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【完結】恋は、終わったのです  作者: 楽歩


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26.時間と共に sideレオナード

 sideレオナード





「レオナード、いいのか?」


 静かな図書室の中で、ダリウスの低い声が耳を打つ。



「何がだ?」


 とぼけるように返したが、ダリウスはじっと俺を見ている。わかっているくせに、と言いたげな目だった。




 図書室の中にある階段を上った先ある大きな窓から見下ろす中庭。普段ほとんど人は訪れない。



 その中央のベンチに並んで座る王子殿下とリディアの姿があった。


 談笑しながら時折、王子殿下が身を乗り出し、リディアが微笑みながら応じる。柔らかな日差しが彼女の髪に降り注ぎ、まるで光をまとったように輝いていた。



 この一か月で、二人の距離は確実に縮まったように思う。




 婚約者……あのセオドアに関して、俺がしてあげられることは少ない。王子殿下の権力で何とかなるなら、それに越したことはない。王子殿下にそのまま大事に守ってもらえれば。



 そう思う。思うのに、胸の奥で何かが軋む音がする。




 王子殿下は人当たりがよく、博識だ。ダリウスの土産の本について、あんなに盛り上がるとは、思わなかった。本の趣味も俺とよく似ている。



 子爵令息の俺にも誠実に接してくれる。ダリウスに紹介してもらった時から、それは伝わっていた。



 王子と侯爵令嬢。身分としても悪くない。むしろ、彼のほうがセオドアより相応しい。


 それでも――




「王子殿下とうまくいったらどうするんだ? リディアのことが気になっているようだったぞ」


 ダリウスの問いに、俺は目を逸らした。




「どうもしないさ。同じ三男でも、俺とは違うだろ」


 口から出た言葉は、自分に言い聞かせているようなものだった。




「レオナード、私たちが一緒にいられる時間は、残り僅かだぞ」


「……ああ、そうだな」


 窓の向こう。リディアの笑顔が目に入る。




 リディアは、セオドアの前では平然としているが、本当は泣き虫だ。

 我慢に我慢を重ね、限界が来るまで泣かない。だけど、もうそんなリディアを見たくない。



 父親同士が計画している事業やいずれ公爵家にはいるという重責、侯爵を継ぐ弟のこと、亡くなった母親のこと。「自分のことだけを考えろ」なんて、安易に言えるわけがない。


 子爵家の三男では、結局リディアを守ろうとしても迷惑になるのは目に見えていた。気持ちだけではどうにもできない。それが、ただ辛い。




「お前の手に持っているその袋はどうするんだ。リディアに渡すんじゃなかったのか?」



 ダリウスが指さしたのは、小さな紙袋だった。中には、ハンスが作ったクッキーが入っている。



「……ああ、カタリナに渡してくれ」


 俺は、ダリウスにそれを押しつけようとする。




「カタリナに? 本当にいいのか? ハンスに聞かれたらどうする。リディアに渡すためにハンスが作ったんだろう?」



 ハンスのはしゃぐ声が脳裏をかすめる。



『リディア様、最高です! あんなに美味しそうにたくさん食べてくれるなんて、作り甲斐があります。このクッキーにはナッツが入ってましてね、自信作なんです。きっと嬉しそうに食べてくださるでしょうね。お坊ちゃま、絶対渡してきてくださいよ!』



 ……わかってる。わかってるけど。




「適当にごまかすさ。……あっ、そうだ。カタリナには無駄なダイエットはやめろって、俺が言ってたと伝えてくれ」


「まったく、お前たちは仲がいいんだか悪いんだか……」


 ダリウスは苦笑しながら袋を受け取る。




「まあ、そう言ったら一人では食べないだろう。リディアの口にも入る」


「なるほどな」



 ハンスはリディアに会ってから、すっかりファンになってしまったらしい。



『リディア様がフリーになったら、すぐにでも婚約者に!』などと無茶を言い出し、両親まで悪ノリする始末だった。



 ……身分を考えたら、婚約者がいなくなっても無理だろ。




 冗談のつもりだろうが、勘弁してほしい。




 こっちは、必死であきらめようとしているのに。


 自分の心に言い聞かせ、それでも、想うだけなら卒業するまでは許してもらえるか、卒業までにはこの想いを終わらせると、ずるずる諦めきれない甘い自分に苦しめられているというのに。





 ダリウスの言う通り、あと僅かだ。


 あの瞳に映るのも、声を聞くのも、毎日ではなくなる。


 想いは、時間と共に薄れていくのだろうか。





 手の届かない距離に行ってしまっても、せめて笑って生きていてほしい。隣にいるのが俺ではない他の誰かでも。


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