第三章:境界線が不鮮明な生活
ゲームにハマりすぎて、推敲進んでない。いい年こいて、なにしてんだろうか。早く書類を仕上げなきゃいないのに、ってことで更新ですね。
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楠雄との生活はなんと言うか、めちゃくちゃなノリで決まった。でも、私にとってはいいことしかなかった。決めたと言えば、もう一つ決めたことがあった。大学退学である。精神科医と深く話した結果、将来的にも男性に対しては深い疑念を抱くのは決まったようなもん、だから今は安静にすべきだということになった。私にとっては苦渋な決断だったが、でも決断をした。私は同時に私学の女子大学に向けて受験の準備を始めた。楠雄の言った通り前だけを見て生きていかないとね。そうそう、結局、新しく住むことになった家は2DK風呂トイレ別家賃九万円。二人暮らしの生活にはちょうどいいサイズだった。大家さんにはカップルだと勘違いされているしね。毎日がたわいもなくて無くてとても楽しい。
「おーい、椋乃? 洗濯物は洗濯機にぶち込んでおいていい?」
洗面所から楠雄の声がした。
「ダメ! 今、洗濯機に入ってるのは洗濯したての奴だから、近くの黒いカゴに入れておいて。昨日、時間なくて干せなかったんだ」
「りょうかーい。じゃあ、カゴに入れといた」
楠雄は寝巻きから私服に着替えて、洗面所から出てくると頭をポリポリかいて、ダイニングチェアに座った。私はパンとサラダを二人分、テーブルに置いて楠雄の向かい側に座った。
「「いただきます」」
楠雄が起きて、洗面所で着替えて寝癖を直してから、ダイニングに来る。私はその間に朝食の準備をする。それが日課だった。
「あ、そうだ。楠雄」
「うん」
楠雄はパンを口に運びながら言った。
「レタスが切れたから、大学帰りに買ってきてくれる?」
「了解、他に足りないものは?」
「うーん、キャベツと胡瓜、あとマヨネーズが欲しいかな」
「サラダ用品ばっかだな」
楠雄は笑いながら言った。
「じゃあさじゃあさ、美味しそうなドレッシングあったら買ってきてよ」
「いいよ。じゃあ、大学帰りに買ってくるわ。君は今日はどうするの?」
「うーん、まあいつも通りルームランナーやらストレッチして、運動不足にならないようにして、後は勉強かな。私立って国立とは勉強の仕方というか勉強教科がちょっと違うからさ、頑張んないと。あとはもしもできたらリハビリがてら散歩かな?」
「そっか、散歩はどれくらいできるようになった?」
「結構できるよ。でも、いかんせん人と話せないの……だから、買い物とかも頼んじゃってごめんね」
楠雄はそれを聞いて嬉しそうな顔をした。
「でも、一人で散歩できるってことは昔とは大分変わってるじゃん! 病院に初めて行った時なんか、俺の腕を放さなかったレベルだったのに」
「そうね。私も変わってきてるってことよ。事件から……」
カレンダーを見ると、今日は五月一日……もうあれから三か月と二週間くらい過ぎていた。
「事件から三か月強も経ってるんだね。自分で言うのもあれだけど、結構変わったと思う。早く大学に通いたい!」
「そうだね、早く通えるといいね。それに君は変わってるよ、とってもね。精神科医の先生も順調って言ってるんでしょ?」
「うん、順調どころか、サイコーだってさ! こんな早い回復例はないって言ってた。薬の量も減ってる……というか頓服系の薬に変わってるしね!」
「本当によかった!」
楠雄はパンを食べ終わると、部屋に戻り大学用のバックの中身の荷物を確認すると玄関に向かった。私も玄関に向かう。
「今日は研究室がないけど、テストが近いから図書館友達と勉強してくる。帰りは六時位になると思う」
「うん!」
「じゃあ、追加で買い物あったら、連絡して、じゃあ行ってきます!」
「うん、いってらっしゃい」
まるで、結婚して新婚期間が終わって慣れた家庭みたいだと、自分でも思うくらいの安定した生活だった。でも。そのせいで私の気持ちを伝えるタイミングは完全になくなっていった。楽しい嬉しいでも、それはあくまでも親友であって、恋人じゃないし、幼馴染であって、同棲相手ではない。複雑な心境でもあった。近すぎて遠い……。
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最近の生活はとても充実している。椋乃と暮らしてから、椋乃が私生活を助けてくれるからとても楽に毎日を過ごせていた。一人暮らしをすれば大学が大変になると思っていたのに、椋乃のおかげで逆に順調だった。椋乃が明るくなっていく一方で、俺はよく刑事さんに会うようになっていた。今日も椋乃には嘘をついて図書館に行くと言ったが、本当はこの刑事さんに会うためである。俺はなんとしてもあの事件の全てを知りたかった。
カランコロン。
喫茶店のドアが開くと、刑事さんが入ってきた。俺が軽く合図をすると、軽く会釈をして、俺の座っている席の向かいに座った。すると、刑事さんは言った。
「わざわざ来てもらって申し訳ないです」
「いや、僕こそ時間をとってもらって、申し訳ありません。捜査は進んでますか?」
刑事さんはお店の人にアイスティーを頼むと話しだした。
「とりあえず、ストーカーが複数いるっていうことで、事件の捜査を進めているけど、この手の事件が複数犯って考えにくいのよね。だからといって、通り魔的犯行だと断定するには条件が曖昧すぎる。だって、あの時間にあそこを一人で通る女性がいるって相当偶然じゃない? 現にあの日以外はあなたが一緒に帰っているわけですし」
「ですよね……やっぱりストーカーの仕業なんでしょうかね? 鳥居さん以外はなんて言っているんですか?」
「実は……こういう事件が頻発してから、事件解決まで刑事を一人担当にすることは警察のルールとして決まったんだけど、実際に本当にその刑事のワンマンなんだよね。だから、大っぴらに捜査できないし、困ってるのよ。でも、私は女性にこんなことをした人は許さないし、絶対捕まえます!」
刑事さんは俺から見ても若くて、巡査から刑事なってから多分一、二年位に見えた。椋乃と歳もそんなに変わらないから、こんなに熱心にしてくれるんだろう。刑事さんは来たアイスティーを飲みながら俺にストーカーについての質問を聞いた。もちろん、椋乃のストーカーだから現在はどうだか分からないがわかることはすべて話した。別れる直前になると、刑事さんは言った。
「わかったわ。やっぱり通り魔の可能性は置いといて、ストーカーの線で調べますね。もしかしたら、誰かに頼んで二人で犯行した可能性もあるしね。あと、高校時代からストーカーがいるって言ってたよね?」
「はい、高三からだったはずです」
「あなたの方からたどれる人を探してもらえる?」
「というと?」
「卒業アルバムとかをみて、可能性のある人を見つけてってこと。あと、大学の名簿も出来れば。私は彼女の身辺捜査であなたの知りえない人とかを調べるわ」
「わかりました。とりあえず、アルバムから怪しいやつは見つけときます。あと、一応次会うときにアルバムと、できれば大学の方の名簿も持ってきます」
「おーけー。本当はこういうのは全部を警察がやんないといけないのにごめんなさいね」
「いいえ、鳥居さん一人しか調べてないなら、手伝うしかないじゃないですか! 一緒に見つけましょう」
「ありがとう。じゃあ、署に戻るわ。また今度」
刑事さんと話してて思ったのはこの事件はもしかしたら、複雑な事件かも知らないということだ。閑静な住宅街の小さな橋で起こり、あまりにもピンポイントで、犯人がストーカーだと断定しにくい事件。少し推理小説の主人公にでもなった気分だった。しかし、実際はどうかはわからない。複雑かもしれないし、単調かもしれない。でも、俺はこの事件の真相を知りたい……それが椋乃を救う最後の鍵になるかもしれないから。
やってもうた、また闇が立ち込めてますね