第06話 お試し彼女と、初めての休日
まぶしい朝日がカーテン越しに差し込む。
いつもより静かな朝。
俺の部屋の空気が、どこかいつもと違うのは――
ベッドの横に、天宮 澪が寝息を立てているからだ。
昨日は雨で帰れず、泊まることになった。
彼女は俺のパーカー姿のまま、布団を占領している。
時計を確認すると、まだ7時。
しばらくそのまま見ていたが、
ふと、澪のまぶたがピクリと動く。
「……おはよう、祐くん」
「お、おはよう。よく眠れた?」
「うん……祐くんの隣、すごく安心した。
でも制服、ちょっとしわになっちゃった」
「それは俺のせいじゃないだろ」
「ううん、祐くんのせい。隣にいたから……」
むくれ顔で布団を抱きしめる姿が、反則級に可愛い。
「それより……お腹空いたね。朝ごはん、一緒に作らない?」
「えっ、いいの?」
「もちろん!祐くんの冷蔵庫、見せてね」
◇ ◇ ◇
キッチンに立つ天宮さんは、いつもより頼もしい。
パーカーの袖をまくって、髪をざっくりまとめて、
冷蔵庫をチェックし始めた。
「卵、ウィンナー、トマト……あ、パンもあるね!」
「冷凍ごはんも残ってるけど……」
「じゃあオムライス! 祐くん、トマト刻んで?」
「お、おう」
言われるがままに作業開始。
天宮さんは慣れた手つきで卵を割り、ウィンナーをカット。
途中、包丁を落としそうになって、ふたりで笑い合う。
「祐くん、料理手伝い得意じゃないでしょ?」
「見抜かれてる……」
「でも、こうやって一緒に作るの、いいなって思った」
「なんか、家族みたいだな」
「そうだね……」
彼女のほほが、少しだけ赤くなる。
「“お試し”なのに、家族ごっこみたいなことしちゃって、ごめんね」
「いや、全然。むしろ……楽しい」
「よかった!」
◇ ◇ ◇
出来上がったオムライスとウィンナー、トマトサラダ。
ふたりでダイニングに並べて座る。
「いただきます」
「いただきます!」
食卓を挟んで向かい合うと、
いつもの学校よりも距離が近く感じる。
「祐くん、オムライス美味しい?」
「うん、めっちゃ美味い。天宮さん、料理上手なんだな」
「えへへ……もっと褒めていいよ?」
「……カフェで出てきてもおかしくないレベル」
「それは言いすぎだって!」
ふたりで笑い合いながら、
なんだか“家族みたい”な朝が、静かに過ぎていく。
「ねぇ祐くん。
……もし、“お試し”じゃなくなったら、
こういう朝、毎日でもいい?」
「――それは……」
正直、うれしい。
でも、まだどこかで恥ずかしさが勝って、
はっきり言葉にできなかった。
「……考えとく」
「そっか。じゃあ、その日を楽しみにしてる」
天宮さんは、ふんわり笑った。
◇ ◇ ◇
ご飯が終わるころ、玄関のドアがカチャリと開く音。
「ただいまー……あら、澪ちゃん!?」
「お、お母さんお帰りなさいっ!」
「朝から一緒に朝食なんて、もう家族ね!」
「いや、違うから!!」
……こうして俺の“家族公認彼女”ロードは、
どんどん現実味を帯びていくのだった。