第03話 "お弁当"が2段から3段に増えている件
月曜日の朝、教室の席に着くと、机の上にすでに置かれていた。
そう、天宮澪製・3段弁当箱である。
「……え、増えてない?」
「増えたよ?」
即答。
「先週金曜は1段だったよね? 土曜は山登りで2段……。で、今日は?」
「3段!」
「いや進化しすぎでは?」
「だって、交際3日目だもん」
「……進化と日数比例させるタイプか……」
弁当の中身は、
1段目→唐揚げ・照り焼きチキン・焼きウィンナー
2段目→野菜(彩り)・俺の好物・マカロニサラダ
3段目→白米、上には海苔とふりかけで“たどころ”の文字。
「……名前入り?」
「好きな人の名前、毎朝つくるのちょっと楽しいんだ~!」
「え、あの、俺まだ“試用期間”なんだけど……」
「気づいてないの? 今、キャンペーン期間終了して、正式リリース中だよ?」
「勝手にリリースするな!?」
◇ ◇ ◇
昼休み、弁当を開けた俺を取り囲む男たち。
「なにこれ、プロの仕業?」
「この海苔アートすごない?」
「てか“お試し交際”って、聞いてた話とちげぇ!」
「正式サービス開始されてたわ……」
俺の周囲の評価が爆速で更新されている。
とくに、クラス委員の浅野からは、
「祐、お前……羨ましすぎて死ね」
と、ストレートな祝福(?)の言葉をいただいた。
……違うんだ。
俺も若干、展開についていけてないんだ。
◇ ◇ ◇
放課後。
下駄箱で靴を履いていると、背後からポンと背中を叩かれる。
「あ、祐くん!」
「わっ、びっくりした。……天宮さん、下校一緒に?」
「うん。だって“彼女”だから!」
「……強いな、言い切り方が」
「えへへ、慣れてくれてきた?」
「まあ……なんか、“これが日常なんだ”って諦めが」
「それ、いい意味で受け取るね!」
彼女は腕を組んで歩きながら、急に真面目な顔をする。
「ねぇ祐くん、“お試し”って、誰のためにやってると思う?」
「え? お互いのためじゃないの?」
「それもあるけど――私は、自分に“本気になれるか”試したかった」
その横顔は、意外なほどまっすぐだった。
「誰かに本気で恋して、全部ぶつけて、それで嫌われたらどうしようって……ずっと怖かったの。だから逆に、“ふざけた感じ”で始めてみたの」
「……それで、結果は?」
彼女は俺を見て、小さく笑った。
「今のとこ、かなりいい感じ」
「……ずるいな、それ」
「でしょ?」
◇ ◇ ◇
帰り道、彼女が唐突に言い出した。
「ねぇ、次のデート、どこ行きたい?」
「まだ回復してないんだけど……」
「じゃあ、私が決めていい?」
「……どうせ聞いても聞かなくても決めるでしょ?」
「わかってるじゃーん! 祐くん、順応早くて助かる〜!」
たぶん俺の人生、ここから先ずっと振り回される。
でも、
――それはそれで、悪くない。