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夢の裏側・弟と母

いつもありがとうございます。

今回弟視点なので関西弁です。水神は関西人なのですが、地域によって結構違うのでこうだ!と言いきれない部分が多々ありまして…多少の違和感は大目に見て頂けるとありがたいです。

 叫ぶように呼んだ声は届いたのだろうか-


 その夜、真木陽介≪まきようすけ≫は夢をみた。二か月前に唐突に姿を消してしまった姉・早苗の夢を。

 二か月前のあの日も、いつもと変わらない一日だった。夜に早苗の職場から姉が出勤していないと連絡が来るまでは。

 早苗はとても真面目な人間だったからだろう。“彼女が無断欠勤するなんて何かあったに違いない。もしかしたら高熱でも出して連絡できないのかもしれない”そう言って、わざわざ終業後姉のアパートを同僚が訪ねてくれたそうだ。だが、いくらインターホンを鳴らしても返事もなく、携帯も繋がらない。それを知った所長が実家で何かあったのかと連絡してきてくれたのだ。

 勤め出して半年程して分かった事だが、早苗の勤める事務所の所長は生前の父と交流があったそうで何かと早苗を気にかけてくれていた。そのお陰で姉が居なくなった事にすぐ気付く事が出来た。

 次の日、朝一の新幹線に飛び乗り母と二人姉のアパートへ駆けつけたのだが荒らされた形跡もなく、ただ姉が居なかった。


 警察に届けても事件性がないと言って捜索はしてくれなかった。

 病院に問い合わせても早苗が運び込まれた形跡はなかった。


(でもどう考えてもおかしいやろ!!)


 何もできない自分に陽介はベッドに横たわったまま、額を抑えていた拳を強く握りしめる。部屋は荒らされた形跡もないが通帳や印鑑、保険証それに衣類、化粧品等も持ち出された形跡も無かったのだ。自分の意思で姿を消す人間が、何の支度もしないで実行するだろうか。

 それに何より、あれだけ夢に執着していた早苗が途中で放り出すような事はしない。家族をあれだけ大切にしていた姉が、自分たちに何も言わずに姿を消す筈なんてないのだ。絶対に。



「陽介~? 起きてる~?」


 階下から母の声が聞こえる。今日も大学へ行かなければならない。本音を言えば早苗を探しに行きたい。素人が探して見つかるものでもないのだろうが、何事もなかった様に日常を過ごす事が苦しい。


(でも、そんな事は早苗が望まん)


 そう思い、起き上り着替える為にベッドから降りる。そこへ母の声が再び聞こえてきた。今度は随分と近い。


「よーちゃーん? 寝てるのー?」


 言い終わると同時に部屋のドアが開けられる。


「母さん、俺着替えるとこなんやけど? 年頃の息子の部屋、ノックせんまま開けんなって」


「あら、ごめんなー。ご飯出来てるから着替えたらおいで」


 そう言って部屋を出て行こうとする母親を思わず呼びとめる。


「母さん」


「なに?」


 振り向く母はいつも通りで-


「夢、見た。早苗の」


「そうなん?」


「でも、夢やない……気いするんや」


 そう言うと母は少し不思議そうな顔をする。


「夢やけど。何かやけにリアルやった。あれは早苗や。俺が早苗見間違えたりするはずないんや……」


「陽ちゃんシスコンやもんねぇ」


 期待していた返事とかけ離れた言葉が返ってきて、思わず肩を落とす。


「何でそうなる……」


「だっていっつも早苗に近付く男の子威嚇してたやないの」


 そう言われてそう言えばそのせいもあって、早苗が男に免疫がなかった事を思い出す。

 早苗は昔からモテる。誰もが認める美人と言う訳ではないが、割と整った顔立ち、人見知りのせいで人と話す時に少しはにかんだような表情になる事も多い。そのせいか男たちは“頑張れば何とかなるかもしれない”と言う気持ちになりやすい。挙句人もいいので頼まれると余程無茶な事以外は断らない。

 元々酷い人見知りで、生まれ育った宝塚から母の郷里である京都へ引っ越してきた時も、なかなか新しい学校に馴染めずにいた。そんな早苗を心配して構い続けた二人だけが、早苗の親友の位置にいる。その二人のお陰もあって、徐々に人見知りではあっても何とかやっていける程になったのだ。だがそれが要らない虫を寄せ付ける事になってしまったのだった。

 それからはそいつらを追い払い続けた。幼馴染の二人と一緒に。あの二人は庇護欲から、陽介は色々な事を犠牲にして自分の面倒を見てくれた姉が変な男に引っかからないようしていたのだったが。

 そのせいで姉は自分が異性にどう見られるか全く気付かずにこれまで来てしまった。


「こんなんやったらちゃんと男のあしらい方教えとくんやった……」


 溜息と共にそう呟く。そうすると母は教室に通ってくる生徒たちに年齢不詳と言われる顔をにやつかせた。


「なんや気色悪い」


「いややわ。陽介、夢と違うん?」


「夢やない。早苗や。なんやよう分からんのに異世界へ連れてかれたって言いやった。元気でやっとるって……」


 簡単に信じるには余りにも馬鹿げている。ただの夢に過ぎない-そう理性は訴えかける。だが陽介の本能はあれは間違いなく姉であると言っているのだ。


「そう、元気でやってんの。良かった」


「母さん……何でそんな……」


「母さんは早苗を信じてる。勿論陽介もやけど。早苗は真面目でちゃんと大事な事分かってる。その早苗が事故や事件に巻き込まれた訳じゃないんやったら……ちゃんとやってます」


「母さん?」


「早苗は、ちゃんと生きて元気でやってる。異世界にいてるんやったらそれでもええわ。ちゃんと生きてるんやったら……」


 もしかすると母は、そう自分に言い聞かせてこの二ヶ月を過ごしてきたのではないだろうかと陽介は思った。父を失くして必死で自分たちを育ててきたのだ。娘まで行方不明になってどれだけ不安だったのだろう。流石に異世界なんて考えはなかっただろうが、“神隠し”と言われてもおかしくない状況にいつかひょっこり戻ってくると信じて。


「……元気でやっとるって。周りに、凄い親切にしてもらとるって言うてたわ。何か婚約者出来たらしいで?」


「えー、おかーさん紹介して貰ってないー」


 そう言いながら泣き笑いのような顔をする母を見て、陽介は例えそれが夢だったとしても今は信じてみてもいいんじゃないかと思う。勿論出来る限りで探す事を止めたりはしない。何一つ分からないうちだけは、夢に出てきた姉を信じていよう。母の為にも。


「まあ、早苗はお母さんの娘やし。きっとお父さんみたいなええ男捕まえるわ」


「そーかい」


「そうや。陽介は見た目だけはお父さんそっくりやのになぁ……」


「悪かったな。性格は母さんそっくりや。着替えるから出といて」


「はいはい。はよおいで」


 そう言って部屋を出ていく母を見ながら-


(ほんまに異世界におるんやったら……もっかい会いに来いよ。夢でいいから)


 祈るようにそう思った。

母さんの口調が定まらない…

トリップしちゃった人も大変だけど、家族や周りも大変だと思います。母は娘を信じる事で何とか保ってる。現実逃避でもそうしないと崩れてしまいそうだから。

と言うイメージです。

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