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【完結】恋は、終わったのです  作者: 楽歩


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33.未来の幕開け

 sideリディア




 *****



「もう、どうしてくれるのよ。結婚式、楽しみにしていたのに。リディアが娘になる日も遠のいたわ」


 公爵夫人の嘆きが部屋に響いた。



 ふわりと揺れるレースのカーテンの向こう、窓から差し込む陽光が床に模様を描く。


 公爵夫人は大げさに肩を落としながらも、その瞳にはまだ楽しげな色が滲んでいた。





「それは大丈夫です」


 落ち着いた口調でお父様が応じる。ちらりと視線を扉の方に向け、私に問う。




「リディア、いるんだろ。外に」


「はい」




 控えめに返事をすると、お父様は、扉の外にいたレオナードを呼ぶように侍女に指示を出した。




 呼び出された彼は、私の隣に案内され、困惑した様子できょろきょろと辺りを見回しながら座った。




『どうなった、うまくいったか?』


 小声で尋ねる彼の声音には、僅かに緊張が滲んでいた。


 私は微かに息を吸い、言葉を選びながら告げる。




「私、セオドアとの婚約がなくなったわ」


 レオナードの瞳が一瞬だけ大きく見開かれる。驚きと、何か別の感情が混ざったような表情。私は続けた。




「この報告書、あなたの言った通り使う日が来たわね。覚えている? 望みを一つだけ叶えることを報酬にしたこと」



 彼は静かに頷く。




「覚えている」


「私は賭けに負けたから、望みは言えないの。でも、あなたの望みときっと一緒よ」


 一瞬の沈黙。空気が張り詰める。



 レオナードは視線を落とし、拳をぎゅっと握りしめた。






「……一緒なわけがない」


「言ってみなくてはわからないわ」



 レオナードが顔を上げ、私を見つめる。



「……言ってもいいのか。俺は王子殿下じゃないぞ」


「あなたの申し込みは、断らないって言ったわ。私」


「……お前の望みと違ったら……笑って断ってくれていい」




 レオナードは深く息を吐き、天を仰ぎ見ると、覚悟を決めたように再び私を見つめた。その目には揺るぎない決意が宿っている。




「……リディア。胸にしまった想いを伝えることは、永遠にないと思っていた。侯爵令嬢である君との夢のような日々。これからは現実に向き合い、生活のために生きる。君は、違う世界の人だと自分に言い聞かせた」



 ゆっくりと、彼は言葉を紡ぐ。




「一つ願いを、本当に願いを叶えてもらえるのなら——君の傍に、婚約者として居たい。何年かかるかわからないが、爵位くらい獲得してみせる。俺の望みを……リディア、叶えてくれ」



 静寂が落ちる。外の木々が風に揺れ、窓の向こうで小鳥がさえずる音だけが響く。



 私は、そっと微笑む。




「ほら、やっぱりあなたの望みは、私の望みだわ」




 彼の目が見開かれる。


 私は立ち上がり、公爵夫妻とお父様に向き直った。




「モンルージュ公爵。彼はボーモント子爵家の三男、レオナードです。私は彼と結婚しますので、どうか彼を養子に迎えてください」



「は? 結婚……養子ってなんだ?」


 レオナードの声が裏返る。私は微笑を深めた。




「私の傍に居たいのでしょう?」


「居たいが、え?」




 困惑する彼の表情に、クスリと笑いがこぼれる。





「彼は、難関の文官試験を一発で合格するほど優秀です。その報告書を作ったのも彼です。子爵家の令息ではありますが、公爵家を背負っていくにふさわしい教養と人柄をもっております。どうかお願いします」



 公爵夫人は私を見つめ、柔らかく微笑んだ。




「私は、リディアが選んだのなら全く構わないわ。ねえ、あなた」



 公爵も頷き、手に持った報告書を眺めながら笑う。




「ああ、私もリディアの見る目を疑うことはしない。それに、この報告書は学生が作ったとは思えないくらいよくできている。これは、何度も定期的にまとめ、書き直していたのだろう。はは、私だったら、ただの友人のためにここまではしない」



 公爵夫人が目を輝かせながら口を挟む。



「ふふ。でも、リディア、彼は初耳なのでしょう? 目に見えて動揺しているわ」



「おま……公爵家って正気か? 俺は……子爵令息だぞ」



 レオナードは、まだ混乱している。それでも、その瞳の奥には確かな熱が灯っていた。


 私は彼の手を取る。





「レオナード、私たちには身分差があるのだもの。あなたには頑張ってもらわないと。爵位くらい獲得して見せるのでしょう? まさか、自信がないの?」


「あるわけ……あー……ある!」



 彼はぐっと息を吸い、手を握ったまま力強く頷いた。




「お前のために頑張ってみせる。任せろ。もちろん、リディアも助けてくれるんだろ?」



 私は微笑んで、しっかりと頷く。



「ええ、もちろん、婚約者として」





 その様子を見ていた公爵夫人が楽しげに笑う。


「素敵ね、あなた!」



 公爵とお父様が穏やかに頷き合う。




「娘のプロポーズに立ち会う親も珍しいな、侯爵」


「はは、そうですね」




 柔らかな笑い声が部屋に満ちた。新たな未来の幕開けが静かに訪れていた。











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