結果・その後
お待たせいたしました。いつもありがとうございます。サブタイトルは全く思いつかなかったので…後で変えるかもしれません。
「ま、折角だ。ゆっくり街を見て回ってこい」
早苗が決意を新たにしていたら、レジアスが何処か揶揄するような笑みを浮かべ早苗とディスファルトを見ていた。
「あ、はい」
「明日から三日間は公爵邸で過ごせばいい。こちらへ来てから殆ど休みなく過ごしてきたんだ。ちょっとした休暇のつもりで行って来い」
「休暇ですか?」
「あまり気負わずにありのままを見て来ればいい」
そう言って先ほどとは違い優しさの滲んだ笑顔を浮かべていた。その顔をみて、彼が心から国と国民を愛し誇りに思っている事が窺い知れた。そのレジアスを皆が微笑みを浮かべながら見つめている。ここに居る者は皆レジアスと同じ想いなのだろう。
(きっと、いい国なんだ)
とても自然にそう思えた。それと同時に街に行くのが俄然楽しみになってきた。
「明日から三日間はうちに滞在するといいわ」
リリナが早苗にそう言ってくれた。その言葉を聞いて早苗は今まで少し気になっていたが忙しさでつい聞きそびれていた事を思い出した。
「あ、あの! 私、一応ディルの婚約者としてこの国に来た事になってますけど……ずっと王城に居て大丈夫なんでしょうか?」
ディスファルトは城下に邸がある。公爵邸となっているが、公爵夫妻が普段領地で暮らしておりディスファルトは宰相として王都に居るのだ。彼と二人きりや、邸に家人が居ないのならばまだしも、今は公爵夫妻が邸に居るのだ。本来ならこの王城ではなく彼の邸に滞在するものではないだろうか。そう思っていたのだ。
「不便だな」
「え……」
レジアスが大層シンプルに答えてくれた。リリナもレジアスの言い分を肯定するように続ける。
「誰かに何か言われても気にする必要は無いわよ。わたくしたちがなかなか結婚しようとしない息子をその気にさせる為に、なるべく傍にいられるようサナエをこちらに置いておくように頼んだ事にすればいいんだから」
「え、でも……」
「現宰相で次期公爵がいい年して独り身でふらふらしてるのもねぇ……」
リリナのその言葉に少しは思う所があるのか、ディスファルトは視線を明後日の方に逸らす。彼にしては随分分かり易いリアクションだ。
「まあいいじゃないか。一応は考えているようだし?」
「あら、ディル一人が良くてもねぇ……」
ファイナスがフォローしてみるが、リリナは何かしら含んだようにディスファルトを見やる。ディスファルトも素知らぬ顔で視線を逸らしたままだ。
「相変わらずだな。サナエ、気にするな。叔母上が言う事も一理ある。当面はそれで通せばいい」
「……良いんですか?それで……」
周りは完全にそれで行く様な雰囲気になってしまったので、ディスファルトの顔を覗き込むように尋ねてみる。
「まあ、構わない。俺より先に結婚する訳にはいかないと弟たちも言っているから……公爵夫人ならやりそうだと思われるだけだろうしな。」
そう言いながら仕方なさそうに肩を竦める。その姿を見て早苗は思う。リリナは恐らく、周りにそう思わせるように普段からふるまっているのではないだろうか、と。勿論元来の性格もあるのだろうが、何処か誇張して振舞っている気がしてならないのだ。
彼女は元々隣国の姫だ。話を聞く限りでは、国の為に生きる事を徹底的に教え込まれている。そんな彼女が見方によっては傍若無人とも取られかねない行動に出る事がある――恐らくは何か不測の事態が起きた時に自分が泥を被る覚悟をしているからなのではないだろうか。家族を、そして国王である甥の万一を考えた上で多少強引に見えるように行動しているのではないのだろうか。と言っても早苗の想像でしかないのだが。
「弟さん、幾つなんですか?」
「27と23だ。上の弟は騎士団に所属しているが……下の弟は医師として領地に居るんだ」
「お医者さんなんですか!?」
早苗からすれば、かなり意外な職業だった。貴族の三男と言うと騎士団や官吏として王宮務めをしているイメージだったからだ。彼らの家の場合長男が宰相として王都に定住しているので、弟のうちのどちらかが領地で両親のサポートをしている可能性もあったのだが。
「まだ師の元に居るんだがな。医師になると言いだした時はどうなる事かと思ったが……意外と向いていた様で、遅くとも来年には独立する予定だと聞いている」
「そうなんですか!」
「ああ。貴族令息としては異色だが……自分で決めた道だからな。出来る限り応援してやろうと思っている」
「偉いんですね。ちゃんと自分の道を進んでる…」
「サナエもだろう?」
そう言って今度はディスファルトが早苗の顔を覗く。
「……頑張ります。私もなんですけど、うちも弟がいるので……ちゃんと自分の道、見つけられるといいんですけどね」
脳裏に昨夜見た陽介の姿が浮かぶ。最後に電話した時、“社長になってがっぽり儲けるからそん時は姉ちゃんよろしく!”とあまり現実的とは言えない将来の夢を語っていたが。そしてそんな時しか自分を姉と呼ばない事にも少々不満を覚えた事を思い出す。
「弟か……やはり会いたいか?」
「はい、そうですね。あ、でも昨夜夢に出てきたんですよ」
「夢に?」
「はい。何だか全然変りなくって……でも私が行方不明になって探してるって言ってました。夢なのに何だか妙にリアルで面白かったです」
早苗が笑顔でそう言うと、ディスファルトもつられた様に笑みを見せる。
(ああ、ディルって本当はこんなに表情豊かな人なんだ……)
こちらに来てから慌ただしい日々を送っていたので気付かなかっただけなのかもしれないが。
そんな二人のやり取りを、ある者たちは微笑ましく、ある者は何かを思案するように、そして残りの者は表情を失ったように見つめていた――
最後はどれが誰の反応かはすぐ分かりそうですが…