私の中での結論
暖ったかいのぉ、気持ち良いのぉ・・・。
やっぱり露天風呂は最高だのぉ・・・。
だけど、それよりもご褒美な事があるんだなぁ。
たわわに実るマシュマロが二つあって今にも触れれそうな距離にあるのぉ。
ブヒヒ、ただ今ワタクシはラッキースケベを堪能中です。
すぐ横には美しい顔立ちの、美しい脚の、美しいボデェのユウナたんが温泉に浸かっているのだからなぁ! フヒヒヒヒ・・・。
タオルが肌蹴そうだし、もう少しで透けて見えそうだぞぉ~。
ほらっ、もう少し浸透して全裸にしてしまえ。
っていうか、いっそのことタオルが透けるスキルがほしっ・・・、ぎぃやああああああああ!!!!!!
・・・
・・・・
ったくこの変態は私が少し気を許したからって調子に乗るから、しばらく沈んで反省しなさい。
踏みつけて浮き上がって来られないようにしてあげるわ。
(ガボボボボ、ビブ(しぬ)ババラべ(たすけて)・・・。ベボビボボー(でもきもちぃ))
どうせこの変態は私に踏まれて気持ち良いとか思っているでしょうから、気絶するまで踏んでやるわ。
ゴミを踏みつぶす要領で力強く踏みつけてやった。
しかし、魔力回復のために温泉に浸かるとわね・・・。
てっきりもうこの世界に来てからは温泉には入れないかと思ったわ。
この世界でもこういった習慣はあるみたいね。
あ、浮かんできちゃった!
っていうかピクリとも動かないから死んじゃったのかしら?
まあ、もう死んでいるのだから、今更どうでもいいけどね。
しかし、まあ何ともマヌケな光景ね。
杖が棒切れのように浮かんでいるし、それが魔物界の頂点である魔王様だから笑えるわ。
「はぁ~、いいお湯だな~」
いや~、さっきまで殺されかけていたけれど、こんな満天の夜空で温泉に浸かっていたら疲れなんて一気に吹き飛んでしまうわね。
このまま、頭をもたれかけて真上の星を眺めていたら寝てしまいそうだわね。
なんかここに来てから寝ることしか考えてない気もするけどねー。
いや、ダメダメ! 寝てしまったら、そこの棒切れが何をするか分かったもんじゃないわ。
また、私が一人の時に寝てみようかな。
あ、そうそう。
どうして温泉に浸かっているのかというと、この気絶している棒切れが、殺人鬼ククルカンから逃走する時にテレポート魔法を使用して、変態が造った温泉の近くまで転送したからなんだ。
といっても魔王城から距離は全然遠くなくて、魔王城を下ったところにある平原(というか魔王城を降りた裏側にポツンとおいてある)にあったみたい。
ちなみに、こういう特性があるのが流石魔王なだけあるという事で、実はこの温泉は浸かっているだけで魔力が回復するんだって。
魔王が水魔法とその他の魔法を利用して生み出したらしい温泉は、その水に浸かると癒し効果と魔力回復効果があるらしくて、私でも先程の戦いで消費した魔力が回復していくのが分かるから凄いよね(正確に言うと魔力消費による疲労が取れたって感じかしら)
ただ、今回は私の魔力回復のためにテレポートしたのではなく、この変態が著しく消費した魔力を回復するために温泉に転送したようね。
確かに戦闘後の転送は、ハッキリ言って私よりも疲れている感じだったし、あそこまで息切れのようなものを起こされると本当に死んでしまうのかと思ったけれど、ちゃんと生きていた。
だから、この変態にはククルカンから助けられたし、温泉に杖が一人で入れないだろうから、気を使って一緒に入ってあげたのにセクハラをしてくるようなゲスだったわ。
って本当に動かないわね。大丈夫かしら? まあいいわ、今回私より強い相手と戦って私は今後どうするべきかを考える事にするわ。
さっきからずっとその事を考えていたけれど、本当に主人公を無差別に殺す必要があるのかしら。
私は私の思うようにこの世界を回ってみたい。
この変態の言う主人公を根絶やしにする事は、私がこの世界で生きるにあたって意味のある事なのかしら?
主人公の中にも良い主人公がいるハズよ(というか立場的には私たちが悪者ね)
そんな主人公を無差別に殺せる訳がないわ。
だから変態には悪いけれど、私は主人公を・・・。
「殺さない、か?」
考え事をしていたので、いや、急にククルカンよりも恐ろしい殺気のようなものを感じたので私はその声がした方を見ざる得なかった。
いつの間にか浮かんでいた杖は、私の方を向いていて、顔なんてなくても何か恐ろしいものを感じた。
だが、恐ろしい雰囲気よりも声に反応してしまった。
その声はいつものノリとは全く違うシリアス魔王のものだった。
逆鱗に触れてしまったのか、とにかく空気がいっぺんに変わった。
だけど、怯えるわけにはいかない。
というかこんな棒切れに屈してはいけない。
「ええ、私の中で結論が出たわ」
「殺さなくてその先はどうするかの結論か?」
テレポートして、温泉に浸かっている時にすでに結論は出ていたのかもしれない。
「だが、それでもお前は主人公を殺すのだ。そのためにお前を連れてきた! 価値のない奴ほど不必要なものはないぞ!!」
口調がどんどん荒くなっていく。
なんで普段からこう言う感じで話さないのか相変わらず不思議に思う。
「ええ、だけど私は悪意の無い主人公は殺せない。その代わり私はこの世界で悪事を働く主人公を倒すことにするわ」
善意のある主人公を殺すのならば、まだ、世界で悪事を働く主人公を裁いた方が良いだろう。
何様という感じはするが、この世界に来させられた理由が主人公殺しならば、悪意を持った主人公だけを殺しても良いハズだ。
そして、これだけ説明すれば、魔王も「なるほどな、ならお前に従おう」とか言うと思っていた。
またいつもの魔王に戻ると思っていた。
甘かった。
私の考えは甘かった。
「そうか、それがお前の結論か・・・」
「ええ」
「ならば、今死ね」
「ッッッ!!!!!!」
「殺気」今の状態を表すのならばこの一言で十分だった。
まるで「ゴォ!!!」とも聞こえてきそうな凄まじい殺気がスキルの杖から発し、温泉の水は半分ほど吹き飛び、髪はボサボサになり私は思わず立ち上がってしまった。
タオルが魔王の目の前で落ちて、全裸むき出しになったのだが、本当にそんな事はどうでも良いほどの恐怖を感じた。
命を刈り取る恐怖がダイレクトに伝わってきたのだ。
直後、私は腰が抜けたように座り出す。
いや、実際に腰が抜けたのだろう。
人生でこんな体験をした事がないのだから良く分からないが、確実にそれであった。
周りに水しぶきが飛び、腰の抜け方の大きさを表しているようだ。
声が出ない、体が震える。
先程まで私を助けてくれた人物が敵対し、殺そうとしているようだ。
それも、これ程恐ろしい殺気を込めて。
「グヘヘ、いいもん見たなぁ。分かったよ、お前がそこまで言うなら好きなようにやってみるとよい。元々強制するつもりは無かったし」
いつものテンションで魔王は言う。
瞬間私はホッとした。
大げさではない、本当に死んでしまうかと思ったからだ。
だから魔王が私の全裸を見て「いいもん見た」とかそう言うセリフは心からどうでも良かった。
「ハハ、アハハハハハ・・・。アンタ本当に性質が悪いわ」
私の感想はそれだった。
シリアスになったりふざけたり本当に最悪な性格だ。
安堵したから、もうぶっとばしてもいいよね。
私の全裸を見たのだからそれ位当然よね! 心からどうでも良かったタイム終了よ。
「くたばりなさい!」
全力で握りこぶしに力を込め、魔王もとい変態の帝王にロックオンした。
「えっ? 何で!? ちょっ、待って、ねぇ! 話せばわか・・・ぼべらばっっ!!」
今日の今日で一番の拳をスキルの杖、もとい、変態にぶちかましてやった。
それはもう物凄い勢いで吹き飛んで温泉から弾き飛ばされ、草原を抜けて遠くの岩石に激突する。
怪力って怖いわぁ。
いやいや、元々怪力とかではないけれど、この世界に来てから、まあ相手が良く吹き飛ぶこと!
はあ、スッキリしたから私は温泉に浸かりながら遠くの景色を眺めてリラックスしようかな。
湯が半分程しかないけどいいねぇ、変態がいないと気分が良いよ。
って言うか本当に怖かったんだから! 今物凄くリラックスしているのも悪い意味でそのせいよ。
私は自分の手がまだ震えていたことに笑った。
「怖かったんだから、もうっ!!」
・・・
・・・・
「痛ててて。全く、悪事を働く主人公から倒す、か・・・」
杖がスキルの杖じゃなかったら、もう三回くらい真っ二つになっているな。
すぐに手を出されるからワシが生身でこの世界に留まっていたらボロボロだな。
それにしても、この世界に連れてきた理由が主人公達を根絶やしにして、世界を破滅に導く事だったのに、これでは悪事を働く主人公を取り締まる主人公とやっている事が変わらないではないか。
そういう意味ではユウナは主人公と同じなので、殺した方がいいかと思ったが(というか殺してやろうかと一瞬思い殺意を纏った)向こうの世界から無理矢理連れてきたからなぁ。
達也君も無理やり連れてきて最後には変わり果ててしまったからな。
その罪滅ぼしと思ったのかは分からないけれど、もう少し見守ってやってもいいかと思ったな・・・。
ったく、仕方ないな。
魔力も概ね回復したし、次のスキルでも会得させるかな。
生意気だけど放っておけないしな。
あーあ、ワシもまだまだ甘いなぁ。
親バカ体質なのかなぁ・・・。
岩の下で棒切れはそんなことを考えていた。