義務じゃないなら、従う必要を見いだせなかった
二者面談したい、と言ったのは担任のくせに私よりも遅いとは一体どういう事なのだろうか。
そもそもまだ二者面談なんてする時期じゃない。
しかも私の予定をずらして二者面談を入れたのだ。
向こうの予定を尊重して。
なのに遅れるなんて意味が分からない。
はぁ、と溜息一つ。
もういっそのこと帰ってしまおうか、なんて気持ちを押し殺すように私は読みかけの本を開く。
小説を愛している私からすれば、横文字の携帯小説なんて邪道そのものだ。
サイトに上げている間ならまだしも、単行本化するならば縦書きに直して欲しい。
むしろ直すのが筋だろう。
目で文字を追いかけて次へ次へとページを捲る。
一種の作業にもなりそうなそれを繰り返していると、扉が開いて声がかけられた。
「ごめんごめん。待ったよね」
本当だよ、という本音は飲み込む。
いえ別に、とかそんな建前を吐きながら本に付属の栞を挟んで傍らに置いた。
担任はいそいそと私の目の前に座り、こちらを伺うように覗き込む。
あぁ、そういうの、嫌い。
「それで、今日は何ですか?まだ、二者面談とかそういう時期じゃないですよね」
早く用件を言えよ、とばかりに口を開けば担任は少しだけ眉を下げた。
そういうの、要らない。
心の中で舌打ちをしていると、担任が静かに私の方に身を乗り出して来た。
反して私は身を引く。
担任が机の上に何かの紙を滑り込ませる。
そちらに視線を置けば、それには私の五段階の成績が記されていた。
別段悪い成績ではないはずだ。
全て三以上で埋められている。
何の問題もないはずだ。
「何か問題ありますかね?」
首を傾げながら、目の前の紙を指差す。
数字をなぞっていき何が問題なのか問うが、担任はそういう意味じゃないとばかりに溜息を吐いた。
コツコツ、と担任が指し示したのは英語の成績の場所だ。
「成績はいいんだけど普段の授業がだな」
「でも提出物は完璧です」
「……提出物はな」
つまり何が言いたいのかといえば、授業中に寝るなということだろう。
寝るけれど。
そんなの関係なく寝るけれど。
少なくともほぼ全部の授業を寝ていても、これだけの成績を取っていて何も言われてこなかったのだ。
今更あーだこーだ言われる筋合いはない。
私はふんぞり返るように椅子に座って、何か文句があるのかとばかりに担任を見た。
「あのな……成績がいいのは勿論いい。だけどな、授業をちゃんと受けることから……」
「でも」
担任の話を遮った私。
成績表を見ていた担任は顔を上げて私を見た。
「それでも授業を聞くよりも成績が上がっているのは事実ですよね。無駄なものを省いて生きて、何の問題があるんですかね?」
目を丸めた担任に、これまで見せたことのない笑顔を向けて見せた。
本当、学校なんてくだらない。