第0話.プロローグ
はじめまして。
円杜優衣と申します。
初投稿です。よろしくお願いします。
「ありがとうございましたー……はぁ」
今日もお客さまを笑顔で送り出す。
俺の名前は北岡魔琴。
高校卒業後特になにか夢があったわけでもなく、なし崩し的にフリーターとなって数年が経ってしまった、どこにでもいる普通の男だ。
ここは都内某所、店長が個人経営している小さな飲食店だ。
俺は今この店でアルバイトをしている。
お勧めのメニューはお客さまにばれないようにチンしてお出しするレトルトのパスタ。
なぜか好評で内情を知っている俺からすると、正直早く誰か気付いてくれよと、日々そう思いながら料理を届けに行っている。
こんなお店だけど常連さんは意外にも多く、お昼の時間のシフトはかなりハードワークになってしまう。
今日も何とかお昼時の忙しい時間が過ぎ去り、客が少ないこの時間を満喫している最中だ。
ガッシャーン!
店内に大きな音が鳴り響く。
はい、癒しの時間終了です。
おそらく新人が何かミスをしたのだろう。
すぐに店長の怒鳴り声が聞こえてきた。
俺は急いで音源へ向かう。
「コラ新人! 何やってんだ!」
「す、すみません!」
「てめぇ! またやりやがったな! もう明日から来なくていい!」
すぐに謝り割ってしまった皿を片付け始める新人君だったがそれを終える前に店長にクビを言い渡された。
あぁ、また新人がクビになった。
大体この店のバイトは一週間でいなくなる。
理由は皆一緒。この店長についていけずにいなくなるのだ。
しかしこの新人君は違った。彼は店長の暴言や横暴に負けず一カ月戦い抜いたのだ。
そんな彼を見て、
「俺も負けないように頑張らなくちゃな」
なんてこの俺が思うわけがなく、
「よし、これで彼にこのバイト先を押しつけてとっととここからおさらばできるぜ!」
とそう思っていた矢先に彼がクビになってしまった。
彼が辞めたいと言い出したら何とか説得して店に残ってもらおうと思っていたが、店長に直々に首を言い渡されたらただのアルバイトの俺にはどうすることもできない。
くそぅ、何でこんなことになってしまったんだ! やってらんねー!
なんてことを考えていると、
「なに自分は関係ないって目で見てんだ チーフのてめえの指導不足だろうが!」
こっちに飛び火してきた。
今日の店長はやけに機嫌が悪いな。
しかし、機嫌が悪いのはこっちも同じだ。
目の前のアホを押しつける相手を失ったのだ。
次にまた彼のように比較的長続きしてくれる人材がいつ来るかなんてわからない。
……あれ? だったら俺が辞めればこの店潰れるんじゃね?
少なくとも大打撃にはなるはずだ。
おし、俺もやめよう!
あ、でもどうせなら徹底抗戦して言うこと言ってからやめてやろう。
よーし!
「お言葉ですが店長!」
「てめぇ! バイトの分際で口答えするのか!」
店長、まだ何も言ってません。
「オイ、てめえ聞いてんのか! 北岡! 大体いつもてめえは―――」
―――ぷっつーん―――――
俺の中で何かが切れる音がした。
「うるせぇええええええええええええええええええええええ!
散々俺をっ! 俺たちをっ! こきつかいやがってぇぇえぇええええええええええええええ!!!!」
俺は今日生まれて初めて吠えた。
「これはっ! 体を壊して辞めていった後藤の分!
これはっ! 心が不安定になって辞めていった東條先輩の分!
これはっ! 寿退社で辞めていった中本さんの分!
そしてこれはっ! 数年間散々こき使われたっ! 俺のっ! 怒りだぁぁぁぁああああああああああああ!!!」
俺は店長を思いっきりぶん殴った。
この数年間をぶつける気持ちで思いっきりぶん殴った。
他人を殴るのに勇気はいらなかった。
必要だったのは殺意と、それに逆らわない行動力だった。
「思い知れ……俺たちの、怒りを」
店長が思いっきり飛んでいくのを横目にそう吐き捨てる。
いい気味だ。この数年間こき使ってくれやがって。
店長がピクピクと痙攣した後動かなくなったのを確認して俺はエプロンを脱ぎ捨てた。
「今までお世話になりました!」
俺はそれだけ言うと店の出入り口を蹴り開け店を出る。
普段の俺がおとなしかっただからだろうか、最後に見たぽかんとしたほかのスタッフや客の顔が心地よく、俺は前を確認せずに店を出てしまった。
扉の先が真っ暗な闇に包まれていることに気がつかずに――。
次回から本編に入ります。