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公爵夫人の計画

まさかの公爵夫人(と公爵)視点です。

「ええええええええ!?」


 その知らせは何の前触れもなくエルクロード公爵夫人の元へ齎された。

 驚きのあまり館中に響き渡る絶叫を上げたしまったのは仕方ない事だろう。何しろ彼女の息子から、婚約するつもりなので相手に会ってほしいとだけ記された手紙が届いたのだから。




 ディスファルト・エルクロードは先王弟ファイナス・エルクロード公爵と、妻のリリナ・エルクロードの長男にして、ルファ国宰相を務める人物である。

 肩書きだけでも貴族の女性たちからすれば結婚相手に持ってこいの人物で、その上絶世のとまでは言わないがそこそこ整った顔立ちをしており、性格も真面目で面倒見がよく誠実。年頃の貴族令嬢からすればまさに“優良物件”と言える。……のだが。問題は当の本人が全くこれっぽっちも結婚するつもりがないと云うことだろう。


 数ある縁談に見向きもせず夜会での令嬢からの秋波はさらりとかわし-と言うか、貴族の令嬢たちは彼からすれば次期公爵夫人の座を狙うハイエナ等と失礼な事を思っている可能性もあるが-ここ数年は浮いた噂一つなかったのだ。

 もちろんそんな事はお嬢様方からすればその気にさせれば関係ないのだろうが、今まで成功した者は居なかった……筈である。


 そんな息子に結婚を考える女性がいるなどリリナにしてみれば正に寝耳に水、青天の霹靂なのである。

 親として淋しい事ではあるがディスファルトに次期公爵としての自覚もあるようなので、そのうち自分の中で折り合いがつけば釣り合いの取れる家のそこそこ気の合いそうな令嬢と政略結婚でもするだろうと思っていた。だからこそ、まさかディスファルトから今回の様な連絡が来るとは思ってもいなかったのだ。


(詳細が書かれていないと言う事は何か書けない事情があるのかしら……)


 息子が見初め、自分たちから見ても問題がない女性なら身分など特に気にするつもりもないのだが。寧ろよくこの堅物の気持ちを替えてくれたと諸手を挙げて賛成する。

 結婚は政略的なものより愛する人とするべきだ-これは公爵夫妻の共通する価値観だが、全く一般的ではない-と常々思っているので、子供たちにもそう教えて育ててきたのでディスファルトもそこのところは特に心配はしないはずだとは思うのだが。


 ちなみに世間では全く知られていないがリリナとファイナスも恋愛結婚である。


(とにかく、ここで考えても全く何も分からないわね!)


「すぐに王都へ行きます! 支度は最小限でいいわ。ファイナスにもそう伝えてきて」


「畏まりました」


 その言葉で侍女たちが動き出す。


(さあ、わたくしも急がなくっちゃ!)





 そうして慌ただしく夫と共に王都の公爵邸へとやってきたリリナが王宮へと早馬を出すと、本日中に訪問すると早朝だったにも関わらずすぐに返事が来た。

 きっと驚いているだろう。本来なら領地を離れる間の仕事や諸々の雑務をこなしてから来都するものなので、最低でも一週間はかかる筈なのだから。

 今回はタイミングが良かった。たまたま仕事が一段落したところだったので館の雑務は執事に任せ、着の身着のまま最低限の荷物だけを持ち領地を発つ事が出来た。その上、道中休憩も殆ど取らずかなり無理をしたのだ。


「かなりの強行軍になっちゃったわね」


「まあ、あれだけ結婚を拒んでいたディスファルトが婚約したいなんて言ってきたんだ」


 邸に着いて仮眠をとった後、リリナとファイナスは既に整えられた応接室で彼らの到着を待っていた。


「でも詳細も全く書いてなかったって事は訳ありなのかしらね?」


「かもしれないな。ただディルの事だ。先入観を持たずに相手に会ってほしいのかもしれないだろう?」


「そうだと良いんだけど……」


「まあ、心配してもしょうがないよ。相手がどんな人物であれどんな事情があれディルが決めたんだ。それで十分じゃないか」


「そうね。私たちの息子だものね。それにもういい年だしね。わたくしも早く義娘と孫がほしいわ!」


「そうだね。うちの息子たちは揃いも揃って結婚から逃げ回ってるから」


「ディルがさっさと身を固めてくれればいいんです!」


 出逢った頃からいつまでも変わらない妻の少し拗ねた顔がファイナスは愛おしくてならない。

 出逢ってすぐお互いの身分なんて知らないうちから惹かれ合った。彼女の為なら王族としての自分を棄てる事も構わないと思うほどに。それがどれだけ無責任な事かも解ってはいたが、あの頃は本気でそう思っていた。


 リリナが隣国の公家の姫だったので何の問題もなく-どころか大変周りに喜ばれて-上手くいったのだが。


 だがもしあの頃本気でそう思っていた事を知ったらリリナは激怒するに違いない。見た目はのほほんとしているが、芯が通っており、決めた事はそう簡単に曲げない強さがある。そして、公・貴族は国と民を護る為にあれと言うメラリア公国の信念を幼い頃からしっかりと教え込まれているので、ファイナスの考えを知られれば半日程説教されかねない。


(だが、リリナのこの強い信念があったから私も兄上も国を変えるために突き進めたし、レジアスもディルも大きく道を間違える事なくここまで来る事が出来たんだろう)


 そうこうしているうちに、執事が待ち人の到着を告げにきた。


「さあ、どんな方を連れてきたのかしらね!」





 ディスファルトの連れてきた女性は、夫妻の想像以上の人物だった。

 彼女、サナエは王妃と同じこことは違う世界から来て、国王の判断によりディスファルトの婚約者として王宮に留まり、何かをする事になるらしい。


(それにしても……)


 詳細を聞きながらリリナは思う。こちらが考えていた事とは違っていたが、これはどうなのだろう。

 話しながらいつになく優しく慈しむように彼女に視線を向ける息子。


(これはもしかするともしかするのかもしれないわね)


 まだまだ自覚はないだろうが、明らかに息子の態度が他の人に対するものとは違っている。

 勿論、突然右も左もわからない世界に放りだされたサナエへの同情等もあるだろうが、それにしてもだ。


(これは楽しい事になりそうね)


 何より、リリナ自身がサナエを気に入ったのだ。是非息子の嫁に欲しいと思う程には。

 最も綻びが出にくそうなシナリオを瞬時に頭の中に描き出す。


(さあ、ここからはディルに頑張ってもらわないとね!)


 帰り際にディスファルトに発破をかける事も忘れない。


「ディルはサナエを随分気に入っているのね?」


「そう、見えますか?」


「ええ。違う?」


「いえ、違いませんよ」


「あら……?」


「不思議と彼女と居るのはとても居心地がいいんですよ」


「あら、じゃあしっかり捕まえておかないとね」


「捕まえて……ですか?」


「そうよ。婚約って言ってもまだ形だけでしょう? ちゃんと捕まえて本当にお嫁に来てもらいなさい!」


「本当にって……サナエは自分の国に還るんですよ?」


「あら、それはこちらに来て間もないからでしょう? この先この国で生きていけば色々な事があるわ。その上で還るか残るか決まるのでしょう?なら後悔しないようにしなさい」


「母上……」


「さあ、サナエが待っているわよ?近いうちにまた二人でいらっしゃい!」


「……分かりました。ではまた」


 そう言ってディスファルトは馬車に乗り込み、二人は王宮に帰っていった。


「さてと! わたくしも大急ぎで手紙を書かなくちゃいけないわね」


 こうして公爵夫人の“サナエを息子の嫁にする計画”は人知れず幕を開けたのだった。

今後に影響が出そうなので入れておきました。が全く行き当たりばったりで書いてるのでどうなるか…

次はちゃんと進みます。

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