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中編

さてさて、鬼ヶ島を目指して桃太郎一行は意気揚々と進みます。

すると、行く手に小さな村が見えてきました。


「ちょうどいい、あそこで少し休ませてもらおう」


と桃太郎は村に向かいますが…。


――――――――――


なんと、村は鬼の襲撃を受けひどい有様でした。

民家は焼け落ち、畑は荒らされ、川はせき止められ…。


あたりを見ても人はおろか家畜さえもいません。

きっと鬼が連れ去ったのでしょう。


「なんということだ。鬼どもめ、絶対許さないぞ」


怒りに燃え、鬼退治の決意を新たにする桃太郎でしたが…。

そこに戦禍を免れたキジトラ猫が寄ってきました。


「にゃーにゃー。桃太郎《ももたろ》さん、桃太郎《ももたろ》さん。お腰につけたきび団子、一つ私にくださいな」


「はて、桃太郎に猫なんて出てきたかな?」


そんな疑問を感じながらも、桃太郎はきび団子を一つ猫にあげます。

そして猫は美味しそうにそれを食べると……。


満足したようでまたどこかへ歩いていきました。


「お供するんじゃないんだ…まあ、猫だからしょうがないか」


猫の習性を思い納得した桃太郎は、お供たちとともにまた鬼ヶ島へ向かいました。


――――――――――


そして一行はついに海の真ん中にある鬼ヶ島、その対岸へ向かいます。

鬼ヶ島はもう目の前ですが、それを隔てる海は広く、今度は干上がらせるわけにもいきません。


「私は飛べるので問題ないよ」


と不死鳥《きじ》が言います。


「主人《マスター》。海の上など私にとっては大地と何も変わりませぬ」


と翼の生えた犬が言います。


「カカカッ、俺様の泳ぎを見せる時が来たな」


と六本腕の猿《ゴリラ》がドラミングしながら言います。


桃太郎はさてどうしたものかと悩みますが…辺りに落ちていた桃の実を拾い言いました。


「僕は桃から生まれた桃太郎だから、桃があればなんとかなりそう。じゃあ、行こうか」


――――――――――


ここは鬼ヶ島、見張りの鬼が退屈そうに見張り台に立っている。


『鬼ヶ島へ攻めてくる命知らずなどいるはずがない、それが常識だ』


と考えていた鬼たちにとって、交代制の見張りなどつまらない仕事そのものだった。


次はどうしようか、どの村を踏みつぶしてやろうか。

そう考えあくびをしながら海を眺めていた見張りの鬼だが…。


ふと、海の向こうから向かってくる幾つかの影が目に入った。


「ほう、これは珍しい。命が惜しくない奴は久しぶりだな」


そう笑いながら鬼は双眼鏡を覗きこむが…。


「うっ!な、なんだ!?あの異様な連中は!?」


彼は驚愕する。海を渡る者達を見て。


――鬼ヶ島へ向かい海を征く者達―それは、異常極まりない風景であった。


明るき朱の炎を纏う鳥。それは、翼を大きくはためかせながら空を飛ぶ。


翼が生えた犬。それは、海の上をまるで大地を行くかの如く走る。


六本腕が生えた、猿と呼ぶにはあまりに大きいそれは、海を掻き分けながら轟音を立てて泳ぐ。


そしてそれらの中心にいる青年―。

それは、まるでモーターボートのように轟音を立てた桃に乗っている。


それらはこちらに高速で向かい来る。

そして彼らは皆、一様に目を輝かせていた。


百戦錬磨にて人々を蹂躙してきた鬼は瞬時に察知した。

その眼の光が何を意味するか、どんな感情であるかを瞬時に察知する。


―あれは『殺意』だ、と。


その異様な光景を見張りの鬼は呆然と眺めていたが、ハッと我に返り警戒の鐘を急ぎ鳴らす。


「て、敵襲!敵襲だ!!」


そして彼はすぐさま一行に視界を戻すが…。

なんと、その目の前には巨大な鳥が、視界を覆うように羽ばたいていた。

その翼は燃え盛り、鋭い瞳はこちらをじっと睨んでいる。


「い、いつの間に…」


呆然と呟く見張り鬼に、不死鳥《きじ》は大きく息を吐く。


それは輝きながら超高温の熱線となり、見張りの鬼の悲鳴ごと見張り台を消し飛ばしていった。


――――――――――


「不死鳥《きじ》のやつめ、やりましたな」


「俺様も負けてられねえ!さあ、暴れてやるぞ!!」


先行した不死鳥《きじ》の奇襲により、鬼たちは混乱しているようです。

意気揚々と桃太郎たちも鬼ヶ島に上陸し、さあ鬼退治の始まりだ、とばかりに構えました。


「ヤロオオオオオオぶっ殺してやああアアアァァァ!!」


桃太郎たちを倒しに雄叫びを上げながら、続々と鬼が出てきます。

しかし、下っ端の鬼など今の桃太郎の敵ではありません。


ある者は犬の爪牙で切り裂かれ。

ある者は猿《ゴリラ》の拳で粉々に砕かれ。

そしてまたある者は、桃太郎のアサルトライフルM16の銃弾の前に倒れていきました。


それでも、鬼たちは鬼ヶ島内部から次々と現れ桃太郎たちを休ませません。

まるで島の内部で無限増殖しているかのようです。


「これでは埒が明かんな。主人《マスター》、不死鳥《きじ》が空から陽動するならば、私が地から陽動する。御身はその隙に最深部へ急がれよ」


そう言うと犬は前に立ち大きく遠吠えをして、鬼たちをひきつけます。


桃太郎は犬に感謝して、先を急ぎました。

猿《ゴリラ》も犬を激励し、桃太郎とともに進みます。


「けっ、こんなところで死ぬんじゃねえぞ犬コロ。てめえを殺すのは俺なんだからよ」


「その言葉、そっくりそのまま返してやる。貴様こそ主人《マスター》の足を引っ張るな、愚猿め」


――――――――――


桃太郎と猿《ゴリラ》が内部を進むと、大きな扉が現れました。

ここが鬼の棲家の入り口か、と桃太郎たちは意気込みますが……。


不意に、扉の横に立っていた巨大な二体の像の目が光ります。

それは轟音を立てて動き、桃太郎たちの前に立ちはだかりました。


「我が名は風鬼!何人《なんぴと》たりともこの先へは通さぬ!」


「我が名は雷鬼!我らが二鬼《にき》風雷拳《ふうらいけん》、受けてみよ!」


石像から蘇った二体のそっくりな鬼は、凄まじい威圧感を放ちます。

まったく区別がつかない二体の鬼を見上げ、これは少し苦労しそうだな、と桃太郎は名刀『鬼殺し』に手をかけますが…。

その前に猿《ゴリラ》が躍り出ます。


「桃、ここは俺に任せて先に行け。雑魚掃除にも飽きてきたし、次はこういう奴らと戦いてえんだ俺は」


桃太郎はわかったとばかりに頷き、鞘から抜いた名刀『鬼殺し』を抜きます。

そしてその一閃で扉を切り開くと、走ってその先へ向かいました。


「なんと!?剣の一閃で扉を切り開くとは!」


「凄まじき膂力よ!なれど先へは行かさぬ!」


桃太郎を追おうとする風鬼、雷鬼ですが…。


後ろから猿《ゴリラ》が接近、六本の腕で風鬼と雷鬼を殴ります。

思わぬ拳の威力に怯む両者に、猿《ゴリラ》が六本の腕で指をクイクイと曲げ、挑発します。


「お前らの相手は俺だ。二体一だが腕試しには丁度いい、かかって来いよ」


――――――――――


鬼ヶ島最深部にある巨大な施設、その最奥にある巨大な講堂の中。

その壇上に一人の鬼が立っていた。

鬼なのに高そうなスーツを着ている。


眼下には、優に100人を超えるであろう鬼たち。彼らは腰蓑(こしみの)のみである。

講堂の中は、彼らの熱気で満ちあふれていた。


「我々『鬼』が形而上であったのならば、自然の頂点に立つのは人間であろう。しかし今我々『鬼』は形而下の存在である。なれば自然の頂点は人間ではない、我々なのだ!我々、『鬼』がこの世界を支配する!人間など我々の食物にすぎん!それを思い知らせてやるのだ!」


スーツを着た壇上の鬼―おそらく彼がリーダーなのだろう―が力強くそう宣言する。歓声を上げる鬼たちだが……。


側近の鬼がリーダー鬼に素早く近づき、何事か耳打ちする。


しばらくそれを聞いたリーダー鬼だったが……。

その話が終わると、怒りを露わにして配下であろう眼下の鬼たちに力強く言い放った。


「諸君!今入った情報によると、非力で愚かなる人間どもがまたしても我々の鬼ヶ島に攻め入ったという!」


その言葉に、配下の鬼たちはざわめき始めるが……。

リーダー鬼はカフスボタン輝く右手を上げ、それを制止する。


「恐れるには及ばぬ!攻め入ったのは人間のガキ一匹と、犬と猿、そしてキジだという!これを愚かと言わずに何を愚かと言うか!これを嘲笑《わら》わずして何を嘲笑《わら》おうか!!」


その言葉に、配下の鬼たちのどよめきが止まり…次第に笑い声が漏れ出す。

リーダー鬼も大きく笑い、また意気揚々と言い放った。


「いざ行かん、諸君!まずは人間どもへの見せしめとして愚かなる侵入者を血祭りにし、非力な人間どもに我々の恐怖を今一度刻み込んでやるのだ!!」


その言葉に、配下の鬼たちは『教祖様!教祖様!』と拳を突き上げ、我先にと講堂を出る。

侵入者は俺が食ってやる、いやいや俺が食う、俺がウェルダンに焼いてやるぜ……と意気込みながら。


――その中で、一人歳を取った老人の鬼が考え込んでいる。


人間の男と、犬、猿、キジ…どこかで聞いた話だ、と。


(そうじゃ、あれはわしのばあさまから聞いた話じゃ)


……昔々、あるところに桃から生まれた人間の子がいた。

その子は成長して鬼退治を決意し、犬、猿、キジをお供に連れて鬼ヶ島へ向かい、鬼退治をした、と。


幼い自分には、まさか人間が鬼を倒すなんてありえるわけがない、と笑っていた。

そしてそんな物語を伝える者もいつしかいなくなり……。

若い鬼たちはその物語も知らない者がほとんどとなっていた。


老人の鬼はふと思い出す。その物語――すなわち『桃太郎』のことを。

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