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逃亡者たち  作者: モーフィー
第二章 Noon
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37、新たな出会い

 それから、僕らは相変わらず森で会っていたが彼女は意識的にこのような会話を避けているようであった。僕も自分の気持ちに整理がつかず、胸に生まれた彼女に対する感情をもてあましていた。彼女は友だち以上に大切である。しかしそれが何なのか分からない。


 日々こんがらがっていく気持ちとは逆に事業は再開され、着々と進んでいった。ルパードは開発の進んでいく森を見上げながら満足げに言った。


「これも全部おまえのおかげだ。まったく」

「ああ」

「ところでよ、どうしておまえは森にはいることが出来るんだ? 人が入ったらひどい目にあってしまうあの呪われた森に。この前も聞いたが答えてくれなかっただろう。森の中で何をやっているんだ」

「ごめん、ルパード。それはある人との約束で言えない」


 ルパードはため息をつく。


「おまえはいつも不思議な奴だよ。おまえのことだから森でエルフとでも会っているんだろうよ。まあ、こうして何もかもがうまくいっているから何も言わないがね」


 鋭いところをつかれて、少し焦るがルパードはと言うと冗談のつもりで言ったらしい。


 僕は声を上げながら山へと向かう集団を見る。彼らは皆、この仕事で一旗揚げ大金を持ち帰ろうと喜び勇んでいる者だ。彼らが持っているエネルギーは今にも他の所にも飛び跳ねそうで森が人を恐れている理由が分かる。彼女は僕らを監視すると言った。このエネルギーが石炭掘ることの他に使われないように。事業主として開発の指揮を執らなければいけないので彼女とは数日会っていなかった。彼女の存在は麻酔のようだった。一度その香りを嗅げば毎日のようにその瞳を見て、その笑顔を味わいたいと思う。そして彼女に会わないときはいつも憂鬱で何をするにも無気力となる。ああ、今ごろ彼女は何をしているのだろうか…?


「どうしたんだ、クリストファー?」


 その言葉で現実に戻ってきた。僕は首を横に振った。


「何か、おまえ最近おかしいぞ。森から帰ってきたらまるで天国に行ってきたような顔つきをしているのに、行かなくなったらこんな調子だ。何かあるのか」


 あると言ったらある。しかしそれをルパードに言うわけにはいかなかった。


「ああ、もしかして、妾でも囲っているのか? あん?」

「何を言う…」


 僕は咄嗟に言ったがうまく隠しきれているとは言えなかった。そこら辺のことにかけては詳しいルパードはニヤリと笑う。


「何だ。そう言うことか。そういやおまえ女に興味を持つって初めてだよな。森での用は早めに済ませて、その娘と毎日楽しくやっているのか?」


 僕は何も言えなくなって顔を逸らす。しかし、ありがたいことにルパードはそれ以上追いつめようとはせず、真面目になって言う。


「別に愛人を作るのは構わないが、来週には視察団が到着する。おまえの将来の嫁さんにも考慮して今しばらくは遠慮していた方がいいぞ」


 それを聞いて僕はまたも胃が重くなったように感じた。来週には見合いの相手が来るというのに僕は彼女のことに気を取られている。しかも他の人にもそれは分かるらしい。それは双方にとって失礼である。それなのに僕にはどうしていいか分からない。




 次の日、僕は彼女といつも二人の集まるところに手紙を挟んだ。事業が忙しくなったからもう来ることが出来ないと。僕はこのメモを昨日の内に書いていてよかったと思った。もし、ここでもたもたしいていたら、彼女が現れあの笑顔を見るとそんなこと言えなくなってしまうから。僕はそろそろ現実に戻らなければいけない。確かに過去はあった。しかし、今見据えなければいけないのは未来だ。




 僕はルパードから受け取った真新しいシャツに腕を通す。ロンドンでここ最近の流行だそうだ。


「こんなもんか?」

「おう。これ以上色男にはならないね」


 ルパードは背中を叩き、僕はその後に続く。庭には既に大きな音を立てて豪華な馬車が何台も到着し、労働者達の大きな感嘆を受けていた。ルパードはさっと歩み寄りドアを開く。


「どうもこれは、ティグニー氏、それからお嬢さん。どうもこの辺鄙なところにいらっしゃいました。歓迎いたします」


 僕は降りてきた二人を見た。最初に降りてきたのは不機嫌そうに辺りを見渡している、確か上の名前はスタンリー、スタンリー・ティグニーであった。何度か商談のため会ったことのある彼は癖のある茶色の髪を持ち、優男と言われる人種であった。男から見ても家柄の良さを感じる上品な顔立ちとは思うが、自分たちと同じ年頃なのにその周りを喰ったような態度はどうもいかすけないと思っていた。


「私はあまり暑いところは好きではないんだ。屋内に行かせてもらうよ」

「ええ、どうぞ。準備させていただきました。飲み物は近くの者に何なりと申しつけてください」


 次に軽く車から降りたのは両手に荷物を抱えたティグニー嬢だ。ルパードが目配せする。僕は近寄って話しかける。


「あの…」

「アン・ティグニーと言います」

「アン様、お荷物をお持ちいたします」

「あら、構わないわ。自分のことは自分でやります。それにどうぞアンと呼んでください。様だなんて堅苦しいわ」


 彼女は長い髪を弾ませ、兄と似た上品な顔に親しみやすい笑顔を浮かべた。すると前を歩く兄が後ろに声をかける。


「アン、口の利き方を考えなさい。そして荷物は任せておきなさい」

「けれども兄様」

「口答えはしないこと。それがおまえがここにくるための父様との条件だっただろう」


 それじゃあ、と彼女は後ろを歩く僕を見た。彼女は全く反省していないようなおどけた茶色の瞳を見せ少しだけ舌を見せた。それから彼女が明るい性格の持ち主だと分かる。僕は彼女に好感を持てた。


「お名前は何とおっしゃるの?」

「クリストファー・ワイズです」

「まあ、ワイズ氏。どうもお見知りおきを」


 僕は二人のために用意した部屋にカバンを置き、廊下に出るとルパードが腕を組み待っていた。


「どうだ、ティグニー嬢は?」

「感じのいい人だし、美人だと思う」

「おまえな、女を口説くときそんな素っ気ない事を言うなよ。それじゃあ、ロマンスって奴もぶち壊しだぞ」

「何だよ。思ったままのことを言っただけだ」

「女はそれだけじゃだめだぞ。お世辞につぐお世辞で警戒をとく。まあ、詩の一つや二つぐらい披露してやればぐっとくるかもしれない」

「おまえの話を参考にするよ」

「何だ、その気のない答えは。おまえ、その綺麗なお顔だけでティグニー嬢を落とせる自身があるのか?」


 僕は首をすくめる。


「まったく、おまえは。けど、あり得そうだから気にくわないな。…気にくわないと言えばあの兄貴だな。前々会ったときからどうも気が合わないと思っていたがそれは思い違いではなかったな。あいつと言ったら不機嫌な顔のままグチグチ言うんだよ。ここは全く時代遅れだとか、私が指揮を執っていたら今よりずっと進んでいただとか」


 僕はバシッとルパードの肩を叩き、肩を組んだ。


「本当のことは本人の実践で確かめてもらおうじゃないか」


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