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その手紙、異世界にもお届けします  作者: 冲田


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第2話 謎の手紙

 ある日のことだ。

 侑惺(ゆうせい)はまた、女性に(つか)まっていた。学校から一人で帰っていたところを、腕を(つか)まれるという強引な方法で呼び止められたのだ。


「お願い、配達の人! この手紙を届けてください!」


 おそらく自分より歳上で、同じ学校ではなさそうな、金髪の女性だった。

 侑惺が「あの……」と口を開きかけたところで、その女性は侑惺の手にねじ込むように封筒を押し付けると、切羽詰まった様子で走り去ってしまった。


「この手紙をどうしろって? それに、配達の人ってひどくない?」


 思わず独り言をもらす。わざわざ自分に託すのだから、きっといつものように後藤(あて)の手紙だろう。他校の歳上にまでモテてることに(なか)(あき)れながら、侑惺は手の中でぐしゃりと(つぶ)れた封筒を見た。


「あれ……? 違うな、これ」


 封筒に書かれた宛名と思われる文字は、どこか英語圏以外の外国語のようで、侑惺にはさっぱり読めない。切手もなければ住所もない。


「実は後藤宛て? それとも違う?

 うーん……マジでどうしたらいいの、これ」


 途方(とほう)()れたという面持(おもも)ちで、封筒と(にら)めっこしていた顔をあげると、ものすごい数のカラスに囲まれていることに気がついた。

 生ゴミの袋を(ねら)うという感じでもなく、どのカラスもこちらを見てる気がして、侑惺は身の危険を感じた。手紙をポケットに入れ、刺激しないようにそろりと一歩、踏み出す。

 渾身(こんしん)忍足(しのびあし)はまったく効果はなく、まるでそれを合図としたかのようにカラスが飛び立ったので、侑惺は慌てて走り出す。


 なんだか最近、カラスが多いなぁとは感じていた。正確には、カラスみたいな黒い鳥。けれど侑惺が友達にそれを言っても「そうでもない」と返されるし、自分の考えすぎかとも思っていた。

 それが、こうやって(わけ)もなく人を襲うとなっては、「多いなぁ」とか「考えすぎ」では済まない。

 侑惺は全速力で逃げながら、背後の様子をちらと見る。カラスに襲われているというだけでもおかしな状況だというのに、いつの間にかカラスに混じって黒い山羊が突進(とっしん)してきていた。

 (つの)が立派な、小さい頃に絵本で読んだ“がらがらどん”のような山羊だ。

 間一髪でその突進を()けるも、山羊は闘牛(とうぎゅう)のようにまたこっちに向かってくる。


 ここは、なんの変哲(へんてつ)もない住宅街だ。侑惺の他にも人はいるというのに、この異様な光景を気にする人はいない。どちらかというと、まるで何かから逃げるように()けている侑惺の仕草(しぐさ)奇異(きい)の目を向けているふしがある。


 侑惺は人一人がようやく入れるくらいの建物の隙間(すきま)に飛び込んだ。

 狙い通り、大きな山羊は入ってこれなさそうで、少しだけホッとして息をつく。ただしカラスはお(かま)いなしで、隙間に入ってきていた。


「ほんと、なんなんだよ! この状況!」


 学生カバンを(たて)にしてカラスの猛攻(もうこう)を防ぎながら後ずさっていると、ぐいっと強い力で学ランの詰襟(つめえり)をひっぱられる。侑惺がバランスを崩して尻餅(しりもち)をついたその頭上を、ひらりと人影が飛び越えた。次の瞬間、吹き飛ばされそうな強い風が吹いたかと思うとさっきまで眼前にいたカラスは消えていた。


「逃げるよ」

 侑惺の目の前に立つ男が言った。かなりの長身で、綺麗という言葉が似合う顔立ちをした男性だ。


「え?」

黒山羊(くろやぎ)の狙いは君の持っている手紙だ。今のうちに、早く」


 男は侑惺の腕をひっぱって立ち上がらせると、路地とも呼べないこのせまい隙間の奥へ行くように促した。

 隙間を抜けると、男は侑惺の腕を掴んだまま、足早にどこかに向かう。


「えっと……どこに行くんですか? 黒山羊ってあのでっかい黒い牛みたいなやつのことですか?」

「四つ足は大型の黒山羊。鳥っぽいのが、小型の黒山羊」

「あの鳥は、カラスじゃないの? 山羊(やぎ)?」

「そう。姿は確かに似ているけど、まったく違う生き物だよ。手紙が黒山羊たちの(えさ)なんだ。

 君の持っている手紙が、よっぽど美味しそうな匂いでもさせていたのかもね」

「意味わかんない……」

「詳しいことは中央郵便局で説明があると思う」

「郵便局って……あの郵便局?」

「“あの”が指しているものはわからないけど、おそらく違うんじゃないかな」


 男はいつの間にか掴んでいた手を離していたけれど、侑惺はそれでも彼についていっていた。

 彼になんだか怪しさがあったことは間違いない。けれど、なにより、自分がなぜあんな目にあったのか、謎を解きたいと思ったし、不思議と彼の声色(こわいろ)には信じても良いと思えるような安心感があった。


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