乱れた秩序
主人公殺しの主人公の続編ですが、基本的には読んでいなくても楽しめるように書いたつもりです。
「秩序」これは決まりという枷によって守られているものであり、それによって人々は安全に生活を送ることが出来る。
秩序に対して少なからず不満はあるかもしれないが、少しの我慢によって、自分の生活が大きな害から守られるのならば耐えることは容易いだろう。
しかし、その秩序が乱され、破壊されるとどうだろう。
そうなると、決まりという枷が無くなった人間達の中に身勝手な行動をする者が現れることは言うまでもない。
最初は小さなルール違反も、徐々にエスカレートし、最終的には街を崩壊するレベルまで達することもあり得るわけである。
だが、秩序が乱される、すなわち、その枷を守る何かが壊されることなど、生きている内ではそうそうなく、人間達は特に何も考えずに生きていく事だろう。
それこそ一日のありがたみや毎日朝が来ることに何も感じないのと同じように。
人間は誰しも自分の身に火の粉がふりかかるまでの視野はハッキリとしていない。
それでも一度自分の立場になれば、その事の重大さを身に沁みて実感する。
五年前、RPGの世界に主人公殺しという、主人公を殺すために人間界から連れてこられた人物が居た。
連れてきたのは他の誰でもない、魔物の中で最強である「魔王」である。
魔王は、RPGの世界を征服しようと企み、優れた人間を人間界から連れてきたのである。
RPG界で人が人を殺す事などは殺人事件くらいなもので、ましてや、主人公同士が殺しあうことなどタブーであった。
だから、魔王は真っ白で何も知らない人間を使い、この世界を征服しようと企んだのだ。
連れてくる人間は心に闇がある、心に取り込む隙のある人間。
そんな人間をこの世界に苦労しつつも連れてくることに成功し、主人公殺しになってもらう事に成功したのだ。
その主人公殺しの成長は目覚ましく、RPG界のカリスマである四天王まで撃破し、ついには、この世界で神の主人公と謳われる人物と互角に戦えるレベルまでに達していた。
二人の激闘は、凄まじいもので、一つの技や魔法で地形を変えるレベルであり、とても人間の成す技とは思えないものだった。
死闘は続き、ついに主人公殺しが勝利したのだが、各地の主人公達の援軍によって主人公殺しも虚しく散っていった。
そう、この歴史に残る戦闘こそが今の秩序の乱れを形成していったのである。
その出来事から徐々に犯罪が増えていき、五年もたった今、本来は人間を魔物から守る立場である主人公が強盗や殺人を犯すようになったのだ。
賞金をかけられた主人公の数も少なくは無く、世界各地で主人公達の指名手配書が貼られていった。
そのポスターにより一般人は不安が大きくなる。
主人公に眠っている間に金品が盗まれたり、身内の人間が殺されたりなどは日常茶飯事であった。
基本的に一般人は魔力を持たないため、主人公には敵わない。
微量なら魔力を持つものも中には居るが、それは火を付けたり、少量の水を発生させたりなど生活にかかわる事が多いのだ。
故に石ころで鉄砲を持っている者に歯向かうのと同じで決して力を持つ主人公には敵わないのだ。
気持ちの面でも同じである。
普段から魔物を倒し慣れている猛者に、魔物と戦ったことも無い、精神力の無い一般人がまともに対峙できるわけがない。
それを知っているからこそ抵抗できずに一般人は苦しんでいる。
主人公の多い街に住む、一般人は毎日怯えて生活しているのだ。
魔物では無く同じ人間に。
さらに一般人を脅かす存在となるのが「魔物」である。
魔力を持たない一般人は元々、魔物に大きな恐怖を感じている。
それは言うまでも無いことだが、最近になってその恐怖が膨れ上がってきているのだ。
理由は魔物の凶暴性が増したからである。
凶暴性だけにとどまらずに、活動時間帯の増加、攻撃性のない魔物が攻撃的になる、知能の向上などと性格にも変化をもたらした。
秩序の乱れとの関係性があるのかは定かではないのだが、確実に魔物は凶暴になっている。
始まりの町と言われる、主人公の出発の原点となる町ですら、魔物が凶暴過ぎて、一般人やレベルの低い主人公では手に負えないものになっていた。
もはやドラゴンクラスともなれば、並の主人公では全く歯が立たないどころか、時には町が丸ごと消滅させられることもあった。
一般人も並の主人公もただただ指をくわえてその悲惨な状況を眺めているだけであった。
この世界に主人公がまともであり、魔物も凶暴ではない地域はほとんどないと言っても過言では無かった。
安息の地などこにも無く、一般人の悲鳴は徐々に大きなものとなっている。
世界は確実に悪い方向に進んで行っている。
枷は外れ、そこから侵入した乱れは手が付けられないものになっていた。
それを止める事が出来るのは、一体誰なのだろうか。
秩序の乱れを変えられる人間は居るのだろうか。
再び世界を、世界の枷を繋ぎとめられる人間が現れるのだろうか。
またどこかで命の火が消え、人間の悲鳴が聞こえてきた・・・。