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第七話 ~荷台の上で~



 ポトスの案は相当の効率を生んだ。日が暮れるころには打ちあがった全ての芋を回収することが出来た。

 しかし土地が広すぎた。広大な畑を走り回り、芋を回収していった底辺ギルドのメンバーはさすがに疲れてきっている。竜巻で芋を集めていたポトスもへたり込んでいた。

 本日の功労賞である蛇子モグラ二匹と言えば、依頼主から分けてもらった芋をむしゃむしゃと食べ散らかしている。芋を掘ることも穴を掘るくらいに日常のことなのだろう。疲れた様子はない。

 しかし疲れきったメンバー達の前には今にも落石が起きそうな芋の山。蛇子モグラの活躍があってか、依頼主が言うに今期は収穫量が目に見えて多いらしい。


「お疲れさん」


 蛇子モグラ始動前まで顔を歪めていた主人はうずたかく積み上げられた芋の山を見てとてもご満悦だ。


「まさか一日で終わるとは思わなかったよ。礼を言う。本当にありがとう」


 依頼主がへたり込んでいるポトスへ手を差し伸べてくる。ポトスは立ち上がらず、手だけを伸ばして握手を交わす。


「礼なら金で十分だ」


 ただのボランティア精神を持って無償で働いたのならこれ以上無い報酬だが、これは依頼でポトス達は受注者。だから依頼主はもちろんだ、と笑って応える。


「約束の百五十万を喜んで払おう。それと君達を騙そうとした事も謝りたい」

「別にいいさ。俺たちの前のスカウトされたイクスのほとんどは断ったんだろ? 俺は思わないがマリアが言うには仕方が無い、事だったんだろうしな」


 罰悪く、頬を掻く依頼主の顔は引きつった笑顔。依頼を直談判までしたのだ。その表情から当時の苦労が伺える。更にチラリとマリアを忍び見る。若干仲間割れのような事態に陥った際、依頼主もすぐ傍にいたのだ。なんといっていいか分からない微妙な表情をしている。

 

「神の教えは尊い。神の子である聖女の言うことは聞くもんだ」

「そ、そうだな」


 皮肉に取れるそんな会話。渦中のマリアもその会話はすぐ近くでへたり込んで聞いている。しかし合わせる顔が無いのか、俯いたままだ。


「ま、まあ、そのおかげで報酬額が上がったわけだしな。こちらとしては旨い依頼だった」

「はは……」


 さすがにやりすぎと感じたのだろう、ポトスの言葉で依頼主の顔もやや引きつる。

 しかし全てうまくいった。依頼主のその表情の中には自分の行いに対する体裁の悪さがあるが、それ以上に明るく、嬉しそうな気持ちで緩々だった。やっと受けてくれた依頼を慰謝料まで払って棒に振りかねない事態から一転、最高の成果を上げたのだ。その表情も自然とほころぶというものだろう。

 

 

 その後、ポトスは依頼の完了を報告するためにノルウェンギルド本部に報告に向かっていた。広大な土地を必要とする農業区域からは遠く、歩くとかなり時間が掛かってしまう。その為メンバーには先にギルドに帰ってもらい、ポトスは街に向かう。取り立てほやほやの芋を街に納めに行くついで、という依頼主の好意で馬車の荷台に乗らせてもらっていた。


「はぁ~、一仕事した後は眠くなるなぁ」


 走るよりは遅く歩くよりは速い速度。馬の蹄が地面を叩く単調な音と心地よく揺れる荷台。疲れもあってポトスは欠伸をし、うとうとし始める。そして一見独り言のようなそれだが実際は違う。隣には件のマリアがいた。


「リーダーはただ砂埃撒き散らして歩いてただけじゃん」


 眠たそうなポトス。それに対しマリアは黒く長い髪を束ねて肩にたらし、土がついているところを探して取り除いている。

 先程は顔も合わせられないでいたマリアだが今は違う。依頼主は前で馬の舵を取り、二人は後ろの二台で足をぶらぶら。依頼主に会話が聞こえない為マリアは強気だ。それもそのはずでポトスが起こした竜巻の強烈な上昇気流に乗ってマリアの服が剥ぎ取られたのだから。その後どうなったかは言うまでも無い。その分マリアは強気に出れるのだろう。

 

「あれは見ため以上に集中力がいる。どれだけ繊細なコントロールが必要か、お前は知る必要があるな」


 そして何故マリアもついてきているのかと言うと街が見てみたい、ということだった。

 マリアは大遅刻してきた為城下町には入っていない。ポトス達が宿泊する場所は城からは一番遠い、市壁に面した場所にある。市壁の入り口付近でマリアを拾った為、マリアはまだ街の中央を見ていないのだ。

 お嬢様であるマリアは聖教都アレナスカから出たことが無いようで、他の街に興味があるのだろう。


「それを知って何かいいことあるなら聞いてあげる」

「そうだなぁ……どれくらいすごいかを知ったら、俺のことをひっぱたいて殴る蹴るの暴行をしたお前がねぎらいの言葉をかけるようになる」

「それって幻術か何かなの? ていうか今のってリーダーにとってのいいことだよね」

「いいことではないが、俺をよいしょしておけば何かいいことがあるかもしれない」

「……リーダーってよく変わってるって言われるでしょ?」

「自分にとって変わってないものは自分だけだ。俺以外、皆変人だ」

「それって私も?」

「かなり」


 変人にかなり、という飾りを付けられたマリアはやや不満げだ。ポトスが口にした通り、自分の事を変人と思っていないマリアには理解に苦しむ見解となる。

 

「じゃあ……あの時、私のことを嫌いって言ったのは私がその……かなりの変人さんだったからなの?」


 マリアは泥のついていない髪を指でくるくると巻きつけて弄びながら横になっているポトスをちらちらと視界に入れてくる。

 あの時、ポトスとマリアが言い争った時。マリアはポトスが嫌いだと宣言した直後、ポトスも同様の主張をした。相思相愛の真逆。売り言葉に買い言葉にも見えなくも無いやりとり。

 互いにわだかまりが取れたと思われていたが、唯一それだけがマリアの心に引っかかっていたらしい。もしも本当に嫌いだとするなら竜巻を起こして芋を集める際、マリアのいる場所は無かったはずだ。


「そうだ」


 意外にも、ポトスの言葉はそれを肯定する。ポトスの言った言葉は売り言葉に買い言葉ではなく今でも嫌われているようだ。

 だとすればやはり一つ疑問が残る。なぜあの時マリアの居場所を作ったのか。そのまま放っておけばマリアは自然にギルドを出て行ったに違いない。ポトスにとって良い環境の出来上がりだ。

 だがその謎はすぐ後に続くポトスの言葉で解明されることになった。


「厳密に言えばマリアが、と言うよりも聖人が嫌いなんだ」

「え? どゆこと?」


 ポトスの言葉にマリアは一瞬頬が緩む。それは自分自身を否定されているのではなく、マリアがついている職が嫌いだということから。例え職を否定されたとしてもマリアそのものが否定されていないとなればやはり嬉しいようだ。

 更にポトスは忌々しそうな表情で言葉を続ける。


「あいつら、俺に散々説教を垂れてくれたからな。何度恥をかかされたか数え切れない。姿を見たら逃げ出すほどだ」


 聖人と言われる人種は、人の三大欲求を理性で抑制することを聖とし、それに負けるものを闇としている。

 聖人が使用する要素は聖。闇の要素が聖の要素を上回った時、聖の要素である術、魔法を使用することが出来なくなるらしい。だから聖人は必要なまでに悪を嫌うのだ。

 芋ほりの時、ポトスの一連の動向を見れば一目瞭然だ。ポトスは闇の要素が強い。だから聖人に説教される場面が多々あったのだ。頬をひっぱたいた聖女たるマリアの行動がそれを強く明示している。

 

「なぁんだ。よかった」

「何がよかったんだ?」


 聖人が嫌いだと宣言したポトスに対し、よかったと安堵の色を見せるマリアはどこにでもいる少女のように笑っていた。


「だって私のことを嫌いなギルドマスターがいるギルドにいたくないから」


 どこのギルドでも職場でも、上司に嫌われていては出来る事もできはしない。だからポトスもその意見に賛同するように微笑み返す。


「言っておくが聖人は嫌いなんだからな」

「それは別にいいよ」

「ほう、それは――」


 意外だなと、そのマリアの真意を認めようと体を起こすがそこには聖人然とした聖女がいた。

 マリアは神に祈るように手を胸の前で組む。


「聖人嫌いは闇人の証拠。それを正すが聖女の役目」


 先程それに失敗し、仲間の信頼を失いかけ、挙句べそまでかいたマリアの言葉のどこにも信憑性は無い。だがその前提をなしとするならばそれは実に堂に入った主張だった。

 そこにあったのは歳不相応に大人びた柔らかな笑み。聖人が時折見せる、神より賜えし救済の心を持った笑顔。マリアはその体制のままポトスへにじり寄る。

 

「その腐った性根を私が叩き直してあげましょう」

 

 言って小首をかしげる様は歳相応の、可愛らしい仕草だった。黒く長い艶やかな髪が揺れて、それに拍車をかける。ポトスはそんないたずらに笑う少女に微笑んで言葉を返す。


「結構だ。もう寝る。起こすなよ」


 マリアに背を向けて横になるポトス。それを唖然と見送るマリア。

 「偉そうにっ」と先程の神々しさはどこへやら。手をわなわなさせて揺り起こしてやろうと睨むマリアだが眠っている者への報復は意に反するのか、マリア握り締め、やがてその拳をそっと解いた。

 それからしばらく、諦めて街の風景を眺めていたのだが、ポトスの穏やかな寝息と、ゆりかごのように程よく揺れる馬車の上でいつの間にか眠ってしまっていたのだった。



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