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廊下にて

キリのいいところで終わらせてるので、今回は短いです。

 二人で暫く無言で歩く。王妃の間から此処まで結構距離があるので定かではないが、先ほど通った道を半分程きただろうか。あまり人とも出会わなかった。


(まあすれ違った人はちらちらと質のよろしくない視線を寄越してくれたからそれはありがたいんだけど……!)


 一歩前を歩くディスファルトの背を見ると、どうしても緊張してしまう。


(いきなり二人っきり……いや、ここに来た時もちょっとだけ二人っきりだった! 大丈夫、婚約者って言ったって形だけ。そう! 形だけなの! うん。落ち着け。落ち着こう、早苗!)


 まだ少し混乱した頭で、何か話しかけてもいいのだろうかと迷っていると、不意にディスファルトが足を止め振り返った。


「すまなかったな」


「何がですか?」


 突然謝罪され、何の事かわからずにいると、何となくばつの悪そうな顔で答えてくれた。


「陛下の事だ」


「ふふふっ。強引な人ですね。真理さんも苦労してそう」


「王妃様はな。随分振り回されていらしたな」


「ディスファルトさんもね?」


 きっと振り回されているのは真理だけではないだろう。そう思い、ディスファルトの顔を覗き込んでみた。


「…ディル」


「はい?」


「少し呼びにくいんだろう?ならディルトでいい」


「! ありがとうございます、ディルさん?」


「さんは要らないだろう」


「じゃあ、ディル」


「ああ」


(いつ気が付いたんだろう?)


 実は早苗は長いカタカナに弱い。なのでディスファルトの名前を呼ぶ時、間違えないように少し緊張しながら呼んでいた。

 呼びにくそうにしたつもりはなかったが、この世界の人は人の機微に敏いのか、思ったよりも自分の顔や態度に出てしまっているのか…もしかするとその地位の高さのせいで人の思いを読み取るのに長けているのか。

 そのうちのどれだとしても、今日初めて会って-双方の意思で無いにしても-婚約者として自分を保護してくれる事になった相手にそこまで気付かれて居たのは、やはり少し気恥ずかしい。


「愛称ですか?」


 気恥ずかしさを誤魔化したくて問いかける。


「家族しか呼ばないが、婚約者ならいいんじゃないか?」


「婚約者、っていいんでしょうか?」


「俺はな。サナエこそ、良かったのか?便宜上とはいえ……」


「それは問題ありません。それはもう悲しくなるくらいに」


「そうなのか?」


 緊張しているせいか、言わなくていい事まで言っている気がしないでもない。解ってはいるけれど口は止まってくれない。


「生まれてこの方恋人なんて居た事無いです」


「そうなのか?お前の世界の男は見る目が無いのか?」


「そんなことないと思いますが……」


 気恥ずかしさを誤魔化す処か、とんでもなく恥ずかしくなってきた。多分顔は赤いんだろう。若干涙目にもなっている気がする。


(あー! 何でこんな流れになったの!?)


 顔が真っ赤になっているのを自覚しながらディスファルトを見上げる。


「っ! ……すまない、行こうか」


 一瞬、戸惑うような顔をし、口元を手で覆うと、ディスファルトは早苗を促し歩きだす。

 余りの恥ずかしさから、彼女は彼のそんな表情の変化には気がつかなかった。


「あの、王様って、そんなにしょっちゅうドア蹴破ってるんですか?」


 咄嗟に先ほどの衝撃的な光景を思い出し、話題を変えたい一心で質問を投げかける。


「……王妃様が関わると自制が利かなくなる事が多いんだ。」


「自制……」


「ああ。あれでも自制していた方だ」


(うそ!? 自制してたの!?)


 何しろ、早苗の人生で必要もないのに扉を蹴破って登場したのは彼だけだ。あれで自制していたとは驚きだ。

「今日は随分我慢していたからな。ああなったんだろう」


「我慢もしてたんですか!?」


(意外だ。物凄くやりたい放題に見えたけど……って! あれで自制してるだの我慢してただの言われるって……普段はどんだけ自由なのよ!?)


「俺の報告を聞いてすぐ駆け付けようとしていたからな。政務が溜まってたから押さえつけたが」


「あー、やっぱり結構警戒されてました?」


(そりゃまあ、自分の奥さんに得体の知れない人間が近付いたら心配するよなぁ)


「サナエではなく黒外套の方をな」


「ああ。あの変態」


 答える声が若干やさぐれた感じになるのは仕方ないだろう。


「王妃様も奴にこちらへ送られたと言っていたからな。陛下からすれば、気まぐれに元の世界へ還されでもしたらと気が気じゃないのだろう」


「まあ、やってる事は人攫いですからね」


「確かに、お前たちから見ればそうなんだろうな」


 まるで自嘲するような表情をしたディスファルトに、何か言わなければならない気がして口を開く。


「……真理さんが言ってました。世界に呼ばれる人は、その世界でやるべき事があるからだって。少なくともそれが済むまでは還れないって。真理さんのやるべき事は、もう終わってるんですか?」


「どうなんだろうな。どこまでが王妃様のやるべき事なのか……俺には判断できない。だが、少なくともこの国は王妃様が必要だ。それに何より、陛下……レジアスがマリ様を必要としている」


「そうですか。うん、そうですよね。真理さんも心残りはあるけど還りたいって程でもないって言ってましたし」


「なっ!? そうなのか!?」


 何故か物凄く驚かれた。


(あれ? 真理さん、もしかして還りたがってると思われてる??)

寧ろカタカナに弱いのは作者です。4文字以上のカタカナは8割方読み間違えます。

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