大雨
――数日後
「また雨じゃないの!」
同じ家近くのアーケードで私は数日前にも出会った状況になっていた…なぜこんな夜になってから雨が降るのか、そして何故コンビニの在庫は空なのか。店員の職務怠慢なんじゃないの!?
そう憤りながら進んでいくと
「そこの方、傘は如何かね?」
「ん!?」
横を振り向くと見覚えのある看板とずらっと並んだ傘。そして相変わらずの人の良さそうな男が奥から顔を覗かせていた。
しまった!つい店の前を通ってしまった…あの傘を返してないし何か言われるかも!
「そう、そこで足を止めたお嬢さんだ」
「わ、私よね?」
他に歩いてる人はいないものね…はぁ、面倒だわ。
「ああ、どうだい?傘を借りんかね?」
「借りるって」
私はもう借りてるんだけど…何か変ね?
「ああ、そこの看板に書かれているだろうが傘貸しをやっていてね。貸すのだから返してもらう必要はあるが、ボランティアのようなものだから料金は取っていないよ」
これも前に聞いたことがある…う~ん。
「おっと、もしかして私が目を閉じていることが疑問かい?こうなるまで色々あってね…」
なるほど!目が見えてないから私のことがわからないのね!なら声で覚えてないのかって思うけど、確か声ってすぐに忘れちゃうって話だし、私のことを覚えてないのね…これはチャンスよ!
「あらそうなの…じっと見てしまってごめんなさいね」
「いえいえ。それで如何なさいますか?」
「そうね、雨は止みそうにないしそうするわ」
そして悩んで右往左往する振りをしながら、前日から気になっていた青色の傘を選び開く。
「金色のツタ模様で縁取られたオシャレな傘ね…これにするわ!」
「畏まりました…ではこちらに記帳をお願いたします」
言われたとおりにまたノートに名前を書く…パラパラとページを開くと前回と同じノートなのか自分の名前が書かれているのが確認出来た。目が見えないのにこれに書く意味なんてあるのかしら…それにしても、前のページの名前が減っているような…気のせいよね?
「書けたわ」
「ではお返しを…確かにお受け取り致しました」
その時に何気なく手のひらを見たが、人差指の下のから小指の下までの線が真っ直ぐ繋がっているのがハッキリと見えた…マスカケ線だっけ?流石儲けている人は手相も違うのね。
「お貸しした傘は雨の日であればそのままお受け取りいたしますが、晴れの日は店前にある傘立てに戻していただけると助かります」
「了解よ、それじゃ借りてくわね」
「ええ、またのお越しを…」
彼女はまた気に入った傘が手に入ったと上機嫌で帰って行った。
その青色の傘は、黄色の傘と同じ傘立てに置かれたが――やはり不自然なほど乾きが良かったという。