49、それぞれの事情
娘達が騒ぎ出し、それにともない男達がむずむずし出す。仕事が始まりスタンリー・ティグニーが煮え切らせた結果、石炭輸送道が完成した暁には酒を解放しそれからパーティーの日に向けて休みにすると宣言した。そうなると娘達は俄然その気になり、男達を動かす。おかげで、完成に三日かかると予想されていたものが、日が暮れてしばらく経った頃には完成した。
僕たちはへとへとになりながら、それでも昼から何も食べていない胃に夢中で粥を流し込みベッドに倒れ込んだ。
「それじゃあ、今日からの三日間は休みって事か。俺はずっと休むぜ。歩くたびに肉が骨から剥がれ落ちそうだ。もちろん、パーティーには行くけれどな。おい、パーティーには従業員だけじゃなくて近隣の町からも人が来るそうだぞ。町でかわいい娘見つけたから招待状送って置いた。そうなると、空き地も決して広くはないよな」
「そうだね。そのためのご馳走と酒は本当に全部スタンリー・ティグニーもちだろうか?」
「ん。オレたちからもいくらか出さないといけないだろう。そんなことより、おまえの彼女を招待したのか?」
「…した」
「よかった。おまえのことだから、デートのことなんか頭にないだろうと思ったんだ。で、彼女は樵の娘なんだろう。ドレスはどうするんだ?」
「何か、彼女を見たことのないおまえがこうも言うって、不思議だよな」
ルパードは一瞬真顔になって言った。
「まあね。なんせ、あのスタンリー・ティグニーをふって、おまえがぞっこん惚れている娘だぞ。世界中探してもこんな希有な美女はいないだろう。聞くところに寄ると、ティグニー嬢のようにズボンを履いていたらしいじゃないか。おい、紹介してくれよ」
ルパードの熱意に僕は言い返してやる。
「おまえの所の将来の嫁さんは呼んでいないのか?」
ルパードは一瞬、口を閉じる。
「過保護な父親とフランスにバケーションに行っているさ。ま、これが俺の青春だ。今のうちにかわいい娘と遊んでおく」
彼の所もいろいろありそうだが、僕は黙っておいた。それから、僕はパンとチーズをくるみ、屋敷を出る。熱い目で僕を見つめる若い侍女に森へ行くとだけ伝える。彼女は不可思議な表情をして僕を見た。それを無視して僕は屋敷の外に出る。
森へ駆け足気味に歩いていると、広場に人だかりを見つけた。賭博だろうか? あまりに常軌を逸したものは取り締まらなければならない。近づいてみるとその人だかりはすべて娘達で、彼女たちが見ているのは色とりどりのドレスだった。娘達が僕を見つけると彼女たちはたちまち絡みつく視線で僕を見た。それから離れようとするが、それは蜘蛛の巣にかかった蝶のようにますます目立つだけだった。そんな時、ズボンの娘が娘達をかき分けきた。
「クリストファー」
質素な服装なのに皆よりあか抜けているのは確かだった。持ち前の上品さだろうか。アン・ティグニーは変わらない親しさで僕に笑いかけた。
「あなたもここに用があったのかしら」
「いや…単に通りかかっただけで。あなたは?」
「私は友だちに誘われたのよ。自分用にドレスは送ってもらったけれど、細々とした物を買えないかしらと思って。けれど、これはすべてレンタルみたい」
見ると、アクセサリーやドレスは大体安っぽい生地で出来ているようだが、そんなことはおくびにも出さない。彼女の友だちと思われる娘が人影から飛び出して来て、彼女に話しかけてきた。しかし僕の姿を認めるとたちまち彼女の陰に隠れてしまった。彼女は僕の包みを見て首をすくめた。
「それでは、クリストファー。夕食の時ね」
「あ、ええ」
彼女が背を向け友と語りながら立ち去ろうとしたとき、僕は閃いた。
「アンさん」
彼女は振り向く。一瞬、彼女にこのことを頼むのもどうかと思ったが他に頼む人もいない。僕は聞こえないよう囁いた。
「…実は、お願いがあるんですか。どうか、彼女の、シャインのドレスを見立ててくれませんか?」
彼女は一瞬、びっくりしたようだが笑って快く承諾してくれた。
「私でよければ。――大体衣装ってその人の欠点を隠すために存在するのよ。けれども、あんなに何も隠すところがないのだったらむしろ選んだ人のセンスが問われてくるわよね。腕の見せ所ね。ええ、分かりました」
僕はほっとして頷き、集団から離れた。




