夏は君を許さない
夏は君を許さない
じっと部屋に閉じこもる君を許さない
冷房のきいた車内に居ることを許さない
初めないことを許さない
停滞を許さない
じりじりと背中を焼いて急かしてくる
歩け歩けと急かしてくる
山から降りて海を目指せと急かしてくる
その途中に向日葵畑に寄れと囁いてくる
一本盗んで逃げるんだ、と囁いてくる
アスファルトの陽炎を許せと、嘯いてくる
我儘だ
夏は我儘だ
夏は通り雨を睨む
そのくせ、その後の涼しい風に微笑む
麦わら帽子と白いワンピースなんて着てくる
夏は傲慢だ
そしてしたたかだ
それが自分に一番似合っていると知っている
君はそれに打ちのめされる
向日葵くらい盗んできたくなる
夏は無邪気に笑う
結局、君も笑ってしまう
入道雲を見てソフトクリームを食べたいと言う
結局アイスキャンディーで妥協する
ソーダも空の色だから、と偉そうに言う
舌がピリリと冷やされる
夏は君を許さない
海まで来たのに、許さない
向日葵を盗んだのに、許さない
ソーダのアイスを買ったのに、まだ許さない
夕焼けの空を睨んで、夏は言う
切なくなんて、なるんじゃないよ
まるで私が死んじゃうみたいだ
そして夏は去ってった
今年の夏が去ってった
何ともひどい話じゃないか
来年の君は
背が伸びてるっていうのにさ