第一章:狂い始めた歯車
シリーズもの、第一話ですね。すでに最後まで書き終えています。一回目の推敲が上がり次第、投稿していきます。一回しか推敲をしていないので、拙いです。ミスは見つかり次第、直していきます!
もしかしたら、第二話目まで投稿し終わってから読んだほうがショックは薄いかも。
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その日は暗い雲が空を覆い、小雨が降る見通しの悪い日だった。別に俺だって悪くなかった。もちろん、椋乃も悪くない。椋乃がとても可愛いく昔からそういう類の奴に狙われていたことも、見通しが悪い天気であったことも、俺が椋乃と一緒に帰れなかったことも、俺が発見者になり椋乃が被害者になってしまったことも……ただの偶然の重なりにすぎない。
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私だって、悪くなんてなかった。でも、なんかピッタリとハマりすぎてて気持ちが悪かった。例えるなら、負の歯車がいくつも連結して回り始めた感覚だった。
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ブーブーブー。マナーモードの携帯がふるえていることに気がついた。教授と一回話を切り、携帯を取り電話に出た。
「もしもし、椋乃?」
「あ、やっとでた。何回電話したと思ってんの?」
「ごめんごめん。加賀見教授との話に夢中になってた」
「はぁ……」
椋乃のため息が聞こえた。
「話に夢中になるのはいいけど、電話くらいは出なさいよ。こっちは帰る準備は出来たんだけど、そっちは?」
「ごめん、まだ準備してない。まだ帰れそうにもないや」
「えー! 私、レポートやりたいから早く帰りたいんだけど……」
「うーん、どうしよっか……。最近、どうだっけ?」
「あまり見ない。だから大丈夫だとは思うんだけど……」
少し沈黙があった。
「わかった! 洋と学に電話してみる! 二人ならまだいるかもしれないし」
「え、洋と学か……ならいいや、私一人で帰るよ」
「なんで?」
「なんでって、二人に悪いし最近は見かけないし大丈夫だよ!」
「でもさ」
「大丈夫だって! 心配しないでよ! じゃあ、もう帰るね!」
「う、うん。あ、ちょっと待って」
「うーん?」
「最近、洋と学のこと避けてない? なんかあった?」
「別に……今度話すよ。じゃあね!」
椋乃は話を切り、電話を切った。何か不安な気分になった。でも、そんな気分はこんな天気だから思っただけで、変なことなんて起こらないと思った。でも、やっぱり怖いので、二人に電話することにした。
「もしもし、洋か?」
「電話かけてんだから、そうでしょ」
「一応だよ、一応。人違いだったら怖いでしょ」
「相変わらずだなーそういうところ。どう医学部は?」
「辛いよ。成績は低空飛行だしね。これで私立みたいに学費高かったら、親に見せる顔ないわ。そっちはどう、法学部?」
「ぶっちゃけ、えぐくない。余裕って感じ。サークル活動もめっちゃ楽しいね。」
「そっか、楽しそうでよかった。幼馴染四人で、同じ国立に受かったっていうのになんか会う機会がなくて残念だな……」
「そういえば、椋乃元気?」
「うん、元気だよー。相変わらず、成績もめっちゃいいしね。研究室は違うからあれだけど、授業は全部一緒だよ。ってそうだ本題だよ、本題!」
「本題?」
「お前さ、椋乃のストーカーの話覚えてる?」
「あ、うん、覚えてる」
「あの話があってからなにかあったらまずいから一緒に帰っていたんだけど、今日はどうしても無理で一人で帰るって椋乃が言ってたんだけど、心配でさ。できれば、三鷹駅まで向かいに行ってあげてくれない? 向こうにつくのは多分十一時ちょっと前だと思う。あと、傘を持って行ってあげて、行きに持ってなかったからさ」
俺の説明を黙って聞いていた洋はなんか悩んでいる様子だった。
「お前はオカン並みの世話焼きだな。でも実は今、手が離せなくて……。ごめん、無理そう」
「そっか。話は変わるけどさ、椋乃となんかあった?」
「ナイですよ。じゃあもう切るわ、じゃ!」
電話は切れてしまった。次に学に電話をかけることにした。
「もしもし、学?」
「久しぶり、楠雄。元気だった?」
「まあまあって感じだよ」
「で、要件は?」
「実は頼み事があって、椋乃が」
話の途中なのに切るように言ってきた。
「ごめん、頼みごとは無理。親に家に居ろって言われるから。悪いね。じゃあ」
学は昔からわかりやすいやつだったけど、再認した。あと、二人共なにか椋乃とあることが、察しの悪い俺もわかった。でもまあ、たった一回だし大丈夫だと思うしわざわざ頼む必要もなかった気がしてきた。とりあえず、教授の前で電話をしてしまったので軽く一礼をしてから、話をしていた席に座り直した。
「どうかしたのかね」
加賀見教授は心配そうに話しかけてきた。
「あ、教授。すみません。私用でして」
「そうかね。なにか急ぎの用なら帰っても大丈夫だぞ。ここまで行けば、明後日の実験の準備もすぐに終わるしな。もっと言えば君は助手じゃなくて、生徒だしな」
「いいえ、大丈夫です。もう済んだので。なんの話をしてましたっけ?」
「そうかい、ならいいんだが。話を戻すがね、私の姪が来年この研究室に入りたいって言っていてな。来年はよろしくするかもと思ってな」
「そうですか……なにかお手伝いできることがあればしますよー」
「よろしく頼むよ」
教授は背中を叩いた。その後も、明後日の実験の準備をしながら教授と話していた。教授はとても陽気な人でよく笑いながら、話しかけてくれた。話し終わって帰るころには時計は午前一時を指していた。外の秋雨は小さな雨粒にはなってはいたが、降っていた。
「すまんな。準備が終わってから、大分話してしまって」
「いえいえ、大丈夫ですよ。タクシー捕まえてテキトーに帰りますよ」
「家はどこだっけ?」
「三鷹です」
「じゃあ、帰り道の途中だから送るよ。八王子に家があるから三鷹を通って帰れるしね。じゃあ、行こうか」
「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします」
俺と教授はコートをはおりタクシーを呼び、大学を出た。
〇
トゥルルトゥルル。電話を何度も掛けているのに楠雄がでる様子はまったくない。約十回目にやっとガチャという音が聞こえた。
「もしもし、椋乃?」
「あ、やっとでた。何回電話したと思ってんの?」
「ごめんごめん。加賀見教授との話に夢中になってた」
楠雄は少し笑いながら、答えた。
「はぁ……話に夢中になるのはいいけど、電話くらいは出なさいよ。こっちは帰る準備は出来たんだけど、そっちは?」
「ごめん、まだ準備してない。まだ帰れそうにもないや」
楠雄はとても加賀見教授から気に入られていて、まだ研究室に入ってから一年目なのに助手になるんじゃないかと言われるぐらい気に入られていて、こういうことも多々あった。いつもは私が待つのだけど、今日はどうしても帰りたかった。
「えー! 私、レポートやりたいから早く帰りたいんだけど……」
「うーん、どうしよっか……。最近、どうだっけ?」
「あまり見ない。だから大丈夫だとは思うんだけど……」
最近は見ていなかった。それにそういう感覚もなかった。だから、大丈夫だと思った。
「わかった! 洋と学に電話してみる! 二人ならまだいるかもしれないし」
「え、洋と学か……ならいいや、私一人で帰るよ」
洋と学とは高校3年のあの日以来ずっと気まずいままである。やっぱり、告白をフッた相手とは気まずい。
「なんで?」
「なんでって、二人に悪いし最近は見かけないし大丈夫だよ!」
「でもさ」
楠雄は心配そうだった。昔から心配性の楠雄には、きっぱりという他はなかった。
「大丈夫だって! 心配しないでよ! じゃあ、もう帰るね!」
「う、うん。あ、ちょっと待って」
「うーん?」
「最近、洋と学のこと避けてない? なんかあった?」
まさにギクッていう感覚が走った。でも、今はいいやと思い電話を切った。
「別に……今度話すよ。じゃあね!」
楠雄は心配性だけど、自分のことはまったく心配しなくて、キリスト教風にいえば隣人愛に満ちた人だった。だから、楠雄と友達でいるし、友達になれてよかったと思ってるし、友達よりも上の関係になりたいって思ってるの……。雨が降っていたので大学の近くの駅まで小走りで行った。
〇
三鷹駅まで送ってもらってもらい、教授と駅前のロータリーで別れた。小雨は強くはなく折りたたみ傘を差し、家までの道を歩き始めた。橋にさしかかった時に、橋から川を見ると少し増水していた。増水する川を見ながら、なんとなく橋の上でぼーっと立っていると椋乃のことを思い出した。ちょっと心配になったから、電話を掛けた。
チャンラチャンチャラチャラチャ……。
近くで携帯の着信音が聞こえた。近くを見渡しても人影はない。よく聞くと、これは椋乃の着信音のカノンだ! 音の鳴る方向へ向かうと、橋の隅に椋乃のリュックが無造作に落ちていて、その中から着信音が聞こえる。パニックになった俺は橋の欄干から身を突き出し、河原を見渡した。しかし、誰もいなかった。怖くなり俺は堤を下って、河原に降りた。周りを見渡すと、橋の下に人影があった。俺は急いで近づいた。そこには、体操座りで下をうつむきながらしくしくとなく椋乃がいた。服は泥まみれでいたるところがビリビリに破けている。恐る恐る話しかけた。
「椋乃? 椋乃?」
「ヒックヒック、ウウ」
椋乃は涙を大量に流していて、寒いせいで息もキレキレで口からでた白い息が不定期に切れながら出ていた。
「椋乃、楠雄だよ。須藤楠雄! えっと、その……」
椋乃はピクンと楠雄というワードに引っかかると声をあげた。
「楠雄! うわーん」
椋乃は俺に覆いかぶさって、馬乗りにして俺をビンタした、何度も何度も。椋乃はただただ泣き続けている。椋乃が動いた時に椋乃の体から、あの臭いがした。俺は全てを理解してしまった。ここで椋乃が出会った不幸を……。椋乃はビンタをやめたが、俺の上にまたがり、寒さでガクガクと震える手で顔を抑えて泣いていた。よく見ると、顔や体中に殴られた痕もあった。俺はどうすればいいのかわからず、そんな椋乃を抱きしめた。いや、抱きしめることしか出来なかった。抱きしめた瞬間は、椋乃は俺を突き離そうとしたが、すぐに俺の肩に顔をうずめて寄りかかるようにまた泣き出した。
「楠雄……ごめんなさい。やっぱり、その」
「いや、俺こそ。本当にごめん。やっぱり一緒に帰るほうがよかった……」
それ以上の言葉は俺も椋乃も言わなかった。椋乃が身動きを取れない状況だったので、椋乃の荷物と俺の荷物を橋の下に持ってきて、二人でコートをはおって夜を更かした。椋乃の体は濡れていて、そして酷く冷たくなっていた。椋乃は寝る様子はなく、心が不安定なまま黙ったり泣いたり冷静になってその時のことを話したり怒ったり、それの繰り返しだった。
〇
あの時のことが走馬灯のように頭の中で回り続け、一睡も出来ず楠雄に寄りかかっていた。楠雄も寝ずにそんな私を温め続けてくれた。日が差し、朝がやってくると楠雄は私に言った。
「椋乃……どうしよっか?」
まだ気が動転していて、どう答えればいいのかわからなかった。
「家に帰ろうか」
「……うん」
まだ朝が早すぎて、日曜日の住宅街には誰もいなかった。楠雄のコートを着て体全体を隠すように家に向かって歩き始めた。誰かがいるわけでもないけど、どこからか来る強い恐怖心のせいで楠雄の腕を一度も放すことが出来なかった。家につき、鍵を開けて入ろうとした。でも、この自分の家でさえも怖かった。もしもストーカーが犯人なら私の家だって知ってるはず……私を助けてくれた楠雄以外誰も信用できない。私は楠雄に頼んで一緒に家に入ることになった。
ガチャ。
ドアを開けて入るとお母さんがすごい血相で玄関にやってきた。
「椋乃! こんな時間まで、なにしてたんの? すごく心配したんだから。それになんなのその顔の傷は?」
お母さんは私をビンタしようとした。でも、そのビンタを食らったのは間に入った楠雄だった。
「お母さん、椋乃を許してあげてください。今は話せないですが、ちゃんとした事情があったんです」
「うるさいわ! 楠雄君とは確かに幼馴染かもしれないけど、人の家は人の家なの! 関係ないんだから下がって」
お母さんはとても怒っていた。でも、その怒りの圧力はそれ以上に感じた。多分ちょっと前の大きな恐怖と入り混じったせいだと思う。いつも優しい母は怒りとその恐怖のせいで鬼のように見えた。
「お願いです。とりあえず、彼女をシャワーに入れてあげてください。その間に詳しく話しますから」
「なにを言ってるの? まだお説教は終わってないのよ」
楠雄は私の着ているコートの裾を軽く持ち上げ、川原で泥んこになった足をお母さんに見せた。
「……わかりました。椋乃はさっさとお風呂に入ってきなさい。楠雄君にはタオルとお父さんのジャージを貸すから、とりあえず着替えなさい。話はそのあと、聞きますから」
お母さんは一度部屋に戻ると、私のタオルと楠雄用のタオルを持ってきて渡してくれた。
「お、お母さん」
「なに椋乃? 言い訳は後にしなさい」
「あの、絶対洗面所にもお風呂にも入ってこないでね」
「まったく何言ってんの? 洗濯物があるんだから入るわよ」
「お願い!」
予想以上に大きな声が出てしまった。お母さんも驚いて、無言で頷いた。
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「お願い!」
椋乃は声を荒らげてまで言い、椋乃のお母さんが頷いたのを確認すると足をふき、風呂場に向かって行った。椋乃の心のショックの大きさが分かり心に突き刺さった。
「あの子、どうしたのかしら……? 楠雄君もさっさと着替えて頂戴。話はあとで聞くから。今来ている服はカゴに入れちゃっていいからね」
「ありがとうございます」
お母さんにジャージを貸してもらい、洗面所に入った。すると、風呂場から椋乃がシャワーを浴びている音がした。と同時に泣いていて篭った泣き声も聞こえた。俺は服を脱ぎ、貸してもらったジャージに着替えた。着替えた服をカゴに入れようとすると、既にカゴの中には椋乃のボロボロで泥だらけの服が入っていた。俺はやるせない気持ちになりながらも、そのカゴに服を入れた。洗面所を出ようとすると、椋乃がドア越しに話しかけてきた。
「ねえ、全部話すの?」
「うん、誤解のままじゃダメだし、こういうことって親が一番知るべきだと思う。君がなんて言おうと言うつもり」
「そっか……お母さんお父さんなんて言うかな」
言葉がでなかった。でも、俺は言わなければならないという義務感はあった。
「ごめんね、楠雄。もうわかんないや。今となってはあなた以外信じられない。二人には全部話しといてね」
「……うん」
洗面所を出て、ダイニングに行くと椋乃のお父さんが起きていて、俺の母親も来ていた。全員が怒っていた。
「母さん、来てたの?」
「うん、だって状況的にあなたが椋乃ちゃんを連れ回していたとしか考えられないもん。だから急いできたわよ」
「父さんは?」
「呑気に釣り。まったく、楠雄のことなら大丈夫だろ。とか言って子供に関心があるのかないのか、まったくわからないわ」
「あの、美子さん。娘の話に戻しましょう」
椋乃のお母さんが口をはさんで、母親との会話は終わった。
「あ、ごめんなさい。じゃあ、戻しましょう。楠雄、昨晩は椋乃ちゃんと何をしてたの?」
椋乃のお父さんがギロッと睨んできた。
「あの、実は……昨日の晩、僕は椋乃とは一緒に帰れなかったんです。僕が学校の用事でまだ帰れなくて。それで、椋乃が一人で帰ることになったんです」
「何を言っているんだ。君は一緒に帰ってきたんじゃないか! 見え見えの嘘は止めなさい!」
椋乃のお父さんの明夫さんは怒った。やっぱり、他人のお父さんは苦手だ。
「お父さん、そんなに怒んないでください。話にならないですから」
すぐに椋乃のお母さんがなだめてくれた。
「ごめんなさい。もっとちゃんと話すべきですね。全部話すので、最後まで聞いてください。昨日の晩、椋乃とは一緒に帰れませんでした。彼女が帰ったのは大学を十時頃に出たので、おそらく家には十一時前には着いていたはずなんです。でも、彼女は着いてなかった。で、僕が大学を出たのは一時過ぎで、教授に送ってもらったので、一時半前後には三鷹駅に着きました。それから、家に帰る途中の橋のところで彼女のリュックが落ちていたんです」
誰も喋る様子はなかった。一拍あけて話を続けた。
「その後、すぐに河原に下りて椋乃を探したら、その橋の下に居て、放心状態でした。最初はわからなかったけど、すぐに椋乃にあった事がわかったんです」
「どういうことだ?」
最初に口を開いたのは椋乃のお父さんだった。
「お風呂場の服を見ればわかると思いますが、彼女の服はボロボロで泥んこです。それに椋乃自身も泥まみれでしたし、殴られた後も……その簡単言うと、暴漢に襲われたみたいなんです……それにその強姦もされたらしく……」
全員から言葉が消えた。誰もが文句を言いたかっただろうけど、現実とは非情で、椋乃の状態から考えると、この話がガッチリとハマってしまって何も反論が出来なかったみたいだった。
「以上が昨日の転末です……どちらにせよ、僕は発見してからすぐに家に連れ帰るべきでした。でも、放心状態で泣いたり怒ったりその時のことを思い出して話したり、そんな姿の彼女を連れて帰れませんでした。ごめんなさい……だから、彼女は許してあげてください」
俺は頭を下げた。誰も責めることはしなかった。沈黙が更に続いたところで、やっと口を開いたのは母さんだった。
「とりあえず楠雄、帰りましょう。多分、こういう時は家族三人で話したほうがいいと思うし……。じゃあ、雅子さんと明夫さん、また今度来ますね」
「……はい。こっちからも連絡しますね」
椋乃のお母さんはそう言うと母さんに俺の洗濯物を渡して、玄関まで送ってくれた。椋乃の両親としては、俺が連れ回していたほうがよかったろうに……それに椋乃は俺に俺以外を信用できないと言っていた。とても心配だ……。
いかがでしょうか? グロ! とか エグ! って思ってもらえば幸いです。この作品は私の思う人間の暗さを描いたものになります。でも、読んでいただきたい! これが現実だから……。