第1話 ラブレター
中学生になってから増えたなぁと思うこと。彼にとってそれはそこらへんを飛んでいるカラスの数と、それから……。
「あの……嵯川くん、ちょっといい?」
少しはにかんだような表情で、クラスの女子は彼の学生服の裾をひっぱる。そうやって廊下に出るように促された嵯川侑惺は、階段下という少し人目が遮られる場所まで連れて行かれた。
「えっと、この手紙なんだけど……」
女子はおずおずと淡いピンク色の封筒を侑惺に差し出す。
いつもここまでは、ひょっとして? と侑惺も期待をするのだ。
女子は中学生になってから、恋の話が格段に増えた。小学生の頃とは比較にならないほど浮き足立って、恋人になってくれる人を探している。
だから、自分の番がそろそろ回ってきてもいいのではないか、なんて、男子中学生としてはソワソワしても仕方がない。
「この手紙、後藤くんに渡してもらえないかな……」
「うん、知ってた!」
侑惺は、隠すこともなく、大きくため息をついた。女子の顔がムッと歪む。
「自分がモテないからって、あからさまに嫌そうな顔しないでよ!」
「文句があるなら、俺を介さないで自分で渡せば⁉︎」
「だって、他のクラスに行って、皆んなの前で後藤くん呼び出してって? ハードル高すぎるでしょ! だから、恥を忍んであんたに頼んでるのにー!」
「じゃあ、なんでラブレターなんて方法を選ぶわけ?」
「だって、連絡先知らないし……チャットで告ったら百%振られるって噂だし……直接とかさらにムリだし……」
「手紙だから成功率が上がるとも思わないけど」
「『直筆の手紙がいいな』って後藤くん本人が言ってたって、確かな情報があるんだってば!
とにかく! お願い! 後藤くんの幼馴染で親友の嵯川くんに頼むしかないんだよぉ!」
「……渡すだけだからな。どうなっても俺の責任じゃないからな?」
「もちろんだよ! わぁい、ありがとう!」
そう。侑惺が最近増えたなぁと思うことは、友達宛てのラブレターの配達を頼まれること。
クラスメイトに限らず、もう何通もの手紙を後藤に届けている。
侑惺はなんとも憂鬱な気分で、受け取った手紙をポケットに入れた。
放課後、後藤と一緒に帰路についた侑惺は、女子から受け取った手紙を渡した。
後藤は実際、とんでもないイケメンで、女子が熱狂するのも無理はなかった。中一とは思えないくらい既に背が高いし、目鼻立ちもモデルやアイドルのように整っている。見た目だけではなく外面もすこぶる良いので、好かれやすい。
侑惺が知っている限り、幼稚園の時は何人もの女の子が後藤と結婚の約束をしようとしてたし、小学生の時もモテエピソードには事欠かなかった。
後藤は「ありがとう」と手紙を受け取りながらも、一瞥しただけでそれをぐしゃりと握りつぶした。
侑惺が手紙を受け取って憂鬱な気分になるのは、何も友達ばかりがモテて自分がモテないからというだけではない。この結果が想像できるからだった。
「えー……。中身くらい確認しろよ。薄情なやつだな」
「自分で届けるべき手紙を人に託している時点で読む価値なんてないよ」
「そう言って、一応持って帰ってはいるんだから、本当はこっそり読んでる?」
「いや、そのへんに捨てるわけにはいかないからってだけ」
「どうせ手紙の辿る末路がそれならさ、一切受け取らないって言ってしまえばいいんじゃないの? 俺の手間も減るし」
「手紙をもらえるのは嬉しいよ」
「意味わからん。読まないくせに」
こんな薄情なやつだと知っていても、女子はまたコイツに宛てて、手紙を書くのだろうか。世の中不公平なもんだと、侑惺はまたため息をついた。




