冷たくて熱い出会い-1
《一ヶ月前》
いつも通りの学校生活。
「おはよー、陽菜さん。」
「おはよう。」
普通に登校し、普通に挨拶を交わす。
いつもと少し違うのは今日は転校生が来る日らしいのだ。
まぁ、私にとってはあまり取るに足らない出来事には変わりない。
私のクラスに来るという噂だが、多分一言二言喋って終わりになるだろう。
私は喋るのが苦手だ。挨拶程度は普通に出来るが、それ以外でクラスメイトとほとんど会話はしていない。
日向陽菜、という名前で勘違いされがちだが…。
教室の戸を開け、中に入ると何人かの女子が私を見る。
「お、おはよう、陽菜さん。」
「おはようございます。」
クラスメイトがいつも挨拶をしてくれるのは本当にありがたいのだが、気のきいた返しが出来なくて毎回申し訳なく思っている。
教室には女子しかいない。言い忘れていたがここは女子高だ。
いつも通り席に着き、昨日から読みかけの本を取り出す。
HRまで時間があるのでこれでも読んで時間でも潰していよう。
…気づけばもうHRは始まっていて、何やらクラスが慌ただしい。
本を読んでいる時、周りの音が聴こえなくなるのは私の悪い癖だ。
クラスが騒がしいのは既に転校生が来ているからだろう。
私は視線を本から黒板の方に移した。
「…可愛い。」
前を見た瞬間、ふいに口からそんな言葉が出てきた。
黒板の前に立っている女の子は、とても可愛いらしく優しそうな女の子だった。
黒板に書いてある名前は、『新海小雪』。
名前までとても可愛らしいものだった。
きっと、名前通り海のように穏やかで雪のように可憐な人なんだろうな…。
しかし、そんな私の思考は彼女が放った言葉によって呆気なく霧散することになる。
「エブリワンの皆様、おっはー!☆ミ北海道から転校してきた新海小雪でっす!!よろしくNE!!」
…状況が把握出来ないのは私だけだろうか。
否、周りの人達も驚いている。中には目玉飛び出てる人もいたぞ…。
状況を整理しよう。黒板の前に立っている女の子は黒髪ロングで、胸も大きい。顔立ちは端正でスタイルも抜群だ。
「あれあれ!?皆、元気無いな~。挨拶はちゃんとしないとダメだよ?☆ミ」
えぇぇぇ、そういうキャラなん…?予想外過ぎるわ…。
というか、エブリワンの皆様って被ってるし…。話し方も何なんだ、あれ。
「えー、というわけで…。皆、新海と仲良くしろよ!」
何で先生は普通なんですか。明らかにおかしいでしょ、この状況。
誰もついていけてないよ。誰も飲みこめてないよ、状況を!
そんな微妙な雰囲気もお構い無しに、先生は続ける。
「じゃ、新海の席は…おっ、日向の隣が空いてるな。取り敢えずそこに座ってくれ。」
「ラジャだぜ、桜ちゃん(先生の名前)!」
あっれー、おっかしいな。今私の隣って聞こえたんだけど…。
「よろしくな、陽菜ちゃん!」
ひぃ!?もう隣座ってるし!?
右手を差し伸べてる…これは握手しようってことなのかな…。
「よ、よろしくお願いします新海さん…。」
取り敢えずそれに応じてみる。手を掴んだ瞬間、熱く包容された。
「ノンノンノン!!気軽に小雪って呼んでよね!!ブラザー!☆ミ」
友達通り越してブラザーまでいったよ、この人…。
イメージと、違い過ぎるッ…!!
「ははは。仲良さそうで何よりだ。日向は昼休みにでも新海に学校案内してやれよー。」
「ちょ、先生…!」
ちょっと待て、と異義を申し立てようとしたところを先生の目で射殺された。
…あぁ、先生も相手するの嫌なんですね…。もうその目を見れば一瞬で分かりますよ…。
そして先生は教室を出ていってしまった。
いたたまれない雰囲気の教室。その元凶は私の隣で今も尚ニコニコ笑っている。
「…新海さんって、全くイメージ違うね…。」
「うん、ちょっと関わりにくいかも…。」
そんな会話がちらほら聞こえてくる。しかし本人は全く気にしていないようで、満面の笑みを浮かべている。
「陽菜ちゃんは、本を読むのが好きなんだねー!!超イン☆テリじゃん!」
「え、えぇ…まぁ。」
ただてさえ会話が苦手な私がこんな異次元な人と会話出来る訳ないじゃん!!
誰かに助けを乞おうかと思ったが友達がいない。詰んだ。
「せっかく友達になったんだから、一杯お喋りしようねー陽菜ちゃん!☆ミ」
あ、でも普通にいい人かも…。
なんて思ってた時期が私にもありました。