表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

チャプター1 朝の日課

 早速ですが、前作「セーラー服と雪女」からのスピンオフ第1弾です。

 今回は、より読みやすい短編です。

 こちらから先に読んでも、本編から読んでも楽しめる構造です。

 よろしかったら、両方どうぞ(>_<)

 酒井弓子は走っていた。

 別に遅刻ギリギリだなんていうことはない。

 ただ毎朝、学校に着いたら、やりたいことがあるのだ。

 

 四年三組の教室にたどり着くと、すぐに自分の机にランドセルを放り出す。

 その後は、真っすぐ運動場の西側に向かう。

 そこには、樹齢50年ほどのクスノキがあった。


「さあ、今日はどこまで登ってやろうかしら。」

 独り言を言いつつ、まずはすぐ横にある鉄棒に手を掛ける。

 器用に鉄棒の上に立つと、ひらりと木に飛び移る。


 朝、誰にも邪魔されずに、この木の上の方まで登っていくことが、弓子の至福の時間なのだ。


 弓子が木のてっぺんから中ほどの枝に手を掛けた時、そこに人影があるのを見つけてギョッとした。


「あら、いらっしゃい。やっぱり今日も来たのね。」

 その人影がしゃべりだした。

 弓子はびっくりして、もう少しで木から滑り落ちるところだった。


「気をつけてよ。この木、見た目より滑りやすいから。」

 弓子を見下ろしながら、笑顔でその人影はしゃべり続ける。


 人影の正体は少女だった。

「セーラー服を着た中学生?…ううん、もっと年上、高校生かな?」

 弓子は首をかしげたが、判別がつかなかった。


「えっと、誰ですか?ここは小学校ですけど、こんなところで何をしているのですか?」

 弓子はその人物に、勇気をふり絞って訊いてみた。

 よく見ると、なかなかの美人だ。

 私と同じくらい肌の色が白いかしら。


「一つ目の質問には答えにくいなあ。まあ、私は、ある少年の義理の姉、みたいなものよ。それからその少年はね、アナタのことがチョット好きなの。」

「二つ目の答えは、アナタをここで待っていたの。」

 お姉さんは、キレイなピンク色の唇で答える。


「実は私ね、ここ一カ月ほどのアナタの行動を観測していたの。もう、毎朝同じことをしてるから、失礼だけどちょっと笑っちゃったわ。」

 くっくっく、と実際そこで笑ってから少女は話を続ける。

 観測ってヘンな言い方。観察じゃないのかな。

 それにしても、素敵な瞳。見ていると吸い込まれそうな褐色だ。


「昭和の女子小学生って、よほど娯楽がないのねえ。」

 彼女にそう言われると、弓子はプライドが傷ついた気がした。

「どんなことを趣味にしようが、私の勝手でしょ?」

 そう言うと、少女は真顔になった。


「ああ、コレは失礼。アナタの言うことはもっともだね。謝るよ。」

 あれ?この人年上なのに、なんだか素直だぞ?


 木登りをしていると、周りの人たちからいつも文句を言われた。

 母も、先生も、同級生の男子たちからも。


 でも、なんでだろう。

 言われれば、言われるほど「もっと高いところまで登ってやる!」っていう気持ちが湧いてくる。


「ただ二つだけ言わせて欲しいの。」

 彼女は続ける。


「まず、アナタがもしも木から落ちて、ケガをしたり死んだりしたら、私の弟がショックで落ち込んでしまうんだ。だから…その…やめろとは言わないけど、ほどほどにして欲しい。」

「そう…なんですね?」

 弓子はその弟とやらに何となく思い当たる気がした。

 なぜ今、雪村君のことが頭に浮かんでしまったのだろう。


「それから二つ目だけど…。」

「何かしら?」

「木に登る時の服装なんだけど、もうちょっと…何とかならないのかなあって。」


 弓子はギンガムチェック柄でミニ丈のワンピースを着ていた。

 袖口と襟元に可愛らしい白のフリルのついたやつだ。

 確かに今、下から誰かがやって来たら、白い下着が丸見えだろう。

 そう思ったら急に顔が熱くなってきた。


「…じゃあ、用は済んだから、コレで失礼するわね。」

 セーラー服のお姉さんはそう言うと、二つにまとめたお下げ髪を振りながら、さらに木の上の方に登って行った。

 そして、あっという間に見えなくなってしまった。


「お姉さんも、紫のパンツ丸見えじゃん。」

 頬を赤らめたまま、弓子は捨て台詞を吐いてしまうのだった。


 コレが1974年10月某日のことである。



挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ