チャプター3 釘を刺す少女
病室のベッドの中で、弓子はウキウキしていた。
というのも、ついさっき担当医の先生から、「治療の経過も順調だ。だから9月には退院可能だ。」というお墨付きをもらったのだ。
去年あの人が言ってたことはウソじゃなかった。
私は高校受験に間に合うんだ。
雪村君にもまた逢える。
弓子は嬉しくて仕方が無かった。
と、そこへ病室のドアがノックされた。
あれ?先生また戻ってきたのかしら?
弓子が返事をすると、制服を着た少女が入ってきた。
「お久しぶりね。もうすっかり良くなったみたいね。」
それは同級生の村田京子だった。
「ありがとう…急にどうしたの?」
よく考えたら、小学校以来、あまり親しく話したりしていない彼女の登場に、弓子はいささか戸惑っていた。
京子は病室の花瓶に赤いバラの花束を飾ると、振り返ってこう言った。
「アナタにはウソが通じないのは分かっているので、単刀直入に言います。」
「雪村君のことは、私にまかせて諦めてください。」
「!?」
「アナタも雪村君のことが気になっていたのでしょう?はっきりしたのは、あの誕生日会のころかしらね。」
「…。」
京子はしゃべり続ける。
「雪村君はね⋯何者かに常に狙われているの。」
「残念ながらアナタのチカラでは雪村君を守り切れない。」
「…でも、私ならできる。」
彼女はウソを言っていない。弓子には分かった。
「この世に男なんて星の数ほどいるわけだし…悪いけど今回は私に譲ってね。」
この人はいきなりやって来て、ナニを勝手なことを言ってるんだ。
弓子はそう思いつつも、彼女の内側からにじみ出る、底知れない重圧を感じて黙っていた。
「あとは私に任せて、アナタは安心して治療に専念してね。」
「じゃあ、要件はそれだけだから。お大事にね。」
言いたいことだけ言って、彼女は病室から去って行った。
あとに残された弓子は、戦わずして、すっかり負けた気分だった。
こんなことは人生で初めての経験だった。
「格の違い」を見せつけられたような感じがした。
コレが1979年8月某日のことである。




