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提案

いつもありがとうございます。お気に入り登録の件数が最初の予想の遙か上でちょっと本気で謝りたくなってしまっておりますが、これからも頑張りますので許して下さい。


今回も思ったより長いのはどうしてだろう…

コノ人ハ今何ト言ッタ?


「な、にを……」


「会計士として俺の下で働かないか、と言ったんだが?」


「私はまだその資格を持っていません」


「それはお前の国での話だろう?」


「そうですけどっ、でも私はまだ見習いの状態なんです。そう簡単にはいとは言えません」


 レジアスの目を真っ直ぐに見ながらそう返すと、また人の悪そうな笑みが浮かべられる。


「子供のころからの夢だったんだろ? いいじゃないか、頷いとけば叶うぞ?そりゃ国は違うがな」


 その言葉に、切れた。


「叶う? 何が叶うって言うんですか!? 私は確かに公認会計士になりたいですよ! 子供の頃からの夢ですよ! でも、そんなに簡単になれるものじゃないんです!こ こで都合がいいからってはいって言っちゃったら父や先輩方に顔向けできなくなりますよ!! それに私の人生全否定です!!」


「そんなことないだろ?」


「ありますよ! 最初は亡くなった父の背中を追ってただけでした。会計士の仕事がどんなものかなんて良く解りもしないで……ただ父との繋がりが欲しくて縋ってたようなものです。ずっと勉強ばっかりで他の事は後回しで……高校も大学も母の事を考えるとあんまり負担かけられないからバイトと勉強ばっかりで…周りからは勉強以外にも目を向けろって言われても……でも他の事してたら怖くて……それでも、勉強していくうちに凄く楽しくなって……事務所に入って、本当の意味で仕事が好きだって思って、公認会計士になりたいって改めて思って……今まで、自分がしてきた事、は無駄っ、なんか、じゃ、なかっ、たって、思ってっ……」


 堪え切れずに嗚咽が漏れる。

 言っている事が支離滅裂なのは早苗自身も分かっていた。

 でも心がぐちゃぐちゃになって考えてから話す事も出来ずに、頭に浮かんでくる儘に言葉が口から出てくる。


(解ってる、これは私の心の問題、だって……でも……このまま頷くのは、違う)


 ふわり、と優しい腕に包まれた。


「陛下」


 ディスファルトの声が耳元から聞こえてきた。


(ダメだ、泣いてる場合じゃない……! まだ、ちゃんと言えてない)


「申、し訳ありませ……」


「大丈夫か?」


 ディスファルトが気遣わしげに早苗の瞳を覗き込んでくる。


「はい。ごめんなさい。私の都合でしかないのに取り乱してしまって……」


「いや、今まで張りつめていたんだろう?」


「そんな、事は……」


「あるわよ」


 真理が少し拗ねたような口調で割って入ってきた。


「真理さん?」


「早苗さん、ここへ来てから一度も取り乱したりしてないでしょう? 最初の日に少し泣いただけで。それじゃ心に色々溜まっちゃうわよ」


「そんな事……皆さん本当に良くしてくれますし……」


「それとこれとは別!私なんて泣いて喚いて大暴れしたんだもの」


「……大暴れ……?」


 その時、レジアス、ディスファルト、シス、マーロウが苦い物を飲み込んだような顔になり、エルミアは今まで見た中で一番いい笑顔をした。


(深く追及しないでおこう)


 真理と大暴れなんて結びつかない気がして気にはなるが、彼らの表情から余り聞かない方がいいと判断して、早苗はレジアスに視線を戻す。


「陛下のご提案はとても嬉しく思います。でも合格を貰ったと言っても私はまだこの国でシルヴァ姓を名乗って生活していく最低限の知識しかありません。そんな状態の私が簡単に出来るような仕事だとはとても思えないんです」


 そう告げるとレジアスは悪戯に成功した子供の様な笑顔を見せた。


「そうか、よし、合格だ!」


「……え?」


「サナエがあっさり頷いたら失格だったんだ」


 レジアスの言葉にぽかんとしていると、ディスファルトがそう言った。


「もしお前が頷いたら、お前はそのままディスファルトと結婚して公爵家に入って貰うつもりだった。俺としてはどちらに転んでも益はあるからな」


「結婚って……」


 早苗は唖然としたが、レジアスは事も無げにに続ける。


「お前の言う通りだ。お前が今合格しているのはこの国で生きる最低限のレベルの常識だ。それで国の命脈の一つである財務に関わらせる事は国王として認める事は出来ない。だから試した」


「何を、ですか?」


「お前の仕事に対する姿勢と判断力だ」


「姿勢と判断力……? いっぱいっぱいになって泣き叫んでしまっただけの気がするんですが…」


「それだけ真剣に仕事して目標に向かってきたんだろ? ここにいる全員がサナエは一度断るだろうと踏んでいたからな。ま、キレたのは予想外だったが……丁度良かったんじゃないか?」


「そうなんですか……」


(私は一体どんな目で見られてるんだろう……)


 早苗は少しだけ頭を抱えたくなってしまった。


「で?」


「はい?」


「お前はこの国に来て、夢を諦めるのか?」


「…………無理です」


「無理?」


 ここに来てから毎日が必死だった。夢や希望を考えるより先に、生きるために知らなくてはならない事が山のようにあった。でも、それでも-


「諦めるなんて無理です」


 真っ直ぐに、レジアスの瞳を見て言う。決して揺らぐ事がないと示すように。


「……そうか。なら、叶えろ」


「え?」


「この国には会計士と言う職は存在しない。正直な話、財務部の人間も未熟者の集まりに近い。聞いているかもしれないが、俺が即位してすぐに行った改革で多くの官吏を失った。財務部はその最たる場所だ。今すぐにでも使える人間が欲しいのが本音だ。だがな、お前の実力も分からないうちから任せられる所でもない」


「もちろんです」


「一年だ。一年間俺の出す課題を全てクリアしろ。そうすればお前をこの国最初の公認会計士として認める」


「!」


 一年。もしかすると、レジアスからすれば一年は長いのかもしれない。でも、なるべく早苗の状況に合わせようとしてくれているのではないか。それに気付いてしまえば断る理由なんてない。


「勿論、何も無い場所から作り上げていく事になる。サナエの国とは違うものになって行くと思う。次に繋げる人材を育てていくこともしなければならない。お前の夢とは形が変わってしまうかもしれない。……それでもやってくれるか?」


「やります。必ず全ての課題をクリアして見せます」


「そうか。なら決まりだな。公爵」


 レジアスがそう言うと、ファイナスが早苗に書類の束を渡した。


「公爵家の去年の帳簿の写しだ。それに不備がないか確認しろ。期限は二週間」


「いいんですか?」


 先ず公爵夫妻に確認する。


「大丈夫よ! いざとなればディスファルトと結婚しちゃえば身内だもの!」


 ファイナスは頷き、リリナがにこやかにそう答える。

 本人たちの意思を完全に無視して、周りがディスファルトと早苗の結婚にやたらと乗り気なのもどうかと思うが、この際脇へ置いておく。


「え、と……ではお預かりさせて頂きます」


「二週間後、楽しみにしているからな」


「早苗さん、頑張ってね!」


「はい!」


 こうして早苗はもう一度夢に向かうスタートラインに立つ事になった。向かう先が今まで描いていた場所とは違うかもしれない。


(でも、何もしないで諦めるなんて絶対にしたくない)


 まだまだ覚えなくてはいけない事も、知らなければならない事も山のようにある。吹っ切れたからか、はっきりとした目標が見えたからか、今はそれが楽しみで仕方ない。

 期待と高揚感を胸に、早苗は謁見の間を後にしたのだった。

そのうちきっとエルミアが本領発揮してくれるって信じてる!!

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