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【完結】恋は、終わったのです  作者: 楽歩


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37.現実になるなど sideレオナードの父

 ーー卒業パーティー数日後ー sideレオナードの父





「モンルージュ公爵家に養子……お前はそれでいいんだな……ああ、面倒だ」




 低く呟き、こめかみを指で押さえた。


 息子――レオナードが、モンルージュ公爵家の養子となり、グラント侯爵令嬢と婚約する。そんな話をしてきたのだ。



『リディアが自分を選んでくれた』と、気持ち悪いくらいにニコニコしながら。こっちの気も知らないで……。




 あの卒業パーティーで侯爵からの話が、現実になるなど夢にも思わなかった。まったく、頭が痛い。




 子爵家の身分から、一気に公爵家の跡継ぎなど、けして幸運とは言えない。むしろ、気を引き締めなければならない立場だ。我が家にも縁をつなごうとする者が次々と現れ、政治的な思惑が絡みつくのは目に見えている。




 ――はぁ、爵位を長男に譲ったら、穏やかに暮らしていこうと思っていたのに。




「なんだよ、可愛い息子のために頑張ってくれよ」




 息子の気安い声が響く。




「……その図体で、何が可愛い息子だ」



 目の前に立つレオナードは、親の私より身長が高く、少年の面影は残っているが、堂々とした雰囲気が漂っていた。次男同様、騎士になれるだけの剣技もある。




「いいか、私は生まれてから死ぬまで子爵家の人間なのだからな! 私の手に負えない案件が来たら、レオナード、お前がなんとかしてくれ」


「おう、任せろ。未来の公爵様に」




 レオナードは、飄々と笑って見せる。





「……ったく、お前というやつは。……本当に大丈夫か? お前は家族に隠れて無理をするからな。あの学院の費用だって、お前が特待生だから何とかなっただけで、本来、三男のお前にまで金などかけてやれなかった。成績が少しでも下がれば、退学だってありえた」




 子爵の令息が特待生――それだけで、嫉妬の目にさらされるのは想像に難くない。あることないこと噂され、陰口を叩かれることもあっただろう。


 そして、これからも――。



 子爵家から公爵家への養子。そんな異例の立場に立てば、卒業後もさらに厳しい目に晒される。嫉妬や反発、時には侮蔑の言葉すら向けられるかもしれない。そんな道を選んだ息子を思うと、自然と心が重くなる。




「リディアと学力を競うというモチベーションがあったからな、気にしないでくれ。父上が思っているより俺は優秀なんだぞ。公爵になる教育など、余裕だ。なにも辛くはない」




 自信ありげに言う息子を見つめる。




「……文官になりたかったのだろう?」


 レオナードは、わずかに目を伏せた。




「……文官を目指した一番の理由は、いずれ爵位がなくなる俺が、友と対等に話すためだ」


「そうだったのか」





 思わず呟く。


 友との身分差など気にしていないように見えたが、……私に気を遣ったか。



 思慮深いレオナードが、何も考えていなかったはずがなかった。


 もちろん、その「友」の中には、グラント侯爵令嬢――リディア嬢も含まれているのだろう。むしろそれが一番の理由に違いない。





「それはそうと、ハンスに聞いたことはあったが……。リディア嬢。まさか、侯爵令嬢だったとは……」


「俺はちゃんと伝えていたぞ。『仲がいいなら婚約者に』と父上たちが前に浮かれてからかっていたのが、リディアだ」


「……こんな子爵家に遊びに来る令嬢が侯爵令嬢だなんて、本気にするわけないだろう? パーティーで侯爵に話しかけられた時は、寿命が縮む思いだった……」



 思い出しただけで胃が痛むというのに、目の前で、レオナードが腹を抱えて笑う。


 他人事のようにしやがって。




「とにかく、私ができることは少ないだろうが……だれよりも応援しているぞ」


「おう」



 いつも飄々としている息子だが、今日は一段と幸せそうだ。はしゃいでいる、と言ってもいい。


 きっと、リディア嬢のことを諦めようと、人知れず悩み、苦しんだのだろう。私が、知っていたとしてもどうしてやることもできなかったが……そう考えると、『仲がいいなら婚約者に』など簡単に言ってしまった私は、悪い父親だな。



 ――だが、息子は、幸運を掴み取った。





 そうだ、レオナードは優秀で、公爵家にくれてやるのが惜しいくらいの自慢の息子だ。……親の私が心配せずとも、彼は自分で未来を切り開いていくだろう。





「……言葉遣いは直せよ、レオナード」


「承知いたしました、父上」




 その調子のよさに、苦笑する。こいつは昔から……。




 それでも――。


 この先、どれほどの困難が待ち受けていようと、レオナードならば乗り越えていくに違いない。一番のモチベーションも傍にいてくれるのだからな。



 そう確信しながら、私は静かに息を吐いた。



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