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第04話 お試しの彼女が、俺の家族に"ご挨拶"しにきた

金曜の夕方。

帰宅して靴を脱いだ瞬間、玄関から聞こえてきた母の声がこれだった。


「まあまあ、澪ちゃんったらお料理までできちゃうの? あなたお嫁さんに来なさいよぉ〜!」


え?


いま、俺の母親が天宮さんにプロポーズしかけた?


「いえいえ~、そんな、まだ高校生ですしぃ~! でも、祐くんの胃袋は全力で掴んでいく所存ですっ!」


やばい。なにこの会話。


玄関からリビングへとそろそろ覗き込むと――

我が家のソファで、お茶を飲みながらめっちゃくつろいでる天宮 澪の姿があった。


「……え? なんで?」


「おかえり祐くん! 遅かったね! 今日はね、お母さんと親睦を深めに来ました!」


「待って待って、話が飛躍しすぎてるから」


「だって“お試し彼女”としても、家族との距離はちゃんと測っとかないと!」


「“彼女”より先に“嫁”として距離詰めてるんだよ!」


◇ ◇ ◇


経緯はこうだ。


放課後、俺が図書室当番で遅くなっているあいだに、

天宮さんが我が家の前まで来て、「祐くんと連絡取れなくて……心配で……」という大義名分でインターホンを鳴らし、

そこに出てきた母と意気投合し、そのまま上がり込んだ。


らしい。


「……なんで親と意気投合するのそんな早いの」


「お母さん、面白いんだもん!」


俺の母は、天宮さんが来たことにむしろテンション上がってる。


「祐! あんな素敵な子が彼女なんて、どうして今まで隠してたの!?」


「隠してたっていうか、まだ“お試し”で……」


「“お試し”であんな弁当作れる子がいるか!」


「俺より評価高いのやめてくれ」


◇ ◇ ◇


夕飯も当然のように一緒だった。


しかも母は、普段出さない高級冷凍餃子を惜しみなく開封し、

「今日は澪ちゃんが来てくれてるから特別よ〜!」と張り切っている。


食卓では、天宮さんが俺の過去の失敗談(中2の劇で王様役なのに台詞飛ばした話)をなぜか知っていて暴露し、

母が大爆笑。

俺は黙々と白飯を食べた。


「祐くん、黙って食べるときは怒ってるサインなの?」


「違う。精神を保ってるだけだよ……」


◇ ◇ ◇


夕食後、玄関で天宮さんを見送るとき、彼女はしれっとこんなことを言った。


「ねぇ祐くん、私のこと、家族に紹介するのって、恥ずかしい?」


「いや、普通に考えて早すぎるっていうか、むしろ俺が追いついてないっていうか……」


「ふふ、でもお母さん、すっごく嬉しそうだったよ?」


たしかに、母の顔にはしっかり「早く結婚して孫見せて」みたいなオーラが浮かんでいた。


「私はね、祐くんの世界の一部になりたいんだ」


その言葉に、思わず返事ができなかった。


彼女の言葉は、いつも少し唐突で、でも嘘がなくて。


「……じゃあ、俺もそろそろ“お試し”やめなきゃダメかもな」


「うん。祐くんが“本気”になってくれるの、ずっと待ってるよ」


にこっと笑って手を振る彼女を見送りながら、

俺の心の中にはひとつの確信が芽生えていた。


――たぶん、

この人といるのが“当たり前”になる日は、そう遠くない。


◇ ◇ ◇


部屋に戻ると、机の上に母からのメモが残されていた。


「澪ちゃん、また来るって!次は一緒にケーキ作るって張り切ってたから、あなたも手伝いなさい!」


母公認すぎる。


お試し彼女、いつの間にか家庭内ランクS級彼女に昇格してました。

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