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【完結】恋は、終わったのです  作者: 楽歩


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36.恋は盲目 sideリディア父

 ー卒業パーティー当日ー side リディア父





 モンクレア伯爵の息子、セオドアは本当に違う令嬢をエスコートしていた。


 私はその光景を目の当たりにし、拳をぎゅっと握り締める。




 ……これで決定だな




 セオドアが我が娘を差し置いて、別の令嬢と寄り添うように入場してくる姿に、会場のざわめきも一層大きくなるのを感じた。




 リディアに聞いた話を、モンクレア伯爵に直接報告することはやめた。そんなことをせずとも、彼が自分の息子の失態を目の当たりにすれば、説明するよりもよほど手っ取り早い。



 同じ親として、これからの彼の心中は察するが、もしモンクレア伯爵がセオドアを説得し、嫌々私の娘をエスコートするよう仕向けたところで、そんなものは、こちらとしても迷惑な話だ。




 卒業パーティーは、娘にとっても一生に一度の大切なもの。心のこもらないエスコートなど、必要ない。





 ——遠くを見ると、モンクレア伯爵が狼狽えているのが分かった。




 当然だろう。


 なにせ、令嬢はセオドアとペアであることが誰の目にも明らかな衣装を身にまとい、この会場に現れたのだから。



 本来それは、リディアのものだった。いや、娘にはあんなドレス似合いはしないが。





 もう、これだけで十分。婚約破棄の有責はセオドアにあると証明できる。帰ったらすぐにでも公爵に手紙を書こう。





 さて——私は、次に向かうべき相手を探す。


 ボーモント子爵は……ああ、あそこにいる方だな。




 静かに、しかし迷いなく彼の元へ歩み寄る。





「いい夜だな、ボーモント子爵」


「はい、そうですね……え?」


 子爵が私の姿を認め、驚いたように目を見開く。





「グラント侯爵……?」


「ええ、お初にお目にかかる、ボーモント子爵」


 私は穏やかに微笑む。





「実は近々、我が娘が婚約破棄ということになりそうでして」


「……なぜ私にそのようなお話を? しかし、それは、何と言うか——」


 ボーモント子爵が戸惑いの色を滲ませる。




「それで、そうなったら、ボーモント子爵の令息に、娘をもらってもらおうと思って子爵に声をかけたのだ」


「は、はい?」


 子爵の目が見開かれる。





「ですが……長男はすでに結婚しておりまして……」


「いや? 三男のレオナード君だ」



「レオナード……でございますか?」


 ボーモント子爵は驚愕したまま、困惑の表情を浮かべた。





「しかし、三男ですので爵位もありませんし……身分差がありすぎます」


「優秀な令息と聞いているが?」


「ええ、文官試験には合格しましたが……それでも、令嬢を妻にできるほどの稼ぎはございません。兄が家督を継げば、ただのレオナードとなります」


「——ああ、それはよいのだ」


 私はゆっくりと頷く。





「リディアの夫となる者は、モンルージュ公爵家に養子となることが決まっている」


「モンルージュ公爵!? く、雲の上の存在ではございませんか……!?」


 子爵の顔色がみるみる変わる。  




「み、身に余り過ぎます……そのような教育もしておりません」


「それでも、レオナード君がその道を選んだなら——祝福してくれるだろうか?」


 子爵は混乱していた。





「レオナードは……身分相応という言葉を知っております……」


「分からないぞ。恋とは盲目だ」




 私は微笑む。





 その時——




「ほら、その二人が入場してきたぞ」


 ふと視線を向けると、レオナード君とリディアが会場へと足を踏み入れる。


 私は思わず笑みを漏らした。





「おお、これは驚いた。なんともお似合いな二人ではないか」


「な、なぜレオナードが令嬢をエスコートして……?」




 子爵の顔が青ざめる。




「恥ずかしながら、リディアの婚約者が不貞を働いておりましてな。おっと、これは内緒にしてくれ」



 私は軽く肩を竦める。まあ、内緒も何も、今日、ほとんどの者が不貞と感じただろうが。




「もしエスコートする者がいなければ、自分がエスコートをとレオナード君が名乗り出てくれたのだ。おかげで、娘も恥をかかずに済んだ。礼を言う」


「い、いえ……それと結婚とは、また別の話では……?」



 子爵は慌てて言葉を返しながら、無意識に背筋を伸ばした。まさかそんな話の流れになるとは思ってもいなかったのだろう。当然だ。



「もともと、娘の婚約者を選んだのは親である私と亡くなった妻だったのだ。それが、こんなことになってしまったため、娘の次の婚約者は、娘が選んだ人物をと約束しましてな」


「令嬢の望み? レオナードは、このことを……」



 慎重に言葉を選びながら、子爵は私に問いかける。





「いや、何も知らない。ただ、いきなり言われても困るだろうからボーモント子爵には、心づもりをと。まあ、レオナード君にその気がなかったら、私の戯言だと思って胸に納めておいてくれ」



「は、はい……」



 子爵の視線は、揺れるグラスの中に落ちていった。


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