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Wrong Gears  作者: 無駄に哀愁のある背中
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第六章:届かないそれぞれの声

「医療ドラマって失敗する場合、ほとんどないよね?」、はい七章です。ぶっちゃけ最初は七つに分けて終了にしようと思っていたのに、こことここの間開けたいなんて思っていたら、まだ3/5しか終わってないです。頑張ろう残り。

     〇

 二月中、俺はずっと泊まり込み体制で大学にいた。家は近いのに帰らなかったのはそれだけ忙しかったのではなく、椋乃の勉強の邪魔になるのが嫌だったからだ。まあ、本当の話をすれば、椋乃に会えば刑事さんと調べていることを喋ってしまうかもしれないからだ。刑事さんと会って、「等々力勝」に焦点を絞った日から考えていたが、俺は椋乃の中でいらない記憶をフラッシュバックするのを恐れてなにも話さないようにしていた。だから、俺は避けるように、でも応援するように、傷つけないために椋乃と距離を置いた。そんな中、二月の下旬椋乃から合格を知らせるメールがきたのだ。俺は色々と文章を考えたが、どれも刑事さんと調べていることを伝えたくなるせいで変な文書になってしまう。だから、「流石!」としかメールを返せなかった。でも、俺は次に椋乃に会うときに祝賀会をサプライズで行うことを決めた。椋乃の喜ぶ顔が楽しみになった。そんな中、俺は大学に寝泊りをしているため、加賀見春花と一緒にいる時間が長くなった。春花さんは俺の真似をして休憩室に泊まったり、実験の準備を手伝ったりしている。ある日、学校の隅にある倉庫から長い間使っていない実験器具を取りに行くように教授に頼まれたので向かった。もちろん、春花さんもついてきた。

「ねぇ先輩、この中身ってなんなんですか?」

 俺が台車に積んだダンボールを指さしながら春花さんは言った。

「なんだろうね? まあ、教授の専門が病理学だからその周辺機器じゃない? まあ、重くないしさっさと運んじゃおう」

「そっか、叔父さんは病理だもんね。でも、実験って、また人間の解剖なのかな。あそこまで心臓、解体しちゃうと流石に慣れないよ」

「また、解剖かもねー」

 春花さんと話しながら台車を引いていると、目の前から付箋を大量についた文庫本を二人して覗き込む二人組の男女がやってきた。始めは誰だがわからなかったが、近づくとわかった。それは懐かしい人だった。

「おーい」

「お、おう! 楠雄じゃん!」

「おっす、久しぶり! そっちは元気?」

「うーん、あんまりかな。お前は元気そうだな」

「まあ、元気かな。学はやっぱり体調崩してんたんだ」

「うん、まあな」

 学は俺と椋乃と洋の幼馴染の四人組の一人で、一浪ながらも俺と椋乃と同じ国立の文学部に入学したやつだ。でも、なんか去年の二月から半年くらい学校に来ていなかったらしい。親御さんの話によると、精神的な病気らしく学からは、直接的に話を聞くことはしなかった。

「体調崩して、最悪のことばかりだなって思ってたんだけど、今はいいことばっかだよ」

「そっか、もしかしてその横の人?」

 横にいるロングスカートでニットのセーターを着たその人は俺を見て会釈をすると、学の腕をそっとつかんだ。

「うん、一応、彼女? 学年が一個上なんだけどね。俺さ、学校休んでいたせいで一個落ちてるから、元同学年なんだけどね。彼女がいっぱいお見舞いしてくれてさ」

「そっか、学に彼女か……信じらんないわ」

「俺だって、楠雄に彼女がいるなんて信じられないわ」

「え?」

 学は春花さんのほうを見ながら言った。見てみると、俺の白衣を春花さんが掴んで、学にニッコリと笑っている。

「どーも、初めまして。学? さんですか? お話は楠雄さんからたまに話は聞いてます! 幼馴染なんですよね! いいですね、そういうの! 私は楠雄さんの彼女の加賀見春花です! よろしくお願いします!」

「よろしくね、春花さん」

 俺が驚いたのは学が簡単に順応したことでも、呼び方が楠雄さんになっていたことよりも、やはり突然彼女と名乗ったことだ。

「え? あれ? どうなってんの?」

「まあ、楠雄さん、なんでもいいじゃない」

 なんかそう言われるとなんでもいい気がして、テキトーに流したが学の彼女だけはなにか察して少し笑っていた。

「そうだ、楠雄!」

 学はバックの中から一冊の文庫本をだした。

「ん? なにこれ、え? 新島学著……まさか、作家デビュー!?」

 いつもクールだった学らしくなく、ニンマリとしながら言った。

「うん、デビュー! いいでしょ! まあ、彼女の支えがあったからだけどね」

 学の後ろの彼女は恥ずかしがっていた。話によると、学校を休んでいる間に今の彼女に小説を書く事を勧められて、書いてそれを彼女さんが推敲して投稿したところ、本になったらしい。今度の新人の賞の最優秀に選ばれているらしく、公表は一週間後らしい。なんだろうか、昔の学とは違って一皮むけて明るくなったようだった。

「なあ、学?」

「ん?」

「元気になったら、また集まろうぜ! 俺とお前と洋と椋……」

 突然、学は倒れた。

「だ、大丈夫!? 学さん!」

 学の彼女が寄り添った。そのまま、学はなぜか気絶してしまった。あとで話を聞くと、精神的なショックによる意識混濁らしく、一時間後すぐに意識を取り戻したらしいい。なんでも、学はいくつかの言葉にトラウマを持っているようで、それを聞くと心が混濁するらしい。どこにそんなショッキングな言葉があったのだろうか……。


     〇

 今日はたくさんの料理を作っていた。珍しく楠雄と一緒に夕飯を食べるからだ。いや……それははっきり言って嘘。私はもう楠雄の家から出ることを決めていた。なぜなら、私は洋と付き合うと決めたから……。近すぎて、わからなくなった気持ちよりまっすぐと好きだと言える気持ちを私は取った。私と楠雄にとって、今日の食事が二人でこのようにして食べる最後……最後の晩餐になるだろう。料理の準備をし終えたころ、メールが届いた。内容は大学を今から出るのと、今日は鍵を忘れたからチャイムを鳴らしたら開けてくれ、と内容だった。相変わらず、私への恋愛的な好意を感じない文面だった。今日が最後の踏みとどまるチャンスなのに、楠雄はやっぱり……明日この家を出るために準備された自分の部屋の中のバックやダンボールに目をやると悲しい気持ちになった。

(楠雄にとって、私は単なる幼馴染であって、友人の延長線上にあるだけでなんでもないんだな……)

 悲しくはなったが、楠雄に思いを馳せるのはよして、楠雄の帰りを待った。すぐに「ピンポーン」とチャイムがなった。私は荷造りが見えないように部屋の扉を閉めて、ドアを開けた。

「大学合格おめでとう!」

パーン! 楠雄は言葉ともにクラッカーを鳴らした。楠雄は満面の笑みで私の出迎えを驚かせた。楠雄は鼻眼鏡のおもちゃを付け、変な顔をして言っていた。

「いやー、遅れたけど合格おめでとう! やっと、大学落ち着いたから、祝えるよ! にしても、いい匂い! 今日は外食か出前の日のはずなのに作ったんだ?」

「……う、うん……というか、何その顔! そのおもちゃで前見えんの?」

「ぼやけて見える。それにケーキ買ってきた。食べよう!」

 楠雄は笑いながら言った。私も笑いがこみ上げてきた。まったくいい意味でも悪い意味でも純粋である。

「わかった。わかった。とりあえず、中入って」

 楠雄は靴を脱いで中に入ってきた。たくさんの料理に興奮をしていた。

「めっちゃうまそう! 気合入ってんね!」

 楠雄はテーブルに着くなり、ご飯を食べ始めた。うまいうまいと食べる様子に迷ったが、私は楠雄の家を出ることは止めないことにした。食事とケーキが食べ終わり、楠雄と缶チューハイを飲みながら、世間話をした。最初、一緒に暮らし始めた時は私は世間話なんてできなくて楠雄の聞き手に回る一方だったけど、私からも予備校のことからスーパーのことまで話すことはいっぱいあった。楠雄は私が話しているのをニコニコしながら聞いている。きっと、話していることが嬉しいんだろう。私はこのままでは楠雄との別れがより辛くなると思い、話を切り唐突に言った。

「あのね、楠雄……突然だけどね?」

「うーん」

 ほろ酔いの楠雄は眠そうに返事をした。

「私ね……彼氏ができたの!」

「え?」

「その、同棲することになっちゃって……だからこの家を出る!」

 楠雄は戸惑った表情で、戸惑いながら言うように見えた。

「そうなの? そっか……おめでとう! でいいのかな? まあ、そうだよね。彼氏がいるってのに、違う男と同棲って変だもんね……」

「……うん」

 楠雄はしばらく口を開かなかった。言葉を慎重に選んでいた。私は楠雄のそんな顔を見て自分からいうことにした。

「あのね、引越しのトラックは明日くるんだ! でも、その引越し先もここからとっても近いからたまに顔を出すよ! 寂しいだろうしね!」

「寂しくなんかないよ! まったく、というかこの辺ってことはその人もこの辺に住んでるの? うちの大学の人?」

「というか……洋」

「マジか! よかったね。浮気されないように頑張れ」

 楠雄は笑いながら言った。

「まったく、失礼なこと言うわね! 頑張るわよ!」

 その夜はその調子で飲み明かした。楠雄は別段困った様子はなかったが、たまにため息をついて、寂しいのが手に取れた。もう好きすぎてつらかったの、ごめんね、楠雄……。


     〇

「私ね……彼氏ができたの!」

 三月二日午後八時四十二分、椋乃はそういった。驚きはしなかった。椋乃に連絡しても取れない時がある。そんなことがあることから俺は察していた。でも、信じたくなかったし、だからそんなことないって思い込んでた。それに俺は椋乃が次に言うことも想像できていた、この家を出ていくってことを。さっきから椋乃の部屋のドアは半開きになっていて、積まれたダンボールが見えている。こんなときになって、椋乃に対する本当の思いを理解したのだ。俺は椋乃にとって唯一の喋り相手になっていたことに甘え、椋乃を失わないことをどこかで確信していた。でも、それが失われようとして自分の中のすがりつこうと足掻く自分と椋乃を送り出す自分とが葛藤しているのがわかった。俺は結局……。

「え?」

「その、同棲することになっちゃって……だからこの家を出る!」

「そうなの? そっか……おめでとう! でいいのかな? まあ、そうだよね。彼氏がいるってのに、違う男と同棲って変だもんね……」

「……うん」

 不安そうな椋乃の様子だったが、言葉を引き返させることはできない。

「あのね、引越しのトラックは明日くるんだ! でも、その引越し先もここからとっても近いからたまに顔を出すよ! 寂しいだろうしね!」

「寂しくなんかないよ! まったく、というかこの辺ってことはその人もこの辺に住んでるの? うちの大学の人?」

「というか……洋」

「マジか! よかったね。浮気されないように頑張れ」

「まったく、失礼なこと言うわね! 頑張るわよ!」

 俺は……後者を選んだ。もちろん、理由はあったが、そんなことは言い訳にしかならない。だから、敢えてしない。でも、一番の心のささくれは椋乃に事件について調べていることを伝えられなかったことだった。でも、今となっては過ぎたこと、俺はすべてを知るまで、場合によってはいつまでもこのことを隠すことにした。


     〇

「なあ、椋乃いいのか?」

 私には戸惑いこそはあったが、声に出すのが恥ずかしくて頷いた。すると、洋は優しく私を抱いた。

「……暖かい」

 そう言うと洋は耳元で囁いた。

「大好きだよ」

「私も」

 洋は私の耳を甘噛みした。私は耳から洋からの愛が溢れてくるような気がした。頭はぽーっとし、洋のことで頭がいっぱいになった。ソファに倒れ込んだ、その状態で洋は背中に手を回し、そっとホックを外した。胸の束縛感がゆるくなった。慣れた手つきで、洋が初めてではないことはわかっていたが、そんなことはどうでもよかった。洋しか頭にはいなかった。そのまま、洋は服をゆっくり脱がしてくれた。気づけば、洋もすべて脱いでいた。不思議と初めてなのに怖さはなかった。洋のものが入ってくる感覚が体に走った。友人から聞いたものとはまるで別物で、痺れるような感覚でもなく、気持ちいい感覚でもなく、言うならば洋からの愛を感じるのみだった。

(愛してるわ……洋……あんなやつより二倍も十倍も百倍も千倍も)

 洋は終えると私が服を着るのを手伝ってくれた。これまで、洋がどんな経験があるのかわからなかったが、着せるのはあんまり慣れた手つきではなかった。まったく、恥ずかしい妄想を抱かせるなんて、ちょっと嫌なやつって思いながらも喜びの笑みが隠しきなかった。私は“本当の初めて”をして、あの時の忌まわしき記憶が心の奥底に沈んでいくのを感じた。私は変われた。戻れたのではなく変われたのである。あんなやつと一緒にいたんじゃ、できないことができたのだ。

本当にありがとう! 洋!

「なあ、どうだった?」

「ねえ、それって女に聞く? けっこうエグい質問だと思うんだけど……」

「ぶっちゃけるとこんなに好きな女の子とするなんて二……初めてだからさ。気になっちゃって」

「ふふふ。うーん、五十点!」

「処女のくせに採点きついな」

 洋は笑いながら言った。私も笑った。なんて素晴らしい夏の夜なんだろうか?


     〇

 ガチャン、カチャ。研究室のドアが閉じて鍵が締まる音がした。

「誰ですか? まだいるので開けといてくださいよー」

 すると、真後ろから声がした。

「私ですよ、先輩! 春花!」

「なんだ、春花さんか。まだ俺がいるから開けといて。あと、先帰っていいよ。もうちょい、培養見ていたいしね」

 俺は机の上に置かれたシャーレの寒天培地を屈んで横から見ながら言った。すると、春花さんも体をかかげめて無理に俺と目線を合わせて言った。

「先輩!」

 俺は驚いた。春花さんの顔はすごく真面目だった。

「何?」

「こういうことって、男から言うべきだと思うんですけど!」

「だから、なんだって?」

「もう!」

 顔を少し膨らませて、怒ったようだったけどすぐにしぼませ、顔を赤くしだした。

「ねえ、楠雄さん?」

「え? う、うん?」

 春花さんが「楠雄さん」と呼ぶときは勝手に俺の恋人のフリをする時だけだ。だから、突然の呼び名にびっくりした。

「この前、ついに同棲をやめたって言ってましたよね、あの腐れ縁の女の人との。私ね、ずっとこの機会を待ってたんです、ずっとずっとね」

「う、うん」

「あの、私と付き合ってください。もちろん、結婚を前提に!」

「え、えええ」

「お願いです! 私と一緒になってください。楠雄さんのことが好きなんです」

「え、でも、俺のどこがいいの?」

「全部です! 顔も性格も頭も、なんて言っても私を美人だとか医者の娘だとかと差別しないし、私の父親と叔父さんからも認められているなんて、私にとってあなたが理想の結婚相手なんです、だからその……」

「え、でもさ、俺が君をとても好きじゃないのに“いいよ”っていうのは違うと思うんだ……」

「違くないです! 私はあなたと付き合ってあなたを惚れさせます、絶対に。だから、私と付き合ってください」

 彼女のアプローチはすごかった。告白されるのは初めてだし、したこともないからどうすれば良いのか、なんと言えばいいのかわからなかった。でも、俺と春花さんは……いや、俺と春花は付き合うことになった。そして、それは大学四年の夏にして初めて青春というものを感じたことだった。

私の人生とは短絡的なものです。この年にもなっても恋人もいなければ、友人は少なめ、だから路上で歩いているときとか外食を取っていたりしている時に、横にいるカップルの会話。ときには友人の体験談をコピー&ペーストさせてもらうこともしばしばですね

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