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逃亡者たち  作者: モーフィー
第二章 Noon
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48、帰路


 彼女と別れ、帰路につくとき僕は満足していた。彼女は恋人だぞ! 何度も夢見ていたことが現実となった。屋敷の裏庭へと出、僕はとにかく無事を知らせようと、表へと出る。すると、そこではなんだか人だかりが出来ている。


 近づいてみると、誰だか分かった。


「ルパード!」


 集まっていた人々がぎょっとしてこちらを向く。その中でルパードが人並みをかき分けてやってきた。親しみやすい笑みを浮かべ僕の前に立つ。


「おう、クリストファー。急いで帰ってきたらおまえが行方不明になったって騒いでいたけど、ここにいるじゃないか。なんだ、この騒ぎは。どうなっているんだ?」

「そんな、行方不明だなんて」


 ルパードは更に言い募ろうとしたが、後ろからティグニー兄妹がやってくるのを見つけ、口をつぐんだ。いつもは上品である彼らも急いできたせいか息を切らしている。


「も、森に行っていたのか。彼女は?」


 開口初め、スタンリー・ティグニーは恋する少年の顔で彼女の安否を尋ねる。僕は口ごもってそれに答えようとしたとき隣からアン・ティグニーが口を挟む。


「シャインさんは無事に帰ったのに決まっているじゃないの。クリストファーが兄様に代わって、シャインさんを連れて行ってくれたんだから」


 そう言って、僕に向かって目配せした。どうやら、そういう解釈にして伝えたらしい。


「え、ええ。彼女は無事です」


 スタンリー・ティグニーはいつもの不機嫌な顔を取り戻したようで、僕の身なりをねめついた。


「どうやら、無事じゃないのは君の方らしいな」

「まあ…彼女が助けてくれたので大事にはありません」


 彼はつんと僕を後にする。


「…彼女は何か言っていたか?」


 僕は心の中で彼へのライバル心が燃え始めた。しかし、できるだけ敵に回したくない相手なのでやんわりと、しかしきちんと答える。


「いいえ。僕には聞こえなかったようです」


 ティグニー兄妹が立ち去った後、ルパードが好奇心むき出しの目で見た。


「俺がいない間に何があったんだよ。何か小耳にしたところ、たまげるほどの美人がやってきて、ぞっこんだったスタンリーの奴を振ったらしいな」

「そうらしいね」


 ルパードは歯ぎしりした。


「なんだ。おまえ、それだけかよ。なんかもっと描写はないのか。髪の色は何色だとか、胸が大きい、小さいだとか」


 僕は首を横に振った。


「全くおまえに女の事をいわせても全然面白くないな。おまえはいい奴だけれど、こうも興味がないっていったら感性をちょっと疑うぜ」

「何が。僕にも恋人はいる」

「どうせおまえが言っているのは、手もつないだこともないティグニー嬢のことだろう。話しただけじゃ、女の本当の良さは分からないぞ」

「アン・ティグニーとは別れたよ」


 僕はため息をついていった。ルパードは信じられないといった目で僕を見た。


「何、おまえ」

「お互い、結婚に関しては相性が合わないみたいだ。これからは友だちでいようって事で」

「おまえはバカか。そりゃあ、おまえが女に興味がないっていうのは分かるけれど…いや、おまえ、今さっき恋人がいるって言っていたよな。ティグニー嬢をふってまでもってことだよな。おまえの眼中に入るぐらいだからよほどの美人か醜女だな」

「おまえがいない間にきた美人のことだよ」


 僕は普通に歩いていたが、ルパードがついてきていないことに気がついた。


「それじゃあ、スタンリー・ティグニーをふった者とおまえは付き合っているって事?」


 僕は気まずげに頷いた。こんなに大きく騒がれるとは思わず、言わなければ良かったと後悔した。


「…おまえもやるもんだな。見直したぞ。あの、お堅いスタンリー・ティグニーがぞっこんの女をとるだと。その娘も大した酔狂だな。ひよこのオレたちよりスタンリーと結婚すれば、将来安定なのに。ま、若気の至りってこともある。なんだ、いつから付き合いだしたんだよ。それで、彼女はどうなんだよ」

「何が」

「おまえって奴は…。もうどのくらいになるんだよ。もう寝たのか?」


 僕はルパードの好奇心にうんざりして首を振った。


「まだ日は浅いさ。お互い好き同士でも分からないことは多い。それと石炭輸送道の現場監督はおまえに交代する。僕がやるべき事は大体終わらせたし、今度からはおまえのほうが効率いい」

「おい、はぐらかすな。おまえがその娘とやる気なら早くしたほうがいい。男の青春は結婚したら終わるぞ。ティグニー嬢と結ばれるのが一番だったが他は旬を過ぎたお堅いおばさんだ。まあ、おまえの失敗だ。聞くところに寄ると四日後にパーティーがあるじゃないか」

「ルパード、現場の資料はすべて部屋に置いてあるから自由に見てやってくれ」

「おまえもいつかは俺の教えを請いに来るぞ。おまえは初めてなんだからな。まあ、ハーブと言ったらオーソドックスだが、ここにも有名な魔術師がいるという話を聞いたことあるな。後は酒だな。勢いに任せろ」

「何のことを言っているんだ?」


 僕は思わず尋ねたが、ルパードの答えを聞いて質問したことを後悔した。それはまさに思春期男子の

話題であったからである。


「とりあえず酒だ。酒を飲め」

「…早く、仕事に取りかかれよ!」


 戯言を無視すればするほど、ルパードはにやにや笑い突っついてくる。確かに、学校の男子寮でもこのような話はよく話題になり、誰かに恋人が出来ると、みんなにつつかれていたものだ。確かに完全にその考えを排除することは出来ない。不埒な考えと思う一方で彼女とのキスの後のことを考えてしまう。今朝のあの盲目的な口づけを超えた所にどのような甘いひとときが待っているのかと思ってしまう。しかし、彼女のあの人の触れる前の野生な花のような清純さもそれによって失われると思うとためらいが残る。しかし、それらのすべてが絡まり、彼女の魅力を引き立てているのも確かであった。僕は再び彼女の絹のような髪と宝石のような瞳を思い出してため息をついた。


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