表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/30

第08話 噂大爆発!?

「ねえ祐くん、ほんとに一緒に登校していいの?」


「……いいけど、絶対目立つぞ?」


月曜の朝。

玄関で靴を履いていると、隣でにこにこしている天宮さん。


昨日のデートの余韻がまだ抜けない。

スマホのロック画面は、プリクラの笑顔写真に変わっている。


「いいの。だってもう、祐くんの“お試し彼女”じゃなくて、“公認彼女”だから!」


どこでその称号もらったんだよ、と思いながらも否定はできない。


母はキッチンから

「ふたりとも行ってらっしゃい~!」

と手を振ってくる。

もはや親子ぐるみの“本気交際”扱い。


「じゃ、手つないで行こ?」


「おい、朝から飛ばしすぎ……!」


「大丈夫、恥ずかしいのは最初だけ!」


駅までの道すがら、クラスメイトや近所の人に出会うたび、


「うわ、田所が天宮さんと手繋いでる!」

「え!? ガチ!?」

「昨日も一緒だったらしいぞ!」


――噂が秒速で拡散されていく。


◇ ◇ ◇


教室に着くと、男子連中の視線が痛い。


「田所……お前、リアルで爆発してくれ」


「天宮さん、昨日のデートマジだったの!?」


「おい、どういう経緯でそうなった!?」


俺は机に頭を伏せて、できるだけ空気になる作戦を取る。


だが、天宮さんはいつも通りに明るい。


「おはようみんな! 祐くんとデート楽しかったよ!」


教室の空気が、キィィン……と緊張する。

委員長の浅野が、冷静に分析モードに入る。


「田所、お前、何したんだ?」


「……別に、普通にデートしただけで……」


「“普通”の範囲、越えてるからな?」


「だよなぁ……」


俺の人生、ここにきて急カーブ。


◇ ◇ ◇


放課後――


「なぁ、天宮さん、今日帰りはどうする?」


「もちろん一緒に帰るよ? 祐くん、“本気の彼氏”は同伴が義務だよ!」


「そういう校則あったっけ?」


「心の校則!」


そう言って、さっさと俺の腕に自分の手を絡めてくる。


廊下を歩くだけで、上級生・下級生の女子グループがヒソヒソ。


「やっぱり天宮さん、本命なのかな……」

「田所くん、地味に見えてやるわね……」


いやいや、俺はただ流されてるだけで……

と思いながらも、隣の彼女の笑顔を見てると、

“流されてる”のが心地よくなってきている自分に気づく。


◇ ◇ ◇


下校時、駅まで歩く道すがら――

男子たちが遠巻きにヒソヒソしているのが見える。


「マジで付き合ってんの、あれ……」

「田所、急にリア充になりすぎ……」

「なんで俺じゃないんだ……」


天宮さんは全然気にせず、手をぎゅっと握る。


「祐くん、今日も楽しかったね」


「学校であんなに噂になるとは思わなかった……」


「大丈夫、最初だけだよ。みんな慣れれば“普通のカップル”扱いになるから」


「いや、天宮さん基準の“普通”は……」


「……でもね」


彼女は急に足を止めて、俺の顔をじっと見た。


「……祐くん、今日、ちょっとそっけなかったよね?」


「えっ?」


「教室でも廊下でも、私と一緒にいると、ちょっと恥ずかしそうだった」


「あ、いや、その……今まであんまり目立つタイプじゃなかったから」


「そっか。……でも、私といるときは、もっと自然に笑っててほしいな」


天宮さんの言葉は、いつもまっすぐだ。

ちょっとズルいくらいに、俺の心の奥を突いてくる。


「……ごめん。なんか、まだ慣れてなくて」


「ううん、いいんだよ。私も本当はね、今日一日すごくドキドキしてた」


「え? 天宮さんでも?」


「だって、祐くんの隣にいるのって、すごく特別だから」


そう言って、ふっと微笑む。


俺は思わず、

「じゃあ、今度は俺の方から手を繋いでもいい?」


と、言ってしまった。


「えっ、ほんと?」


「……本気の彼氏、目指してるから」


天宮さんは目を丸くして、

そのまま俺の腕にぎゅっとしがみついた。


「うれしい! やっと祐くんが“本気”って言ってくれた!」


「いや、まだ目指してるだけだからな!?」


ふたりで笑い合いながら、

家路を歩いた。


◇ ◇ ◇


家の前で別れるとき、天宮さんは小さな声で呟いた。


「……ねぇ祐くん、“お試し”の期限、そろそろ決めてもいい?」


「どういう意味?」


「ううん、なんでもない! 明日も、朝迎えに行くからね!」


玄関ドアの前で、

俺は思わず天を仰いだ。


こんな毎日が、“普通”になっていく。


それはきっと、すごく幸せなことなんだと思う。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ