捕縛
刑事の言葉どおり、精神鑑定にかけられた。
とはいえ、なんだかありきたりな心療内科の診察のようだった。
医師が淡々と質問をすることに、私は同じように更に淡々とした口調で返事をする。
その、繰り返し。
取調べと違うのは、相手の口調と態度だけで、それは、場所と人を変えただけで特に変わりはなかった。
ただ、やはり医師は温和で、優しく、穏やかで耳に心地よい口調で話し、私の言葉にも真摯に、そして紳士に向き合う。刑事との大きな違いはそこだけだ。
それを、何日もかけて繰り返された。
数日間の鑑定を受け、その結果を待つのはとても不思議な気分だった。
私はただぼんやりと一人、閉じ込められた一室で日々を過ごす。
それは達観ではなく、むしろ傍観。
私は、私がどうなるかに対しても興味がない。
ただ時の流ゆくさまに、たゆたうだけだ。
結果はいつ出るのだろうか……。
どんな結果となるのだろうか。
客観的に「私」と言う人間は、どう判断されるのだろうか。
この数日間のやりとりで、私の何がわかるのか、それはわからない。
そもそも人の「ココロ」というものは他人には…いや、自分にすら覗けない。それをどう覗き、どう「判断」をしていくのか、不思議でならない。
今まで生きてきた20数年を、たった数日、それもすべて合わせて24時間にも満たないような時間でどう判断されるのか…それで私の何をわかったと思うのだろう。
しかし、その結果で、私は裁かれる。
そして……裁きの日は近い。
* * *
日がな一日、ただぼんやりと過ごしていると、とりどめもないことが、ふと、頭に浮かぶ。
それをじっくり吟味するのも楽しい出来事だった。
しかし、突然、なんの予測もなくソレは、訪れた。
チリ、と心を焼く、あの衝動。
誰にも聞こえない、ダレカの囁き。
『解放セヨ』
その声は次第に大きく、激しくなっていく。
暴れだす感情。
きつく、きつく縛り閉じ込めようとすればするほどソレはもがき、あがき、更に激しくなる。
解放するのは簡単だった。しかし……。
『出セ、出セ! 早クココカラ出セ!』
ソレは口調すら変えて咆哮する。
チリ
心を焼くその音は、鎖の軋む音。
軋んだ鎖が……切れる寸前の音。
ソレを無理やり抑え込もうと、身を縮めて自分の体をきつく抱きしめる。
しかし、それが無意味であることを、私は知っている。
身を委ねてしまおう。
もう怖いものは…何一つとしてない。
此処は強固な檻。
心の中に棲む獣を解放したとて、誰も傷つけることはなく−−。
ふ、と。
力を抜いて身を委ねると、意識は遠のいた。
それを感じながら、私は安堵と安息を知る。