ。
派手にやられたのだろう、あちらこちらに飛び散っており、村人総出で村の清掃にあたっているのだ。
無論子供にこんな悲惨な現場を見させるわけもなく、現在は村長の家で待って貰っている。
すると、唐突に村人達が手を止めて門の方へ視線を向ける。
そこには、水を目一杯汲んだ大きな二つの樽を両手に持ち、それをヒョイヒョイと軽やかな足取りで持ち運ぶ人間の姿があった。
筋骨隆々の巨漢でもなく、魔法を扱って上に持ち上げているわけでもなく、細身のその姿から何処にそれ程の力があるのだろうか?
「主君。これをここに撒けばいいんですよね?」
「そうそう、派手に頼むよ」
二つ持っていた樽を一つ置き、一つを軽々と振り回す。すると、普段は風呂として使われているそれに入った水は、全て地面にぶちまけられる。
ぶちまけられた水は地面に染み込んでいき、赤々としていた大地をにわかに薄くさせる。
「ディーレさん。後は任せた」
『えぇ、わかったわ』
ディーレは手を一薙ぎすると、地面を赤々と染めていた魔物の血が跡形もなく綺麗さっぱりなくなり、元の茶色い土が姿を見せる。
それを見ていた村人達はざわめき、俺の方をじっと見つめている。まぁ、殆どの場合、魔法は貴族が習得するものであり、冒険者が使っている姿は異様なものなのだろう。
「冒険者は魔法も使えるだなぁ」
「あの方は特別に決まっている」
「シロタエ様が仰ってたわ。あの方は英雄よ」
「何でも一発であのでっけぇボアを倒しちまったそうだ」
・・・なんだろう背筋に嫌なものが走っている気がするが、努めて無視する事を心掛けよう。
俺とコトヒラは村に散らばった廃材や肉片やらの清掃を行い、果ては血が染み込んで異臭を放つ地面を綺麗にしている。
シロタエは村人の安否を確認し、ケアを行っている。それと同時に里で培った運営術を使って、今後の村の運営などを村長と話し合っているみたいだ。
・・・そこで嫌な何かが行われている気がするが、努めて無視する。
ハンゾーは俺とコトヒラが拾った使えそうな廃材を糸で補強している。この糸で補強した廃材はかなり頑強で、そこいらの木材より硬く丈夫になっているのはサービスにしておこう。
「そろそろいいかな?コトヒラご苦労様」
「いえいえ、主人様の為であればなんでもしますよ」
相変わらず屈託のない笑みを浮かべ、コトヒラ尽くしてくれるが・・・やっぱりまだ慣れないなぁ。
「主人様只今戻りました」
村長の家で話し合っていたシロタエが戻ってくる。傍らには村長の姿もあり、どこか緊張しているが・・・まぁたぶんあれに関してだろうな。
シロタエには村の運営についてともう二つお願いしていたことがある。
一つは依頼についてだ。今回の依頼はかなり異例であり、イレギュラーな事態が多数重なっている。
一つは言わずもがな『ダミーボア』の討伐で無くなってしまったことだ。依頼書に記されていたダミーボアだけでなく、上位ランクのマーダーボア討伐該当してしまっている・・・それも複数体だ。
依頼書と違った情報であり、俺やコトヒラ、シロタエなら大丈夫だけど、普通の冒険者であったのなら・・・まず間違いなく命はないだろう。
・・・巣に向かった筈のアドルフとヴァンクさんは、まだ帰っていない。
そして、もう一つは村の復興に尽力したことだ。これまた依頼外の案件であり、普通であればそんなものしるかと無視するか、追加の報酬を貰うことになるのだ。
最初のマーダーボアの案件だが・・・これはギルド側・村側の確認不足となり、両者から追加報酬を請求することができ、それも今回の報酬の数十倍程の額を請求できる。
その場合ギルドと村と半分ずつであるのだが、今のこの村にそれを支払える程の余裕はない。
復興についてもそうで、この村には現在財力がなく、復興資金を出すお金もない。
で、だ。
シロタエに頼んだのはその依頼の報酬は、受け取らないことにしてくれと頼んだってわけだ。
つまり、マーダーボア討伐も、村の復興もボランティアだと言うことになる。
あくまでも俺達のぶんなわけで・・・アドルフとヴァンクさんの分は含まれていない。
そして、もう一つの頼み事っていうのが一番難しいものなんだろう。
今回の襲撃で、村は多大な被害を被ったわけだ。
ダミーボア達に畑を荒らされ、挙げ句の果てにはギルドに討伐依頼を出したが、今度はマーダーボアを引き連れた襲撃だ。
畑はどうしようもない程に踏み固められ、当然農作物は全滅。俺がマーダーボアと対峙している間に、ダミーボアによって多くの家畜が食い荒らされてしまった。
アドルフが出した条件ではダミーボアは食料として村に残していくが・・・その後が大変なのだ。
冬であればダミーボアを食べて凌げるかもしれないが、その後に待っているのは困窮だ。
家畜を買うお金もなく、それどころか農作物の種さえも満足に買えない状況であるのだ。
・・・何とかしなくては、春を迎えても満足に農作業もできず、飢えていくばかりとなるだろう。
・・・で、申し出たのが一つ。
ユルバーレからの援助である。幸い里には農作物に関しては、そこいらに自生していて、最近ではユリィタさんとアンネ指導の下畑も作っていたはずだ。
里と帝都は離れていて直ぐにとは言えないが、春を迎えればアンネの馬車を借りて援助はできるだろう。
そうなると問題が一つ。
自分達の存在を打ち明けねばならないわけで、恐らく既にシロタエは自分達が魔族だと言うことを伝えているのだろう。
「シロタエ様から話を伺いましたが・・・本当に宜しいのでしょうか?」
「別に構いません。しかし、アドルフとヴァンクさんは別だと考えてください」
「村の復興、マーダーボアの討伐報酬もいらないと・・・それに、これからの村の復興援助もしてくださるというのですかな?」
「はい。けど、俺達は」
そう言って、体に少し力を入れる。
すると背中から二本の長い触手が生え、目の色が漆黒と赤に染まる。
シロタエの額からは二本の角が伸び、口内に生え揃った歯は鋭利な牙となり生成される。
コトヒラも同じように額から一本の角が生え、上がった口角の隙間から牙が覗いている。
ハンゾーは変わらないが、前脚を上げている・・・威嚇?
「魔族ですけど、大丈夫ですか? 恐らく春を越えてここに来る連中も俺達と同じで魔族で、見た目は魔物と変わらぬ者もいます」
それを見ていた村人達は驚いた様に目を見開く。さすがに俺達が魔族だということは想像もつかなかったようで、皆が皆口を開き呆気に取られている。
帝都では差別とまではいかないまでも、あまり良くは思われていないらしい。
・・・さて、どうでるかな?
長い沈黙が続き、村人達が互いに目を配る。
「・・・まぁ、いいんじゃねぇか?」
と、誰かが呟く。
「魔族って怖いイメージだったけど、優しいのね」
「普通の人じゃねぇって最初から思ってた。逆にそれ聞いて安心したが」
「魔族でも貴方達は立派な英雄さね。内の村を命掛けて守ってくれたもの」
「村の子供まで救って貰って、今度は村の援助と来たもんだ・・・あんた達は本当に英雄だよ」
村長は村人の言葉を聞いて、緊張した面持ちから口許は緩み、微笑みを称えた。
ありがとうございます。お願いしますと頭を下げ、俺の手を取った。
村人達は口々に英雄、英雄と口ずさみ、それは次第に英雄コールの様になってしまう。
・・・や
や・め・て・く・れ!!
本当にやめてくれ!!
本来であれば英雄よ感謝され喜ぶのだろう。人々から感謝され、ありがとう、ありがとうともて囃されて、『英雄』の名前を欲しいままにするにが普通であるのだろう。
だがしかし!俺の腹の中は真っ黒の煤まみれなのだ!!
・・・それは何故か。
まず一つ目に、畜舎をぶっ壊した張本人は俺であり、家畜をたくさん殺したのは俺だからである!!
マーダーボアとの戦闘に熱中しすぎるあまり、戦闘の二次災害として半壊だった畜舎を全壊させ。逃げ回る家畜達を踏み潰したり刺し貫いたり、吹っ飛ばしたりやりたい放題だったのだ!
しかも普段の俺であれば、もうちょっと穏便にできたはずだし、ちょっと怒っていたというのと・・・そのぉ、格好良く勝ちたいという見栄がすこーーーーし合ったのだ。
その結果調子に乗って村の貴重な資源を無駄に消費させたのだ。
二つ目は、農作物を全滅させたのは俺達・・・いや、俺なのだ!!
そうだな、ダミーボア達が現れた門の近くに畑があるといえば通じるだろうか?
そう。おかしいと思ったのだ。
コトヒラもシロタエも何かセーブしつつ戦っている感じがしたのだ。いつもなら自重なんてものを全くしない二人が、ダミーボアやマーダーボアをチマチマと門前に引き留めながら戦っている。
初めは目立ってしまうから、人間達を怖がらせてしまうからセーブしているのかと思ったのだ。
違ったのだ。
二人とも、村の畑に危害が加わらないよう最小限の力で戦っていたのだ。
それじゃそんな二人に『一発だけ許可する』なんて言った、馬鹿な不届き者はいったい誰だ!!
俺だよ!!
結果は簡単だ。自重しなくていいんだ!って勘違いした三匹は全力で一撃を放ったわけだ。
シロタエの放った一撃でしっかりと整えられた畑は捲れ上がり、農作も風の圧力で押し潰される様にして消失してしまった。
コトヒラの一撃は大丈夫じゃないかと思ったら、あの刃の光線?に触れた作物は枯れ果てており、土壌は全く耕されていないそれへと変わってしまっていた。
ハンゾーの一撃は、農作物を売り物にも食用にも出来ない程に細切れにしてしまっており、大事な種さえも細切れにしてしなっていたのだからもうどうしようもない。
・・・さて、ここまでして俺が英雄だって言えるのか?
横で俺の武勇伝を自慢気に話し、俺を英雄に持ち上げたシロタエを恨む。
英雄、英雄、英雄、英雄・・・もうやめてくれよ。
心の中でやめてくれと叫んでいると、村人の中から包帯で脚と腕を固定した少年が現れる。
包帯が巻かれていない部分から覗く体のあちこちには、擦り傷や切り傷があり、顔も少し腫れていた。
あぁ、まずい。非常にまずい。あぁ・・・やばい。
これは間違いなく、あのパターンに入ってしまっているだろう。
「ユガの兄ちゃん・・・えっと、ありがとう。ユガの兄ちゃんが言ってたみたいに、どうしても守りたい物を頑張って守ろうとしたんだけどやっぱり駄目だった。怖くて、痛くて、死んじゃうかと思ったんだ。だけど」
・・・
少年・・・レブ君は屈託のない笑みを浮かべて、花が咲いたような満面の笑みを浮かべて告げた。
「僕を・・・村を命を掛けて守ってくれて、本当に格好良かった!! 守りたい物は背中に一歩も引かないユガ兄ちゃんが眩しくて・・・本当に眩しくて!! 僕にとっての英雄はバーバリアスじゃなくて、ユガの兄ちゃんだよ!!」
アアアアアアアアアアァァァァァァァァァァーーーーーーーーーー!!!!!
レブ君がギュッと抱きついて来る。
村人達全員が歓声を上げ、挙げ句の果てには泣いている人さえ出てくる始末だ。
英雄?俺の何処が英雄だってんだよ!?
さいっていのゲス野郎って言われた方がまだましだよ!!
「将来はかっこいい冒険者になる! ユガ兄ちゃんみたいな強くて優しい英雄になってみせる!!」
・・・あぁさいですか。
この村がこうなった原因は完全に俺にあるわけで、本来責められてもいい筈なのだ。
それなのに、英雄扱い・・・挙げ句の果てには、アドルフやヴァンクさんが冒険者は危ないと、騎士道に目覚めさせようとレブ君に言い聞かせていたのに・・・結局俺のせいで元の冒険者になりたいって夢を助長させてしまった。
もう・・・どうにでもしてくれ。
「おーい!! ユガーーー!!」
アドルフとヴァンクさんが、肩を支え合いながら村へと戻ってきた。
「それじゃあ、俺達は帝都に戻ります」
「本当にお世話になりました」
村の人達全員が見送りに来てくれ、もう何も感じなくなった冷め切った心に鞭打って顔をひくつかせながらも手を振る。もうここに来ることはないだろうな・・・。
シロタエもコトヒラは誇らしげに胸を張っているが、今回に関しては二人が悪いのではなく完全に俺が悪いわけで、怒るわけにもいかないのだ・・・。
「俺達がボアの巣に潜っている時にあんな事になっていたとはな」
「さすがユガ・・・Aランク冒険者っていうのは凄いんだねぇ」
アドルフとヴァンクさんはダミーボアの巣を見つけ、その中に入って行ったらしい・・・すると、中から大量のダミーボアが現れ戦闘になったらしい。
その巣というのがかなりイレギュラーだったらしく、普通のダミーボアの巣とは違い、広さや深さもかなりのものであり、ダミーボアとの戦闘で出口がわからなくなったらしい。そして脱出にかなり時間を要したらしい。
どうやら、巣の方にマーダーボアは出現しなかったらしく、こっちにマーダーボアが現れた事を話すと、二人は驚いて固まってしまっていた。巣の方には大量のダミーボアは居たものの、やはり強さはたいしたことがなく全て倒せたらしく、巣も駆除したらしい。
今回の一件をギルドに報告すれば、間違いなく二人共兵士になれるだろう。
それに二人共やっぱりというか、報酬の件は最初のままでいいと言った。アドルフは報酬を受け取らないことも視野に入れていたのだが、実は報酬を受け取らないのは規約違反であり、今回のイレギュラーを除き初めに提示された金額はしっかり受け取らなければならない。
二人はそもそもマーダーボアを倒しておらず、自分達が受け取る権限はなく、巣の駆除はダミーボア駆除の一環である・・・ということにしているそうだ。
・・・一方俺はといえば、報酬は金銭でなく物品で貰っているという事にしている。村の援助と言っても、正直人と里の配下達との交流が図りたいだけであって、それを報酬としている・・・はぁ、こんな腹黒のどこが英雄なんだか。
因みに、二人にはまだ魔族だと言う事は伏せている。村の人にも自分達が魔族だという事は秘密にして貰う様に伝えておいた。
帝都への帰路に着き、ゆっくりと道を歩いていると、アドルフが一言告げる。
「あの村の人達はなんで帝都に助けを求めなかったんだろう?」
「んぇ?」
「あそこは帝都の領内でしょ? 国の援助があってもいいと思うんだけど」
「あぁ、えっと、確か」
あぁ、それは最初に俺も聞いた覚えがある。
どうやら国の援助は受けれないらしい。受けれたとしても微々たるものであり、ないよりはましといった程度だそうだ。そして、帝都から離れているあの辺境の村では援助は受けれないそうだ。
援助を受けている村というのは、帝都から近くにある村でありある程度の規模がある村である。大きな村には多くの援助があるそうで、小さな村には見向けもされないのだとか。
・・・でも、大きな村だから援助っていうのがよくわからない。大きな村だからその分消費が多いと言われればわかる気もするが、大きな村ならその分収穫も多いと思うんだけどなぁ。
だからこそ、小さな村にこそ援助しなければならないんじゃないかなと思うのは前世の影響なんだろうか?
「・・・って理由があるらしいよ」
「・・・・・・・・・ふーん、そっか。ありがとう」
アドルフは俺の話をじっと真剣に聞いて、わかったと一つ呟くと鋭い目付きで何かを考え始める。そのアドルフから一瞬、冷たいものがゾワリと這い上がって来るのを感じた。
「えっと、アドルフ?」
「ん? あぁ、ごめんね。ちょっと考え事してたんだよ」
「あ、そう?」
アドルフから感じたのは何だったのか・・・しかし、そこから帝都に帰るまで、特に何も感じることはなく無事帝都冒険者ギルドまで帰り着くことができた。
今はまだ、あんなことになるなんて思いもつかなかった・・・。
side---???
「・・・伝言です」
「なんだ?」
「腐った膿を排除しろとのことですね」
「・・・今度は誰だ?」
「・・・の担当の者でしょう」
「わかった。証拠を集め次第排除に」
「もう集まっています」
「そうか・・・それでは即刻膿を排除せよ」
「御意に・・・王の御言葉のままに」
「・・・ヤレ」
ハーピー観察日記
1:ヨウキさんの腕相撲対決不敗記録100勝目突入
2:ミリエラ様とキク様が滝の麓で瞑想中
3:北部森林から魔物の群れの進軍を確認、対処を検討
宜しければ、本文下にある評価の方是非ともお願い致します!
遠慮なくこの物語を評価して下さい!!
何か変なところ、見にくい、誤字だ!などがあればどしどし教えて頂けると嬉しいです。
(言い換えでこういうのがありますよなどが合ったら教えてください。例:取得→習得、思いやる→慮る、聞こえる→耳に届くなど)
感想や活動報告の方にコメント頂けると私の気力になりますので気軽にどうぞ!!