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Wrong Gears  作者: 無駄に哀愁のある背中
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第十章:無慈悲で非情な告白

先日、男の友人と地元で偶然会ってお互いに時間があったため、近くの図書館で話をしました。もちろん、私が聞き手に回って、彼から新しい小説の材料を搾取しようと思いましたが、なかなか搾り出せず……結局で出てきて面白いと思った話は、一人の女の子に小学校一年生から高校一年生までずっと思いを寄せていたという話でした。小学校卒業してからはまともに話したこともないらしく、純粋で意気地がないそんな純愛を聞いた気がします。もしかしたら、題材にするかも。ちなみにこのペンネームのその人に教えてもらったDVDの名前です。

     〇

 あの日、刑事さんは言った。

「私は楠雄君にすべてを任せることにしたの」

 私はその言葉がただただ頭から離れなかった。すべての真相をなぜ楠雄なんかに刑事さんは任せたんだろうか? 私はいつもそのことを考えてしまうようになった。学校の時も家にいるときもいつ何時でも……。私は痺れを切らして、楠雄の家に向かうことにした。しかし、その足取りは意外と遠く辛いものだった。楠雄の家が近づけば近づくほど、洋のもとに行っていて忘れていた楠雄との楽しい思い出や一緒に歩んだ闘病生活を思い出すのだ。それらの記憶は私の心に重く重くのしかかり、楠雄が自分を見ていないことを当てつけに洋のもとに行ったことを初めて自覚させた。楠雄がどれだけ私を思って……感謝の念と罪悪感が入り混じり、玄関についたころには辛苦の思いだった。いざ、思いを振り切りボタンを押すと、中から女性が出てきた。

「どちら様ですか? 楠雄さんになにか用ですか?」

 淡麗な顔立ちにお嬢様のような気品が漂うその女性に少し見とれたあと、私は部屋を後にしようとした。楠雄が新たな人生を歩んでいると思ったからだ。

「いや、別に……近くにやってきたので……」

「ちょ、ちょっと待ってください! あなた、椋乃さんじゃないですか?」

 突然、名前を呼ばれて驚いて振り返ってしまった。

「やっぱり、金子椋乃さんですよね! 楠雄さんから話を聞いてまし、一度会ったことありますよね? あと、幼馴染なんですよね? 彼、あなたにあったら元気になるかも」

「え、ちょっと待って」

 その女性は私の腕を掴み、強引に中に引き入れた。抵抗しようとはしたが、ここまで来るのにぐったりとなっている私の体には力が入らなかった。

「楠雄さん、お見舞いが来てますよ! 幼馴染の女性の方です、椋乃さんですよ!」

「え?」

 楠雄の驚く声がした。私はかつて住んでいた2DKのこの部屋に懐かしむ間もなく、そのまま強引に楠雄の部屋に入れられた。楠雄は気持ち悪そうに寝込んでいた。近くにはビニール袋が置いてあり、何回か吐いていることがわかった。点滴も置いてあり、食べてないことも見て取れる。楠雄の横には心配そうな加賀見教授がいた。部屋に押し込まれたはいいが、肝心の寝込んでいる楠雄とは目が合わせられなかった。

「久しぶりね」

「ああ、久しぶりだ……」

 沈黙があった。でも、楠雄は落ち着いて言った。

「教授、申し訳ないですが、外に出てもらえますか? 一人になりたい。椋乃も春花も頼む」

「わかった。私たちはもう少しダイニングにいるから困ったら呼びなさい、じゃあ春花、金子君だったかな? 外に出ましょう」

 私たちは三人で楠雄の部屋から出て、となりのダイニングへ移った。最初は誰も言葉を口にせず、あの女性だけがグスグスと泣いていた。私は勇気を出して聞くことにした。

「あの、教授、楠雄は……須藤君はなぜ寝込んでいるんですか?」

「え? 君は知らないのか? てっきり知ってる上で、お見舞いに来ているものだと……まあいいや。君は幼馴染だと聞いてるし、教えよう」

「はい」

「彼は二日前の金曜日、研究室の中で倒れてな。調べると、ストレス性の貧血らしく、更にはストレス性の胃潰瘍まで発症していて、心身ともにボロボロだってことがわかったんだ。で、昨日は春花だけで、今日は私も来てお見舞いと看病をしてたんだ。さっきから食べてないのに吐いているから、純度の高い胃酸で食道もボロボロ。今は点滴がないと死んでしまうレベルらしい。私の専門は病理だから詳しいことは分からないが、彼のストレスの原因がわからないと彼はこのまま……まあ、最悪の話だがな」

「そんなことにはならないよね? 叔父さん!」

 横にいた女性が加賀見教授の姪だということは今わかったが、そんなことより楠雄の病状がひどいことに驚いた。教授の姪は更にボロボロと泣き始めた。加賀見教授はそれを慰めていた。

「教授、彼のストレスの原因ってなんなんですか?」

「それが、教えてくれないんだ……」

 泣いている教授の姪も言った。

「私も恋人として、聞いたんですが……『君には隠し事はしたくない。でも、これは俺だけの問題じゃないから、どうしても君には言えないんだ』って言われちゃって。どうしようにも……」

「なにも知らなくて、偶然来た君に頼むのは心苦しいが、彼から聞いてみてはくれないか? 彼のためなんだ。春花でもダメだったんだ……頼む、幼馴染の君以外につてはないんだ」

「でも……」

 私は自分から楠雄のもとを離れた、だから気まずかった。

「お願いです、椋乃さん……私からもお願いしますから……私の楠雄さんを救ってください。お願いします!」

「あれだったら、私たち二人は帰るから……なあ?」

「はい、お願いします!」

「ちょっと、待ってください」

 二人はさっさと荷物をまとめて出て行ってしまった。でも、楠雄の彼女で加賀見教授の姪は最後に部屋から出るまで「お願いします、お願いします」と連呼していた。私は責任感に駆られた。でも、どうすることも出来なかった。私は気を紛らわすために、楠雄の部屋のとなり、かつての私の部屋に入った。相変わらず中には何もなく、そしてなにも変わっていなかった。でも、不審に思った。あまりにもそのままだったからだ、見渡すと掃除をするコロコロが部屋の隅に置かれていた。もともとは私のものだったが置いて行ったものだった。紙はすでに変えられてあった。私は楠雄が掃除してくれていたことがわかった。私はなんて仕打ちを楠雄にしたかを今頃になって理解した。楠雄の細々な努力と思いを見ず、目に見えるものだけを……洋に走ったことを悔やんだ。私は決意を固め、部屋をでて楠雄の部屋に戻った。楠雄はぐったりとしていたが、私を優しい眼差しで見ていた。

「調子はどう?」

「ああ、良くはないけど、大丈夫。今日は来てくれて、ありがとう」

「うん、でも、そのお見舞いできたんじゃないんだ……」

「わかってるよ。さっきの話は聞こえてったし、椋乃が俺に真実を聞きに来たんでしょ?」

「え?」

 楠雄は悟った顔をしていた。まるで、誰かの死を見つめているようだった。悲しくも決心のついた目だった。

「それに、それが俺の心の重しだしね。じゃあ、順を追って話そうか?」

「……うん」


     〇

「……うん」

 椋乃も悟ったように頷いた。俺は椋乃が「絶対」と言った時点で、この事実をすべて話さなくてはいけないと悟っていた。知りたい真実を伏せられたままであることは辛いでも、椋乃のために再確認が必要だった、本当は自分が罪悪感から逃げるためだったのかもしれないが、もう一度聞いた。

「なあ、椋乃? もう聞かないから、最後に答えてくれ。後悔するなとは言わない。でも、本当に聞きたいんだよね、あの夜のすべてを……」

「ええ」

 即答だった。俺は小さなため息をつき、机の上にあるPCの電源をつけながら話しだした。

「俺と鳥居刑事は捜査中、あの晩、君をストーキングしてた奴がいることを仮定した。その結果ある男が候補に挙がったんだ。等々力勝ってやつだ。俺たちと高校が一緒で、更には大学までも同じだった。椋乃に告白を二回してる。覚えてるかい?」

「うん、二回目の告白の時に言われた言葉が印象的でね」

「なんて言われたの?」

「えっと、『君のことを嫌いになんてなれない。だから、陰でもいいから君のことを応援させてくれ』ってね。まさか、等々力くんが……犯人なの?」

「違う……でも、彼は君を高校三年生から大学二年生のあの晩まで君をストーカーしていたんだ」

「なんで、断定できるの? 証拠は?」

「等々力の家を訪ねたんだ。で、あいつは自分がストーカーであったことを認めた。でも、あいつは犯人じゃなかった。なぜなら、あいつはあの晩もあくまで君をつけていただけで、君に危害を加える気なんてサラサラなかった。でも、あの晩、君の前と君をつける等々力の前に現れたのは二人のレイプ犯だったらしい」

 椋乃の呼吸が荒くなっているのがわかった。まるで、心の奥底に沈めた記憶が戻ってきてしまっているようだった。心配になった俺は中断を勧めたが、椋乃はふっきれたかのように話を続けるように言った。

「等々力は大好きな女性が目の前で犯される瞬間を目の当たりにしたけど、なにもできなかった。理由は自分がストーカーであることだったらしい。葛藤したが、自分に出来ることはこの犯人が誰であるかを発覚させることだと思ったらしい。それで、彼はビデオカメラを回したらしい。で、その映像が……」

 俺は電源のついたPCにUSBメモリーをさし、等々力から譲ってもらった動画を再生した。椋乃は自分の様子を一部始終見ていた。そして、犯人が帽子を脱ぐところも……。椋乃は何度も目をこすり、何度も確認をしていた。でも、どんなに否定しても目の前の映像に映る二人が洋と学であることは変わりがない。椋乃は画面を見たまま、涙をただただ流していた。その姿はあの晩の椋乃を俺に回帰させた。椋乃はあの時のように、すっからかんになったような顔で絶望していた。顔はドンドンと青ざめ、目は死んでいき、唇は心なしか紫に色づいていった。俺もあの晩と同じことしか出来なかった。そう、俺はただただ抱きしめることしか出来なかった。抱きしめて、椋乃は俺の肩で涙をただ流し始めるだけ。泣き声はなく、涙が淡々と流れ続けるだけで、俺の肩を濡らした。そのとき、俺は心の重荷が外れたと同時に大きな後悔が俺にのしかかった。

 なんで教えてしまったのだろう? そもそもなんで俺は椋乃を洋のもとに行かせてしまたのだろう? なんであの晩一緒に帰らなかったのだろう?

 俺はさらなる後悔を抱え、椋乃を抱きしめることさえも出来なくなろうとしていた。手が緩んでいくなかで、今度は椋乃がしっかりと抱きついてきた……。


12話完結!(決定事項)です。残り三話です! 辛かったな……。最後はハッピーエンドなのかバッドエンドなのか? 勝手に予想してください()

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