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怒涛の合間

サブタイトルが浮かばなかったんです

 ディスファルトの両親と対面してから約一月。まるで怒涛の様なとはこう言うことなんだと思い知った。

 リリナによると、彼女の母親の従姉妹との手紙の往復はどんなに急いでも一月はかかるようだ。

 直接の国交が少ないので正規ルートよりも、一度隣国にあるリリナの実家を経由した方が早いそうだ。

 他国を通過するには面倒な手続きが多いらしい。


 これまでの経験から手紙の往復にかかる時間は一月から二月、手紙には急ぎであるとしたためたそうなので、先方の性格からしても一月半後には返事が届くだろうとのことだ。


 その間早苗はあまり大っぴらに出歩かない方が良いだろうとの判断から、ルファ国と近隣諸国の歴史や常識、貴族としてのマナー等を徹底的に学ぶ事になったのだ。

 その間、事情を知っている人意外誰にも会わないと言うのは不可能なので、他国に居たディスファルトの婚約者が公爵夫妻の計らいにより彼の元で嫁ぐ準備をする為に来たと噂を流したそうだ。




「もーダメ! 頭がパンクするぅ」


「お疲れ様です、サナエ」


 唸りながら机に突っ伏した早苗にそう労いをかけたのは王城に隣接する中央神殿の神官長、オルスト・ルーブレイク。一月前に早苗とディスファルトが公爵邸から戻った時に、城の中庭で子供と遊んでいた-若干遊ばれていた気がしなくもなかったが-オルストが彼らに気付いて声をかけてきた。


 金髪蒼眼の長身、顔の造形も整っている。レジアス程ではないにしてもかなりの美形の部類に入る。性格は穏やかで優しく、子供にも好かれる。世のお嬢様方の憧れの対象となっているが、実はかなりの天然ボケでそんな事には一切気付いておらず、子供に振り回され妙齢の女性を振り回している。


 ルファ国のあるアーシェリア大陸で広く信仰されている聖教は神職者の婚姻を認めているが、一応神殿務めは修行の意味もあるらしく婚姻が可能なのは神官長以上の立場の者となっているそうだ。

 神殿の役職は下から見習い、神官、神官長、司祭、司祭長、神殿長となるそうだ。神殿長は国中の神殿の管理維持、司祭長は中央神殿が取り図る祭礼を管轄していると言う事だ。


 早苗がよく解らないと言う顔をしていると、オルストは“神殿長は毎日書類の山に埋もれていて、司祭長はとりあえずお祈りしてる人だと思って下さい”と言っていた。

 その言い方だと若干司祭長に対して棘が感じられるが、オルストに他意はない。

 そんな彼だが、歴史と宗教に関してはとても造形が深く、早苗と年が同じと言う事もありレジアスの“話しやすいだろう”の一言で彼女の家庭教師をする事になったのだった。



「今日は午後からはダンスレッスンですか?」


「そうです……マーロウさん厳しいんですよ……」


「でしょうね、女官長様ですからね」


「言いたい事もどうすればいいかも頭では解るんですよ? でももうこの年になると体が付いてこないんですよ!!」


「ええ!? 僕まだ若いつもりですよ!?」


「うん、世間から見ればそれなりに若いと思うよ……でもね、この年で全くやったことないダンス覚えるのはキツイです。十代の頃みたいにはいかないんですよー。普段からやってるなら別ですけど私基本デスクワークですもん」


「ですくわーく、ですか?」


「あ、デスクワークって言わないんですか? 書類仕事とか机に向かってする仕事です」


「んー、要は運動不足ですか?」


「そうとも言います。次の日筋肉痛になるんですよー」


「でも女官長様はサナエは飲み込みが早いって言ってましたよ?」


「だから、頭では解ってますから。体が付いてこないんですって」


「…難しい問題ですね」


「体が覚えるまでやるしかないんですよね、やっぱり」


「頑張って下さい」


「はい」


 行儀悪く机に頬をくっつけたまま話す早苗とにこにこしているオルストを微笑ましそうに見ながら、ルッティアは二人分のお茶を用意する。


「お茶が入りました」


「あ、ありがとう!」


「ありがとうございます」


 早苗はぱっと机から顔を上げて嬉しそうに笑う。オルストは変わらずにこにことしている。


「サナエ様、あまり根を詰めすぎないでくださいね」


 オルストの授業は分かりやすい。だがルッティアからすれば相当詰め込んで行われているので、早苗が無理をしていないか心配だった。


「大丈夫だよ。多分無理のないスケジュール組んでくれてるし」


「ですが、相当詰め込んでいるのではありませんか?」


「あー、どうだろう? 大学受験の時もひたすら勉強してたから大丈夫じゃないかな?」


「ダイガクジュケンですか?」


「うん、学校だけどね。受験前は今より勉強してたかもね」


「今より!?」


「はい」


驚いたように尋ねるオルストに早苗はあっさり肯定する。ルッティアは唖然としているようだ。


「何だかんだで今はマナーとかダンスはいい息抜きになってるんですよ。それに机に向かうのは嫌いじゃないんで」


「そっかーサナエは物覚えが早いと思ってたけど、元々勉強家だったんだねぇ」


「そうでもないですよ? やりたい事があったから頑張っただけで。興味ない事には頑張れません」


「それでも凄いと思いますよ?」


「本当にそんなに褒められる様な事ないんですよ。皆そんな感じでしたし」


「世界が違うと凄いんだね」


「そうですね」


そう言って三人で笑いあった。

公爵家からまだ連絡は来ない。久々に新しい事を大量に覚えなくてはいけないのは大変だが、何処か気楽に過ごせる時間はあと少しだろう。

公爵家から連絡が来るまでに出来る限りの事はしておかなくてはならない。

リリナの要求が受け入れられれば、ラジェス王国から来たディスファルトの婚約者としてルファ国の事を学びながらレジアスの密命とやらを遂行する事になるらしい。


(てか密命って何? って感じなんだけどね……)





そうしてそれから約二週間後、リリナの元に手紙の返事が届いた。

内容はもちろん是と。必要な手続きはしておくので好きに名前を使ってくれて構わないと何とも太っ腹な事が書かれていた。

それにより早苗はサナエ・マキ・シルヴァと名乗る事になったのだった。

早苗は大丈夫って言ってますが、結構根詰めてます。それに気付いてるディスファルトがちょこちょこマナーだのダンスだのを入れてたりしてます。

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