表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】恋は、終わったのです  作者: 楽歩


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/43

39.もう一人の恋も終わる

 sideセオドア




 エマからの手紙を開いた瞬間、胸がざわめいた。



 期待と不安が交互に現れながら、震える指先で紙をなぞる。



『養子の件は残念だけど、実の親の二人は説得できると思う。でも、養子先の伯爵家は、きっと認めてくれない』




 やはりそうだよな。目を閉じて、ため息をつく。


 エマが養子に入ったばかりの伯爵家が、爵位もない自分を許すはずがない。


 家の名誉、格式、未来——どれを取っても、歓迎される要素はなかった。




『だから、文官試験、必ず合格して。あなたならきっと大丈夫。そして、受かったその時には、私を迎えに来てね』



 ああ、私を応援してくれる優しいエマ。




 エマの筆跡が珍しく揺れているのは、不安なのか、それとも悲しさなのか。早く会って抱きしめてあげたい。






 爵位がなくとも、文官として合格すれば、男爵令嬢なら結婚に問題はない。貴族社会の常識からすれば、身分差など誤差のようなもの。……そうだ、エマは男爵家に戻ればいい。



 自分の未来のため、そしてエマとの未来のため、今やるべきことは一つだ。




「必ず合格する」



 固く誓い、机に向かう。




 父上が「最後の情け」だとつけてくれた家庭教師は厳しかったが、教えは的確だった。どれだけ眠くても、どれだけ頭が痛くても、ペンを止めることはなかった。何が何でも合格する——それだけを支えに、夜を徹して勉強に励んだ。





 *****




 一か月後。




 薄い封筒が届いた。



 心臓が一瞬、痛むほどに跳ねる。開けるまでもない。合格者には、手続きのための厚い書類が同封されているはずだ。だが、この封筒は薄すぎる。


 指の震えを抑えながら封を切る。


 紙を引き出し、目にした瞬間、すべてが止まった気がした。




『今回は採用を見送らせて頂くことになりました』






 静かに目を閉じる。駄目だった……。耳鳴りがする。周囲の音が遠のいていく。





 朗らかに笑うエマの顔が浮かんだが、すぐに暗闇へと消えていった。




 エマには悪いが、今の私には、未来が見えない。真っ暗な闇の中で、二人の未来を語る余裕などない。恋に浮かれている場合ではない。


 学生のころとは違うのだ……。




 ーー受かったその時には、私を迎えに来てねーー




 受からなかったのだから、迎えになどいけない。




 重い足を引きずるようにして、父上のもとへ向かう。




「……わずかな可能性に賭けてはいたが、やはりそうなったか」


 父上の言葉は淡々としていたが、その眼差しは、どこか哀れみを含んでいた。





「私が愚かでした」


 声が震える。拳を握りしめる。




「リディアとの間にはなかったエマとの恋に夢中になり……今思えば、恋をしていた自分に酔っていたのかもしれません。本当にエマに恋をしていたかどうかも……」




 ふと、リディアが思い浮かぶ——彼女は今、何を思っているのだろう。


 あの時の彼女は確かに感情を露わにしていた。


 しかし、今はどうだ?



 冷静になり、この先のことを考えているのではないだろうか。




 この時期に、侯爵令嬢である彼女が次の婚約者を見つけるのは難しい。ましてや、次期公爵というプレッシャーをものともせず、その地位に相応しい男など、そう簡単に現れるはずがない。


 彼女は今頃、焦っているのではないか。





「父上、私は、もう一度リディアと話してみようと思います」


 父上が驚いたように目を見開く。




「話せるわけがないだろう! 侯爵家の好意で、我が伯爵家の影響は最小限に抑えられているというのに、今さら何の話だ? 言ってみろ!!」



 

「私の、公爵家への養子の話を——」


 言い終わる前に、父上は大きくため息をついた。





「はぁ……養子? そんなもの、すでに——」



 すでに? ぞわり、と背筋が冷たくなる。



 言葉を飲み込んだ父上が、吐き出すように一気に言った。




「公爵家の養子の手続きはすでに終わっている。もちろん、お前ではない」



「……終わっている?」


 言葉の意味が、すぐには理解できなかった。







「リディア嬢のクラスメイト、レオナード・ボーモントを知っているだろう。今は、レオナード・モンルージュだ」



「なっ……! あの男が? 子爵令息ですよ! そんな者に、公爵の座が務まるわけが——」


「……お前が落ちた文官試験に、一発合格した男だ」




 目の前が真っ白になった。



 欠員、辞退……まさか。




「文武両道、公爵夫妻にも気に入られ——ああ、そうだな。お前が公爵になるより、何倍も国のためになる」


 信じられない。信じたくない。





「……今更だが、こんなことになるくらいなら、もっと早くにリディア嬢と結婚できないと相談してくれれば……他にやり方も、公爵家は無理でもお前が幸せになる道はあったのに」




 父上が深くため息をつく。





「……リディアは、きっと騙されている」


 拳を握りしめる。




「やはり父上! 私は会いに行きます!」




 レオナード——あの男は、最初から狙っていたのだ。


 リディアの友人のふりをしながら、私が破滅するのを待っていたのか。思い返せば心当たりがある。



 リディアが絶望したその隙を突き、甘い言葉を囁き、巧みに公爵家の後継者の座に納まったのか。


 許せない。






「だから、駄目に決まっているだろう! なぜわからんのだ」 



 父上が厳しい声で叱責する。




「お前のこれからの処遇は、私が考える。それまで、大人しく部屋に居ろ!」





 その日から、見張りが増えた。


 だが、ここで終わるつもりはない。


 食事を運んできたメイドに、さりげなく情報を聞き出した。




 ——近日中に夜会が開かれ、そこに、リディアとレオナードが出席するという。




 数週間、従順なふりをして、機を待った。


 そして、夜会の当日——



 静かに部屋を抜け出す。


 月明かりの下、街へと足を向ける。そして、馬車を借り、夜会会場へと向かった。


 全てを、確かめるために。そして、奪われたものを取り戻すために。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
阿呆の親父はまともなのに。こんなんなっちゃって、お父さんも胃がいたい。とっとと遠方に仕事でも見つけて送り出すべきだったのに、見過ごして同じ失敗を繰り返すんだねぇ。まあ、文官試験の結果が出るまでしょうが…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ