窓の奥
ある夜、
私はレースカーテンを通して、ぼんやりと外の灯りを眺めていた。
理由はない。
ただ、そうするのが当たり前のような気がしていた。
風もなく、音もない。
ガラス越しの世界は静かで、どこか遠くに感じられる。
私の目に映るのは、暗がりの中で点滅する街灯の光、
ぎこちなく這い入るブリキの腕――
透き通った多層ガラスより、
濁った単一の窓のほうが、私の心にはマッチしていた。
……あれ? 腕……?
気づいた瞬間、
濁った“それ”が、私の動きを止めた。
体は動かない。
声も出ない。
“私”ももう、そこにはいなかった。
翌朝、私のようなものがまた、
何事もなかったかのように、日常を始めた。
あなたも窓を眺めてみよう。