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【完結】恋は、終わったのです  作者: 楽歩


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34.お父様にお話が ー卒業パーティー1週間前ー

 レオナードが賭けを持ち出したあの日。


 エスコートの話に、胸が高鳴った。



 そして、卒業パーティーの華やかな光景が脳裏をよぎった。



 輝くシャンデリアの下、幾重にも広がるドレスの裾。ふわりと回るたびに繊細な刺繍が光を弾き、色とりどりの装飾が目を楽しませる。甘く優雅な音楽に合わせ、楽しげに笑い合う卒業生たち。



 そんな中で、私は誰と手を取り合い、踊るのだろう。


 もし、レオナードにエスコートしてもらえたなら。彼の腕の中で、ダンスを踊ることができたら。


 胸が高鳴るのを感じた。



 だが、すぐに冷たい現実に打ち消された。



 卒業が目前に迫る今、少しも恋を終わらせることができていない自分を思い知り、苦笑する。




 エスコートが叶わなくても、せめて一度だけでも彼と踊れたなら――。そんな未練がましい願いを抱いてしまう自分が、ひどく情けなく思えた。




 これまで、セオドアとの関係を皆が心配してくれたとき、私は何度も「大丈夫」と言ってきた。それは彼らを安心させるためではなく、自分自身に言い聞かせるための言葉だったのだと、今になって気づく。



 セオドアとの結婚を心から望んだことなど、一度たりともなかった。




 それでも、貴族令嬢としての役目を果たさねばならないと、自分を戒めた。結局のところ、私は"貴族令嬢"という肩書きに縛られ、自分で自分を檻の中に閉じ込めていたのだ。





 王子殿下ならば、私が踏み出せなかった道を切り開いてくれるだろう。セオドアよりも、王子殿下といた方が幸せになれる。それは間違いない。



 けれど――私は、あの賭けの約束の後、王子殿下の申し出を断った。



 彼の隣で笑う未来を想像してみても、その隣にいるはずの私は、どこかぼやけていた。


 悲し気な王太子殿下の顔を見るのは辛かったが、結局、私は気づいてしまったのだ。




 セオドアとの婚約を破棄してまで結ばれたい相手が、王子殿下ではないと。





 最悪の事態に陥ったとしても、私は侯爵家の名誉回復のために尽くそう。弟の幸せのためにできることは、きっとたくさんある。これまで学び続けてきた努力も、決して無駄にはならない。役立たせられるはずだ。公爵家にも誠意をもって謝罪しよう。


 お父様には迷惑をかけてしまうかもしれない。でも、それでも私は――。




 この願いが叶わないのなら、潔く修道院に入ろう。




 ***




「お父様、お話があります」


「珍しいな。なんだ?」




 机の向こうで書類に目を通していたお父様が、ペンを置いて顔を上げた。深く刻まれた皺が、妻を早くに亡くした侯爵としての苦労の年月を物語っている。領地とこの邸を行き来し、疲れを滲ませた目が、私を見据えた。




「卒業後に開かれる公爵家との話し合いの日のことですが」


「……ああ、もう卒業か。リディアも結婚……いや、先にセオドア君の養子縁組があるな」




 お父様の声には、ほのかに嬉しさが滲んでいた。


 かすかに胸が痛む。お父様のその期待を、私は――裏切るのだ。




「お父様、私、その日に婚約破棄をしようと思います」


「は? なっ、なぜだ?」




 驚愕に目を見開き、お父様が背筋を伸ばす。




「もう限界なのです。恐らく、卒業パーティーでもセオドアは、私をエスコートしません」


「まさか! 親も出席するのだぞ」


「ええ、それでもです。私、ドレスも贈られていませんもの」


「ドレスを? いや、しかし……伯爵は、何カ月も前からドレスをセオドア君が準備していると言っていたが……」




 エマのドレスね、きっと。


 流石にまた、エマと私に同じドレスを贈るなど、そんなことはしないだろう。




「お父様の目で確かめてください。万が一、セオドアにエスコートされなくても、エスコートをしてくれる方はいますのでご安心を」


「ま、待て待て、頭が追い付かん」




 お父様が額を押さえ、困惑する。


 これまで、お父様とて婚約破棄など考えたこともなかったのだろう。けれど、私はもう決めたのだ。




「おそらく、その準備をしているといったドレスを身に纏った令嬢と共に、セオドアは入場するでしょう」


「不貞か!?  そんな馬鹿な。セオドア君は、公爵家の養子になるんだぞ。そんな愚かな真似をするはずが!」




 お父様の声が強まる。未来を思えば当然の反応だろう。それでも、私は静かに頷いた。







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