終焉
まるで自分のものとは思えなかった。
「獣」に支配された腕は私の首をギリギリと締め付ける。
「獣」は可笑しそうな含み笑いでそれを行っていた。
抵抗は、儚かった。
次第に意識が遠のくのを感じながら、「私」という意思が薄まるのを自覚する。
『ソウ。コウスレバヨカッタノダ、最初カラ』
喉の奥で笑いながら「獣」は言った。
薄ぼんやりとした意識で、「私」も笑う。
(そう…そうすればよかったのよ、始めから)
他を傷つけず、破壊せず、死に至らしめず…「獣」の欲求を満足させる唯一の方法。
それを失念していた自分が愚かしい。
それでも、「私」は「私」として生きていたかった。
「獣」が「獣」として生きて、生き続けるために他を殺し続けて行くことを選んでいたとしても。
最後の手段として、最大の切り札として互いの生を賭けるのを「私」は恐れていた。
そうすれば、こんなに苦しまなかった。
しかし、苦しんでも「私」は「私」として生き続けることを選択したかった。
最後の手段に訴え出たとき、本当の意味で「私」は解放の意味を知った。
そして、後悔した。
もっと早くに選択すべきだったということを。
そうすれば、「獣」の自我に負けまいと感情をすり減らすこともなかったのに。
必死に抵抗していたのが、無様に思え、「私」は笑った。
「獣」は哄笑を続ける。
抗う「私」を嘲笑し、その生を絶とうと躍起になっている。
そして「私」も嗤う。
「獣」はまだ気付かない。
決して、気取られることかあってはならない。
それは、賭け。
「獣」が勝つか、「私」が勝つか。
勝ちがすなわち生だとは限らない。
しかし、それを信じている、「獣」には悟られてはならない。
その裏をかくためにも。
「私」は笑う。そして嗤う。
「獣」も嘲笑う。そして笑う。
笑い声が同調した、ちょうどその時。
* * *
−−総ては闇に閉ざされた。