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フェリオール伯爵領2

 ウッドレイ・フェリオールが誰に似ているのか思い出せないまま、彼も合流して街を歩く。休暇で実家に戻っていたそうだが、丁度早苗の訪問と重なったので案内に追いかけてきてくれたそうだ。

 昨日会わなかったのは、今日王都から戻って来る予定の妹の馬車にトラブルが発生してしまい迎えに出ていたそうで、早苗達と入れ違いになるような形で館に戻ってきたからだ。


「妹さんは大丈夫でしたか?」


「はい。大したことはありませんでしたので」


 そう答えるウッドレイの顔はやはり真面目そうだった。


(無表情でもないし恐そうって事もないんだけど……何か真面目そうに見えるんだよね)


 だからこそ他国からの賓客や登城した貴族の警護が第一任務の第二近衛師団所属なのかもしれない。


「あ、すみません。あそこのお店覗いてみてもいいですか?」


「はい。勿論です」


 騎士二人にはその場に残って貰い、早苗はルッティアと共に少し離れたところにある青果を扱っている店を覗いてみる。基本的に食品を扱う店は店頭に品物を並べており、屋台も多い。店内に入らなくても買い物ができる様になっている。そして雑貨屋等は店内に入らなければならない。

 日本でも商店街などで見られる光景なので、早苗もどこか安心してしまうのだ。


「あ、これって果物ですか?」


「あらあら、あんた旅行者かい?」


 店の奥からふくよかないかにも“おかみさん”と言った風貌の女性が出てきた。今の早苗は多少裕福な商家の娘に見えるような身なりをしている。お忍びと言う訳ではないが、できるだけありのままの街を見たかったのだ。

 シスとウッドレイが一緒にいるので嫌でも目立ってしまうのだが。


「ええ。そんなとこです」


「そうかい、じゃあ見たことない物も多いだろう?」


 そう言って女性は相好を崩す。


「はい。お薦めの物があればいただきたいいんですけど。あ、食べ方も教えていただけると嬉しいです」


「勿論だよ、お嬢さん! お嬢さんの好みはどんな感じだい?」


 快く引き受けてくれた上にこちらの好みまで確認されたのは予想外で、早苗は少し考えてから答える。


「そうですね……甘すぎるものは少し苦手かもしれません。甘味に少し酸味が混ざっている物が一番好きかもしれません」


「そうかい。それならこのラーシャの実をそのまま食べるのがいいよ。火を通したら酸味が飛んで甘味が強くなるからね」


 そう言いながらマンゴーを太らせた様な果実を渡された。


「ありがとうございます。じゃあこれを四つ頂きます」


「ありがとね、40アーリだよ」


 そう言われるとルッティアがすっと前に出て支払いをする。ディスファルトから幾らか渡されていたので自分で買い物をしてみるつもりだったのだが。


(これもルッティにとっては仕事になるのかもしれないし、仕方ないか)


「あ、そうだ。領収書いただけますか?」


 そう聞いてみると、女性は少し考えるような顔をしてから、ぱっと閃いたような表情になり頷いた。


「すぐに用意するね。商人位しか欲しがらないから一瞬わかんなかったわぁ」


 そう笑いながら女性が紙に何やら書き込んでいく。


「保護者の厚意で旅行してるので、一応帰ったら渡しておこうと思いまして」


 保護者とは若干違う気もするが他に丁度いい言葉が思い付かないのでそう言っておく。実際早苗を保護してくれている人達なので特に問題もないだろう。


「真面目なお嬢さんだねぇ」


 真面目と言うより経費は領収書が無いと落とせない習慣が染み付いているだけなのだが、今ここで説明する必要もないので曖昧に笑いながら受け流しておく。


「はい。出来たよ。お待ちどうさま」


 笑顔で領収書を渡してくれた女性に再度お礼を言い店を後にする。

 そのまま待ってくれていたシス達と合流し、皆に買った来た果実を渡す。皆最初は渡されると思っていなかったらしく、吃驚した顔をしていたが、シスとルッティアはすぐに笑いながら受け取ってくれた。


(いやいや、流石に自分だけ食べるとか気が引けるしちょっと恥ずかしいから)


 そのまま食べられるならばと、広場になっている場所にテーブルと椅子が置かれているので休憩がてらそこで食べることにした。


 ラーシャの実は店で聞いた通り甘味のなかに程よく酸味が感じられ、歩いた後の休憩には丁度良かった。そのままウッドレイに街の説明をしてもらい次の目的地を決め、四人であちこち見て回った。

 最初も感じたが実際あちこち見て回ると、王都とは随分と雰囲気が違う。そんなことを考えながら辺りを眺めていたらウッドレイに声をかけられた。


「どうかしましたか?」


「いえ、王都とは結構雰囲気が違うなって思いまして」


「そうでしょうね。離れていますし。それでも昔はもっと活気があったんですが」


「そうなんですか?」


 やはりこの世界でも若者の地方離れが起こっているのだろうか。ここに来るまでに通った領地ではそこまで感じなかったが、不毛の地がまだ残っていたりカデスとの国境に面しているせいで、若い人が王都や近隣の領へ出ていってしまっているのではないだろうか。


(日本でも若者の地方離れが深刻ってよく聞くし)


 地元を出ている早苗が言えたことではないのかもしれないが、いつかは地元に帰りたいと思っているのだ。

 きっと自分と同じようにそう思いながら故郷を離れて進学したり就職したりした人も多いのだろう。様々な事情からそういった事がこの地でも起こっているのではないだろうか。


「どうかされましたか?」


「え?」


 自分の思考にのめり込んでしまっていたようで、三人から凝視されていた。


(しまった。またやっちゃった)


「何でもないんです、ごめんなさい」


「いえ、何事もないならいいんです。この辺りは一通り見て回りましたし、他に行きたいところがなければ館へ戻りますが」


「そうですね……時間は大丈夫ですか?」


「明日の早朝発たれると伺っておりますので、父と妹は夕食を共にと言っておりましたので、それまでに戻れば」


 そういわれて少し考える。レジアスに民の暮らしを自分の目で見てこいとは言われたが、それはあくまでも王宮から出たことがなかった早苗がこの国を知るために言ったことであって、視察しているわけではない。


(立場上まだこの国の人間じゃないし、一応結婚してルファ国に来るのでよろしくって挨拶しに来たんだし夕食以外は出掛けっぱなしなのも変かな)


「じゃあ神殿と月霊殿は遠いですか?」


「そうですね、街外れにあるので馬車を使えばそうでもありません」


「街外れなんですか?」


「ええ。カデスとの戦争の後に街の中心部にあった神殿が敷地の都合で街外れにあった月霊殿の隣に移ったんです。焼け出された人々が移って来られるようにと建物を提供して」


「そうだったんですか……それなら以前の神殿があった場所も一緒に見ておきたいです」


「それではサナエ様、神殿跡地をご覧になられた後伯爵家の執事様に教えて頂いたお店で昼食をとって、それから神殿に向かわれてはどうでしょうか?」


「そうですね。俺はそれでいいと思いますよ」


 ルッティアとシスがそう言い、ウッドレイも異論はないようだったのでその予定で行動する事になった。


 日が暮れる前に領主館へ戻り、領主である伯爵夫妻と面会する時間もとることができた。

 そして夕食前にウッドレイの妹が紹介されたのだが、彼女がウッドレイが誰かに似ていると思った“誰か”だったのだ。


「はじめまして、サナエ様。わたくしフェリオール伯爵令嬢、ミリレイン・フェリオールと申します」


(いつぞや廊下ですれ違った金髪巨乳美人!)


 以前一度すれ違っただけだが、そのとき着ていた胸を強調するドレスと何故か睨まれてしまったことで印象に残っていたようだ。

 疑問も解消され、スッキリした気分でその後の晩餐を共にすることができたのだった。

ざっと見たら誤字脱字がいつもより多かったので、まだあるかも知れません。近日中に見直します。

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