非日常への扉
どうにも動けないものがある。
車輪が壊れた車のオモチャ、
さびれたブランコ、
博物館に飾られた展示物、
誰もいない遊園地、
みんな、動けない。
どこにも行くことができず、
ずっと停滞している。
だけど、それは誰にも傷つけれない。
永遠に傷つくことがない。
僕はそういう風になりたかった。
僕は何事にも脅かされない絶対な安心、平和を求めていた。
僕は平和を愛し、日常を嫌う。
(君は僕と正反対だね)
と君は言った。
(どういとこが?)
と僕は尋ねた。
(君は日常を愛してる)
彼はとても不思議な青年だった。
ひょろっとしていて、
深々と帽子をかぶっている。
僕よりひとつ年上と聞いていたから、
おそらく十七歳だろう。
彼はだいたい校舎の屋上にいる。
僕と彼は冷えている手すりに
持たれかかっていた。
冷たい風が頬を撫でた。
もう、コート用意した方がいいと
僕は思う。
山奥に建てられた校舎に
風を遮るものは何もない。
そろそろ十二月だ。
これからどんどん気温が下がる。
(僕に日常は耐えきれなかった)
彼はそう言う。
(毎日同じ事のループ、だけども、
同じことなんてない、
毎日が毎日同じことなんて絶対にない)
確かにそうだと、僕もそう思った。
(もし、毎日が同じで、変わりばえの
ないものなら、僕みたいな奴がたくさん
いるだろうね)
彼は日常から脱落、抜け出していた。
(非日常も3日経てばただの日常になる、
だから僕は変わり続けなればならない)
そう、彼は普通ではなかった。
僕たちが非凡だと思うことを彼は、
普通のことだと思っている。
そんな彼に憧れていた、具体的に何をしてるとかは
知らないけど、とにかく憧れていた。
その時、チャイムが鳴り響いた。
(それじゃ僕そろそろ行くね。)
そう言って、僕は自分の戻るべきクラスに向かった。