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第八話 ~依頼完了と依頼~



 ポトスが眠ってから三十分程。ギルド本部に着いたようで依頼主が二人を起こしに来た。

 欠伸交じりにポトスが起き上がろうとすると腹に何か重いものが乗っかっている。それは依頼主が起こしては可哀想だと判断したからか、起こしても起きなかったかは分からないが小さな寝息を立てて気持ちよさそうに眠っている。


「……おい」


 マリアはポトスの腹を枕代わりに眠っていた。腹を圧迫され、息をするたびにマリアの頭は上下されていい心地だったに違いない。ポトスは息苦しくて仕方ないだろうがマリアのささやかな仕返しのつもりだろう。


「おい、マリアっ」


 マリアは頬を軽く叩いても起きないほど熟睡していた。試験にも寝坊したくらいだ。寝たらなかなか起きないのだろう。今日の芋ほりでさえマリアがいつまでも起きないのであやうく遅刻するところだった。

 仕方が無いので肩に担いで荷台から下ろす。


「それじゃあ私はこの芋を届けにいくから」

「ああ、送ってくれてありがとう」


 そこはギルド本部の前の大通り。今町で一番賑わっている場所かもしれない。

 夕方、仕事終わりのいくつかのギルドメンバー達が出たり入ったりを繰り返している。依頼完了の証明書をギルド本部に渡せば即金で報酬を払ってくれるのだ。依頼帰りのギルド員達を狙ってギルド本部の周りには酒場や出店が軒を連ねている。更に五人組の演奏家が本部の前で陽気な曲を演奏し、酒を促し、その飲みっぷりが酒場へイクス達をいざなうのだ。

 その陽気な曲と賑やかさでだろうか、マリアも目を覚ます。


「ん……」

「ん? やっと起きたのか」

「ん~……ふぁ~、ここどこ?」


 マリアを下ろしてやると寝ぼけ眼をこすって辺りを見回している。


「ギルド本部だ。ほら、行くぞ」

「お、おおっ……おお!」


 そして目を輝かせてわくわくしているマリア。一歩出店に赴こうと足を出した瞬間、ポトスがマリアの首根っこを掴んで止める。


「ぐぇ」

「遊びに着たんじゃない。放れるな」

「わ、私は街の中を見に来たの! ギルドならリーダー一人で行って来ればいいじゃない!」


 もっともな意見だ。ポトスもこのような騒がしい聖女を近くに置いておきたくはない。


「お前一人で帰れないだろ。はぐれたら探さないといけない。置いて迷子になったらお前どうするんだ?」

「そんなの、ギルドに言って――」

「ギルドに世話になった時点でギルドマスターの監督不行き届きになる。役人にまで説教されたくないからな」

「むぅ……」


 それもギルドのマニュアルに書いてあったことだ。当然マリアは街の中は初めてでギルド前まで来たとはいえずっと寝ていたのだ。地理は把握できていない。だが自分では歩かず、不満で頬を膨らませ最後まで抵抗の姿勢を崩さなかった。

 ギルドへ入ると表よりも更に賑わっていた。中はとても広く、テーブルも多く並べられていて軽い食堂のようになっている。見れば酒を飲んでいるものや一品料理をつついている者達もいる。

 ポトスの目的である証書を金に換えてくれるギルドの受付は入り口の正面に見て取れた。

 ポトスは抵抗するマリアを引きずりながら進んでいく。その様子は周囲の目を引くもの。だがそれ以上に視線がポトスに集まっていく。


「おい、底辺ギルドのマスターだぜ」

「ん~? 何がどうしたんだぁ~?」

「ギルド分けの時しゃしゃり出て、追随部隊に入れなかった挙句、底辺ギルドに落っこちた奴だよ。てかお前酒飲みすぎ」


 やはり昨日あった出来事は皆覚えているようだ。千人のイクスの面前で醜態をさらした底辺ギルドのマスターを。

 だが不思議と絡んでくるものはいない。いくら底辺と言ってもポトスの順位は百位。絡んで茶化して愚弄する資格を持つものはポトスより上位の九十九人しかいないのだ。ゴードンの政策は上手くいっているようだ。


「リーダーって有名人なの?」

「まあ、ちょっとな」


 マリアはその時いなかったので知りはしない。首を傾げて聞いてくる。有名人たる所以が自慢できることであればポトスも嬉々として話すのだろうが、それはお世辞にも褒められたものではない。


「よぉ、底辺ギルドっ、のマスター」


 受付へ続く道に立ちはだかったのはポトスより順位が一つ上の男、グレオ=フェノサイド。底辺を強調するようにわざとらしく言葉を切ってくる。


「おや、そういうお前はブービーギルドのマスターじゃないか」


 二人は面識がある。とはいっても悲惨なギルド分けの際、互いの境遇の一致に軽く愚痴り合った程度だが。


「迷子でも捕まえてきたのか?」


 グレオは引きずるマリアを見て迷子になった子供、とでも思ったのだろう。訝しげに聞いてくるがマリアはギルメンだ。ポトスはさくっと否定した。


「いや、芋ほりしてきたんだ」

「芋ほり?」


 立ちはだかるグレオの横をすり抜けてポトスはマリアを引きずっていく。抵抗するのも歩くことも面倒になったのか、一切抵抗しない。そのマリアが見たのはグレオのきょとんとした表情だけ。それにマリアも傾げたキョトン顔で返すだけ。


「あーと、証書の受け渡しはここでいいんだよな?」


 マリアを引きずってやっと依頼を受けた場所まで戻ってきた。依頼完了の証である証書をカウンターを挟んだ受付嬢に渡せば完了だ。


「はい! ここですが……え、ええと」


 証書を受け取ろうとした受付嬢の視線の先には引きずられるマリアがいた。 


「人探しのご依頼を受けた方でしょうか? もしそうでしたら迷子探しは依頼主の元へ、犯罪者の確保であれば屯所の方へお願いします」


 グレオ同様、受付嬢も引きずられるマリアを見て勘違いをしているらしい。しかし迷子の扱いにしては雑な扱いなので犯罪者へと思考がシフトしたのだろう。ポトスはそれを証書を差し出して遮り、換金を促した。


「これはただのギルメンだ」

「あら、これは失礼しました。証書の換金ですね。確認します!」


 受付嬢が丸められた証書を預かると中身を空けもせず。すぐ横の穴にすとんと落とす。何をしているのか、とポトスはその成り行きを見つめる。その横からはマリアも興味津々に覗き込んでいた。

 数瞬後、穴が光ると同時に机も光り、その上にあった用紙がガサガサと揺れだした。

 その怪奇現象にマリアはびくついてポトスの背後に隠れ、ポトスも上半身を堪らず逸らす。

 光りはすぐに納まった。そして机の上にあった用紙を恐る恐る覗き見ると何か文字が書かれている。ポトスの記憶では光る前、それは白紙だったはずだ。

 受付嬢がその文字が書かれた用紙を手に取り詳細を読み上げた。


「第二十四期イクス、ポトス=アイゼンバーグさんのギルドですね。依頼完了です! おめでとうございます!」

「お、おう。ありがとう」

「換金は現金でしょうか? カードでしょうか?」

「カード?」

「はい、カードですと店頭の水晶にかざすだけ! お釣りを用意する手間も時間も必要なくなります! 店の主人の気前もよくなってオマケが増えるかもしれないですよ!」


 意気揚々と語りだす受付嬢。定型句の口上にも聞こえるのは恐らく今日が初の依頼になるイクスが多いからだろう。何回言ったかわかりはしないがそれでもこの受付嬢は元気一杯に対応する。


「盗まれたとしても本人以外は使用不可! カードでの利用をお勧めします!」


 受付嬢の気迫に押され、ポトスはおじおじと頷いて了承する。


「今回が初の依頼でしたね! カードはもちろん持っていませんよね? 発行するので少々お待ち下さい!」


 受付嬢は資料やらカードやらを取り出して何かをし始めた。


「ずっと前この街にイクスで来た奴の発明だってよ。データベース? とか何とか。それで持ち主の気の波形で認証するとかどうとかいってたな」


 横からグレオが顔をだし、驚きっぱなしのポトスへ補足説明してやる。グレオもその不可解なものについて受付嬢に尋ねたようだ。


「聞く限り、便利なもんだ。現金持たずに直で銀行から金を使えるようなものらしい。この国でしか使えないらしいがな」

「ああ、なるほど。そういうことか」

「ん?」


 ポトスはそれで合点がいったとばかりに言葉を吐いた。


「何でそんなまどろっこしいことをするのかと思ってな」

「こっちのほうが便利だからだろ」

「確かに便利だがそれらの基盤をしくには多少は費用がかかる。ドラゴン討伐に大忙しの中何でそんな手間をかける?」


 受付嬢が作業する穴埋めとばかりにグレオとポトスの話が間に注がれていく。


「余裕ができたから? ……金は大事だしな」

「そうだ」


 その会話にマリアは自覚していないだろうが自然に頷いている。受付嬢は何やら心配そうに二人の雑談を見つめながら作業をこなす。


「だがここで稼いだ大事な金をそのまま他国に持ち込まれたらどうなる?」

「そりゃこの国の稼ぎが減るだろ?」

「だからこの国でしか使えないカードを広めてるんじゃないかと思ったわけだ」

「なるほどぉ~」


 マリアが頷きながらポトスの考えに同意した。


「そんなもん換金すりゃいい話じゃねぇか」

「おお、そうだ、その手がある!」


 そこはどうするのか、という視線を向けてくるマリアとグレオ。だが顔色一つ替えずポトスは語る。


「現金にする時、手数料ってのが発生する。それが異常に高いんじゃないのか?」


 それで国外への流出を防ごうと言うのだろう。そしてその答えを知っている人物が作業を終え口を出す。


「それほどではりません。三割程度です」

「たかっ!」

「頭湧いてやがるな」

「金を使うならこの国で、持ち出すなら三割払えって事だろ」


 ドラゴン退治へ兵力を注ぐノルウェン国。その為資金不足は否めないのだろう。資金源である農業ですらあの状況だ。だから一見すると便利、安全を謳う画期的な機能だが、裏ではノルウェン国の切実な動機が見て取れる。

 それにしてもそれでは少し多すぎる気がする。

 カードの運用を進める中、そんなことを気にかけるイクスはどれだけいるかわからない。もしそんな事が広まっていればイクスの招集も困難になるはずだ。

 何かイクスを減らしてでも集金に走る理由が何かあるのだろうか。と、ポトスが思考を頭に巡らせていると受付嬢に声をかけられた。


「あの」

「ん?」

「これ、ギルドメンバー用のカードとマスターのカード、計四枚でよろしいですね?」


 例のカードを四枚、カウンターの上に陳列させた受付嬢。手のひらサイズの銀色のカードだった。


「折り曲げたり、水に濡らしても大丈夫ですが削ったり、溶かしたりはしないでくださいね。中の刻印が消えちゃうかもしれないので」


 魔術でよく使われる刻印がこのカードには施されているようだ。マリアなどが使用する魔術の術式を刻みこんだもの。

 

「五人の筈だが」


 ポトス達のギルドは全員で誤認のはずだ。差し出されたのは四枚。

 一枚足りない。


「マスターはポトスさん、メンバーはヒゴさん、サナさん、イヨナさんの四名では?」

「マリアがいないようだが」

「え? ええと」


 受付嬢が言うにはイクスに登録されていない者は使用できないらしい。


「マリア、お前は遅刻したから報酬なしらしい」

「ガーン……」


 唖然とするマリアにポトスは笑いながら追い討ちをかける。


「まあいいじゃないか」

「なにがいいのよっ」

「聖女は禁欲を美徳とするんだろ? 見返りという欲を禁ずる聖女様はなんて美しいのか」

「美しいだなんて……そんなぁ」

「という訳で無しな」

「それはどうだろうか!」


 そのやり取りで、どういう経緯か気付いた受付嬢がある提案をしてくる。


「そちらの方ですか? でしたらこちらの水晶へ手をかざしてください。御指名されていらっしゃったのなら仮リストに登録されているはずです。これで登録できますよ」

「やたー」

「報酬は均等分配でよろしいですか?」

「ああ、それで頼む。あとギルドのランクアップを頼みたい」

「承知しました。寄付金の額はいくらに致しましょうか? 寄付金は報酬額の最低一割、最大二割です。高額になるほど上位へランクアップすることができますよ」

「じゃあ」


 ポトスが受付嬢に背を向ける。ポトスは周りの机に座っている者を嘗め回すように見やる。すると幾人かの者が顔を背けた。

 ポトスは初日に良くも悪くも目立っていた。そのマスターのいる底辺ギルドはいかほどのものなのかと皆興味があるらしい。ポトスと目があってもじっと注視している者達もいる。

 そこでニヤリと片唇を釣り上げるポトス。


「寄付金は三十万ルピンで」


 報酬の二割、寄付できる最高額の三十万ルピンを高らかに公言した。

 すると周りが急にざわつき始める。それもそのはずだ。寄付金の割合を考えれば最高で三百万、最低でも百五十万稼いだことになるのだから。最高額にせよ、最低額にせよ、その寄付金の額は周囲をざわつかせるのに十分だった。


「ありがとうございます! ではこの依頼と寄付金で合計五つランクがアップですよ! おめでとうございます!」


 寄付が多いと受付嬢の給料も上がるのだろうか。それともノルウェン国への愛国心からだろうか。今までに無いくらい声を大にして嬉しそうにお礼を言う。

 その後、残りの百二十万ルピンをギルドの人数五人で均等に割り、二十四万ルピンずつそれぞれのカードへ振り込まれた。


「あ、それと先程の事なのですが……あまり他言しないようお願いします。あなたのような稼ぎ頭の人にいなくなられてはノルウェン国にとって大きな損失ですから」

「え?」


 いなくなる、とはノルウェン国からか、もしくはこの世からか。どちらとも採れるその脅し文句に一瞬ポトスの頬が引きつる。受付嬢の声は以前と変わらず明るくそれがまた怖い。

 ポトスとグレオは顔を見合わせる。マリアはただ首を傾げるだけ。

 少し考えればすぐにわかる事だが、言いふらせば現金で報酬をもらうものが増えてくる。そういう危惧からだろう。

 やはり愛国心があるのか、それとも現金を引っ張ってくる作業が面倒なのかは分からない。

 ポトスとしてもそれを言いふらすメリットは何も無い。黙ってうなずいた。


「そ、それと現在のランクでできる依頼を見たい」

「はい、ええと、こちらになります」


 ポトスはその依頼が書かれたリストに目を通すと目的のものがあったのかすぐにそこを指差して依頼を受け、証書と資料を受け取っていた。




 ギルドでの用事は済んだ。受付から離れ、一息つこうと空いている机にポトスが座り、横にマリア、その向かいにグレオが腰掛けた。


「節操の無い奴だな」


 グレオが席に着いた直後にポトスが一言。


「お前もそういうつもりであんなでかい声で言散らしたんだろうが」

「注目されているというのは役得だからな」


 二人は示し合わせたように笑い合う。その二人の顔は聖女であるマリアには悪いことを企んでいるように見えたのだろう。二人に隙を与えないよう注視している。しかし机に付けば何か頼まなければならない。注文を店員が聞きに着たのでマリアの視線は二人からすぐにはがれ、意気揚々とフルーツパフェを注文していた。


「で? どんな違法な手を使ったんだ?」


 とは先程の依頼のこと。


「失礼な、違法じゃない。ちょっと脅しはしたが正攻法だ」


 ポトスがわざわざ周りのイクスに自分の成果を言いふらしたのは別に自慢したいからではない。大人数のイクスがいる中であんなことを言えばきっと誰かがその方法を探りに来るとポトスはふんでいたのだ。それがすぐ傍にいたブービーギルドのマスター、グレオだ。

 しかしそれがあまりにも早すぎた。机に付き、お茶でも飲んで一息つきがてらとポトスは予想していたのだが、机に付くと同時にやってきたグレオ。


「そうか、その方法を俺に教える気は?」


 案の定、グレオはポトスの思惑以上の間と弁をもって問う。

 

「ある。だが条件を飲め」


 単刀直入に話す者には率直に。ポトスも言葉を短く切ってつなげ、グレオに自らの意志を表明する。

 グレオの射抜くような視線にポトスはニヤリ。その怪しい笑みにグレオもニヤリ。しかし二人が悪いことを企んでいると睨んでいるのだろう。マリアはしかめっ面だ。


「とりあえずその方法を教えてやろう」

「ん? いいのか? 条件を飲まずその方法を俺が使うかもしれないぞ?」


 短期で莫大な報酬を得る手段を先に教授されれば条件を聞かず自分達だけで実行すればいい。ポトスが愚か者であればこのまま黙って方法を聞いていればよかったのだ。

 だがグレオは口に出てしまっている。単刀直入、と言うよりも思ったことをすぐ口にする性格の持ち主らしい。だからそれが意外だったのか、ポトスは少し笑ってしまう。

 

「何だよ」

「いや、汚い言葉遣いの割に案外優しいじゃないか。わざわざ警告してくれるなんてな」

「もうしねぇ」

「ふふっ……問題ない。これは少し特殊な方法だからな」

 

 ポトスはイヨナをグレオのギルドへ貸し出すつもりなのだ。そしてこの方法は召喚士イヨナの召喚獣である蛇子モグラ、その召喚獣と交渉できる能力が無ければ成り立たない。

 加えて依頼内容とその期間の比率が合わない、と言う弱みにつけ込む事はもう出来ないだろう。彼らは農家ぐるみで談合し、期間を統一していた。それをポトスに見破られたのだ。すぐに正規の期間に戻されるだろう。

 だからポトスの言うとおり、問題はないのだ。

 ポトスはその方法をグレオに話すとやはりいい顔はされなかった。


「……そんな戯言を信じろと?」


 期待で胸膨らんでいたところに舞い込んだ戯言。グレオなのかでそれは現実味の無い夢となった。

 ポトスとしても予期していたことだ。だから損害については全額保証する、と一筆誓約書を書いてやると言ったらグレオは素直に引き下がった。

 更にイヨナの能力は先程の依頼主から農家の者達に噂は広がっているだろう。それを告げると未だ疑念渦巻くグレオの表情は納得のいくものとなった。


「で、条件は?」


 ここが一番大事だと、グレオは前のめりになる。ポトスも前のめりに。マリアは聞き耳を立てる。


「報酬の五割をこちらに渡せ」

「頭ぶっ飛んでるなぁ……お前、本気で言ってんのか?」


 話にならない、とグレオは状態を解いて背もたれにもたれかかる。


「お前も良く考えろよ? 一日百万だとしてお前達は五十万手に入る。十人で割れば一人五万ルピンだ。日当としてはこれ以上ない額じゃないか」

「お前のところは人数少ないかもしれないが俺のところには十一人いる。それに寄付金も忘れるなよ? もちろんその額は寄付金を――」

「含んだ額の五割だ」


 十一人でその条件だと一人四万ルピンをきることになる。


「ふざっけんなよ!?」


 グレオは未だ前のめりになっているポトスの胸倉をさっと掴んで引き寄せ、周りに気付かれないように静かに叫んだ。だがポトスは未だ笑みを浮かべている。マリアといえば聖女の観察を怠り、持ってこられたパフェをひとすくいして口に運ぶ手前で固まってしまっている。


「ふざけてなんかない。人数が多いなら何人か選別して、残りは他の依頼にまわせばいい。ちなみにお前の今日の依頼はいくらだった?」

「……一万ルピンだ」


 その言葉で突然ポトスの表情が無くなった。そして一言。


「すまん」

「うるせぇ! そう思ってるならもっとまけろ!」

「分かった。四割九分でどうだ」


 全然減っていない。

 これでは埒があかないとグレオが口をあける。


「二割だ」

「はぁ?」


 今度は逆にポトスがグレオの胸倉を掴む。


「お前がふざけるなよ? 頭ぶっ飛んでるのはお前だろ」


 ポトスの条件は横暴だがグレオの出した条件も横暴すぎる額だ。

 両者一歩も引かずしばしにらみ合う。だが、どちらが優位かは一目瞭然だ。よい人材を持っているポトスが圧倒的に有利なのだ。


「俺はこの話を反故にしてもいいんだぞ?」

「な、なら三割だ! これ以上は――」

「なら四割五分でどうだ」

「三割五分でどうだ!」

「四割三分」

「そこは四割だろ!」

「そう上手くいくと思うなよ?」

「ならこっちも三割だ!」


 譲歩していくポトス。その値に近づけていくグレオ。

 だが立場が低いはずのグレオが逆に値を離した。

 これにはポトスも納得いくはずがない。


「なんでだよ! なんで下げるんだよ! こっちも上げてやろうか!」

「じゃあ三割五分でいいだろ! それでいいだろ! もういいだろ! 了承しろよ! 頼むよ!」


 必至のグレオの訴えにポトスも眉をヒクヒクさせながら唸ってしまう。これはもう泥仕合だ。どちらかが引くまで終わらないだろう。


「……なら、寄付金を含んだ額の三割五分だ。それ以上は譲らん」


 泥仕合に無駄な体力を使いたくないとポトスはあっさりと引いた。


「決まりだな」


 ほっこり顔のグレオと忌々しそうなポトスは互いに握手し契約が成立した。

 その後、さっさと手続きを済ませ、ギルドを後にしようとした時、グレオがポトスに声をかける。


「そういや、お前らはどうするんだ? その召喚士いないと何もできないだろ」


 何も、と言うのが少し余計だが、イヨナは一人しかいない。蛇子モグラはニ匹いるにはいるがイヨナがいないと損害が大きくなりそうなのでやりたくない。

 更にポトスはランクアップした直後に何か依頼を受けていた。おいしい依頼を他人に任せ、受ける依頼とは一体なんなのかグレオは気になったらしい。

 ポトスにはやりたいことがある。それに関連する何かなのだろう。


「護送だ」

「護送?」


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