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【完結】恋は、終わったのです  作者: 楽歩


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31.話し合い当日

「……なあ、リディア。次は3年後くらいの再会だと思っていたのに、まさか3日後に呼び出されるとは……俺は、驚きだぞ」




 レオナードの声には、驚きと呆れが入り混じっていた。それでも、どこか嬉しそうな響きがあるのは、気のせいだろうか。



 これからのことについて、セオドアの家と公爵家も含めた話し合いが、我が侯爵家で行われることになっている。



 レオナードの手には、分厚い報告書が入っているであろう封筒が握られていた。





「手紙にも書いたけど、私の今後のために、あなたの記録が必要になったの」



 親も出席するパーティで、明らかにペアと分かる衣装でエマといたのですもの。セオドアは、今日、必ず私に婚約破棄を言い出すわ。お父様とも、既に確認済みだ。



「そうだろう? やっぱりな。ちゃんとまとめてある。安心してくれ」




 レオナードは封筒を軽く叩いてみせると、嬉しそうに私へそれを手渡した。


 手に伝わる紙の重みが、これから向かう話し合いの重大さを物語っているようで、私は無意識に息を詰めた。




「流石に中には入ることはできないけど……扉の外で待っていてくれるかしら」


「いいぞ、何かあったらすぐに呼べ。俺が言い負かしてやる。リディアの弁護は任せておけ」




 彼は自信満々に胸を叩く。その様子に、思わず口元が緩みそうになった。




 皆が集まる部屋の前に立ち、私はレオナードと目を合わせて頷いた。彼もまた、無言で頷き返してくれる。それだけで、気持ちが少しだけ軽くなった気がした。



 深呼吸をひとつ。


 扉が開かれ、私は一人で中へと足を踏み入れた。


 部屋には、すでに全員が揃っていた。




 空気は重く、緊張が張り詰めている。部屋の中央には公爵と夫人、その向かい側には、セオドアの父である伯爵と私の父が静かに座っていた。


 そして——




 セオドアはひどく痛々しい姿だった。頬は腫れ上がり、口元は、青くなっている。まるで、誰かに殴られたような——いや、実際そうなのだろう。




 流石に、エマはいないようね。


 彼女がこの場にいないのは当然のことだろう。でも、セオドアのことだから連れてきてもおかしくはないと思っていた。




「それでは、これから養子縁組の手続きと二人の結婚……」


 公爵が話を始めようとした、その時だった。




「皆さん、少し時間をください!」



 突然、セオドアが勢いよく立ち上がった。椅子が床を擦る音が響き、モンクレア伯爵が慌てて彼を制しようとする。しかし、彼はその手を振り払い、一歩前へと踏み出した。




「私、セオドア・モンクレアは——リディア・グラントとは結婚いたしません!」


 響いた宣言に、広間の空気が張り詰めた。絢爛なシャンデリアの灯りが揺らぎ、深紅のカーペットが張られた床に、緊張の気配が染み込んでいく。



「なっ、お前!」


 セオドアの父である伯爵が驚愕の声を上げた。



 しかし、セオドアは動じず、ただまっすぐに私を見据えていた。その瞳には迷いがなく、決意の色が宿っている。





「モンクレア伯爵、まずは、セオドアの考えを聞こう」



 低く落ち着いた声でそう告げたのは、モンルージュ公爵だった。彼は、静かに息を吐き、鋭い眼光でセオドアを見据えた。




「こんな直前でと思われるかもしれませんが、リディアとでは公爵家を背負っていくことができないのです」




 セオドアは苦しげにそう言った。彼の声は固く、わずかに震えている。




「私も悩みました。でも……」





 彼の拳がぎゅっと握られ、少しの沈黙が流れた。


 その沈黙の中、お父様の声が鋭く響く。





「……セオドア君は、この時期に婚約者がいなくなる娘が、これから社交界で何と言われるかわかっていて発言しているのだろうな」




 まるで氷の刃のように冷たい言葉に、セオドアは一瞬身を強張らせた。社交界とは冷酷なものだ。この時期に婚約がなくなった令嬢がどのような扱いを受けるか、言うまでもなくわかっていての発言だろう。




「私とリディアは、もう半年も話をしていません。元々合わなかった二人なのです。……関係の修復も、もう無理です」



 淡々と語られる事実。




 ——どれもこれも、あなたが原因ですわ。



 言いたい言葉を飲み込む。



 公爵夫人が静かに問いかける。



「セオドア、あなたは本当にそれでいいの?」



 その声は驚くほど穏やかで、決意を確かめるかのようだった。





「一人では、公爵家を背負うことはできません。でも安心してください。私には支えてくれる女性がいます」


 その瞬間、室内の空気が揺れた。




「どちらの令嬢だ?」



 公爵が問いかける。静かな圧がその声に滲む。




「公爵、そして公爵夫人、お二人はよく知っています。お二人のおかげで伯爵令嬢となったエマです!」



 公爵と公爵夫人が目を合わせる。



 お父様の声が低く響く。




「あぁ……君が、パーティーでエスコートした令嬢か? 君とペアの衣装を着た、妙に距離が近かったあの令嬢か?」



 その瞳が細められ、セオドアを睨みつける。


 モンクレア伯爵が、静かに頭を抱えていた。重い沈黙が広間を包む。





「グラント侯爵の言いたいことはよくわかります……私、有責でかまいません。もちろん慰謝料も払います。しかしよくお考えを。モンルージュ公爵家との関係を損なうのは、侯爵とて本意ではないはず。もちろんリディアとの婚約がだめになっても友好関係を維持するため、特別な配慮をいたす所存です。ですから……」



 セオドアは深く息を吸い込む。そして、最後の言葉を強く、はっきりと告げた。




「私とリディアの婚約を破棄し、エマとの婚約を認めてください。私はエマと共に、公爵家を繁栄させることを誓います!」



 セオドアの強い意志を込めた宣言が響き渡った。



 広間の空気が張り詰める中、私の心臓の鼓動は少しずつ早まっていった。



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