宰相と近衛騎士
内容にあうスッキリとしたサブタイトルってどうやって付ければいいんでしょうか…
王妃の間を出てから暫く無言で歩いた。この時間は余りこの辺りに人は居ないが、全く誰とも会わずに済むわけではない。
すれ違う殆どの者はディスファルトが女性を伴っているのが珍しいのか、サナエの衣服が珍しいからか-恐らく両方だろうが-サナエに好奇の目を向けている。
(着替えさせてからの方が良かったか……?)
特に気にならなかったので服の事などすっかり頭から抜け落ちていたが、サナエの着ている物はこの国で着られている服とは違うものだ。
(ここまで来てしまったのだから仕方ない。なるべく人に会わなければいいんだが……)
そんな事を考えながらまた暫く無言で歩く。サナエも特に話しかけてくることもなく、大人しく付いてくる。
ふと思い立って、サナエの方を振り返ってみた。
「すまなかったな」
「何がですか?」
自分でも何故なのかはわからないが、サナエの顔を見たとたんに口からするりと謝罪の言葉が出ていた。
ディスファルト自身理由はよく解らないのだから、サナエからすればもっとわからないだろう。不思議そうな顔でこちらを見ている。
「陛下の事だ」
取り敢えずレジアスの奇行のせいにしておく。
(いいだろう。普段から面倒な事を押し付けられているんだ。これくらい)
そう言うとサナエは少しだけ楽しそうに笑い、マリだけでなくディスファルトも振り回されているんじゃないかと言いながら、こちらの顔を覗き込んできた。
(少し…無防備過ぎやしないか……?)
その顔が余りにもあどけなく、ディスファルトの心に何かを巻き起こす。
「……ディル」
何となく話を変えたくなって、サナエが彼の名前を呼ぶ時に少しだけ緊張していたのを思い出し、家族だけが呼ぶ愛称を告げる。
愛称で呼ぶといいと言うと、少し照れたようにしていた。
(可愛らしいな……)
サナエはその少し照れた様な顔のまま、自分が婚約者を名乗って良いのかと聞いてきた。
それはこちらの台詞だろうと思い問い返してみたら、意外にも今まで恋人が居た事がないらしい。
マリに聞いた限りでは割と恋愛も職業選択も自由な国だと言っていたような気がするが。
「そうなのか? お前の世界の男は見る目が無いのか?」
「そんなことないと思いますが……」
思わずそう聞いてみればますます顔を赤くしてそう返し、少しだけ潤んだ瞳で見上げてきた。
(!?)
衝撃で思わず言葉に詰まる。思わずサナエを引き寄せてしまいそうだった。
先ほどからのサナエが割と素の状態に近いのだろうか、最初出逢った時や、王妃の間で話した時は落ち着いた雰囲気だったが、今は何となく小動物的な可愛らしさがある。
このままここで会話を続けていれば、そのうちとんでもない方向に進んでしまいそうだ。
そう思い、サナエを促し廊下を進む。
サナエも話題を変えたかったのか、レジアスの事を聞いてきた。
今日は自制も我慢もしていた方なのでそう言うと、心底驚かれた。
(まあそうだろうな)
そのまま話題は黒外套とマリに移っていったが、ここでもまた意外な言葉を聞く事になった。
-マリは元の世界に還りたい訳ではない
(では何故、あの時還ろうとした……?)
もちろん、この一年の間に気が変わったのかもしれない。側室騒動が治まったせいなのかも知れない。
だが、それでは腑に落ちない事も多い。
(レジアスは知っているのだろうか? もちろん知っている……んだろうな……?)
その時だった。
「…………何やってんの?」
「っ!」
「うはぁ!?」
完全に思考に落ちていたせいで、前から人が来ている事に気付けなかった。
サナエも驚いたのか胸元を抑えている。
「シス」
「なになに~? 逢引きぃ? ディスファルトとうとう落ちたの?」
「……そう思うなら何故声をかけるんだ……」
「え? 嘘!? マジで?」
「詳しくは後で話すが、彼女は俺の婚約者のサナエだ」
声をかけてきてシスは心底驚いた顔をしている。まさか否定しないとは思わなかったのだろう。
簡単にサナエを紹介すると妙に浮かれていたので窘めると、二人で何やら話しだした。
-第一近衛騎士団シス・ティルボスティーノ。現在は主に国王の護衛をしているが、一年前までは王妃の護衛だった。そして一年前……マリでさえ思っていなかったであろう元の世界への帰還をマリに示した男-
(そう、たった一人マリの帰還という可能性に気付き、マリに帰還と言う選択肢を与えた……)
ディスファルトとレジアスとシス。三人は幼馴染だ。シスはレジアスがマリの事を本気で想っている事も知っていたのに。
レジアスは騒動の後、シスを自分の護衛にした。二人の間で何かやりとりがあったのかもしれない。
ディスファルトもシスに一度何故あんな事をしたのか尋ねた事がある。
その時シスは“あのままだとマリを本当の意味で護れなくなっただろうから”と。自分はマリの護衛だから護る為に必要だと思う事をしたと少しだけ寂しそうな笑みを浮かべてそう言った。
それを聞いてディスファルトはこの件に関しては追及しない事にした。
必要ならばいずれ知る事になるだろうから。
国の大事ではあったが、レジアスとマリがきちんと向き合い解決しないとならない事だと思ったからだ。
なので騒ぎに気付いた者たちにはレジアスが何かやらかした末の痴話喧嘩と言って押し通した。
そして気付いた。マリがこちらに残るも元の世界に戻るも、黒外套次第だと言う事に。
二人のやり取りを眺めながら思考に耽っていたが、サナエが頭を下げた所で修理に向かうのか聞いてみると、やはりそうだった。
一年前の事とを思うと、レジアスが時折扉を破壊しているのはやはりシスに対するちょっとした復讐なのではないかと思えて仕方ない。
(違うと信じたいんだがな……)
サナエにはマリの帰還騒動については本人に聞いてみるように言い部屋の前で別れ、自室へ入った。
先ほど触れたサナエの艶やかな髪の感触がまだ指先に残っているようで、夕食までに片付けようと思っていた仕事は思うように捗らなかった。
宰相様視点で書きたかったのって、ディスファルトから見たマリとシスとレジアスだったので、一話で終わると思ったら三話もかかってしまいました…
要らないところを削るって難しいです。
次回は視点が変わります(多分)